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Case 65-1:【依代が大きすぎる為、未検証】

2021年4月19日 完成

2021年4月20日 誤字修正


 後遺症(レフト)治療に篠鶴機関を訪れたが、結果は前と同じ。

 薬の治療を受けながら、今日も篠鶴学園へと通おうとする……




【2月9日(日)・朝(8:20) 篠鶴学園高等部・学園橋】




 目の前に広がるのは星月夜と浸水と廃墟の異世界。

 登校途中の全員が『ある化物(ナイト)』の仕掛けた沈降帯(トラップ)であった。


 騒然とする生徒達の前に巨体が姿を現す。


『え……この反応って!?』

「何が分かったんだ?」

『え……Ekaawhsだよ! 死相反映の!』


 だが、エリスの証言に反して化物(Ekaawhs)は上茸下燕の姿をしていない。

 砂浜に打ち捨てられたビニール袋のような頭部から無数の細い糸が伸びていた。


 所謂カツオノエボシと呼ばれる生物の形状をしていた。


「え、あれが四つ目(タイゲタ)級なの?」

「何だよあのぶきっちょう、図体がデカいだけで弱そうだ」

「糸が脆そうだからまずはそこからだな!」


 数人の生徒が依代(アーム)を展開して化物(ナイト)を値踏みしている。


 化物(ナイト)の傾向として、一か所でも罅を入れただけで耐久力が激減する。

 そして構造の強弱は物体の大小のみに決定する為、彼らが糸を狙うのは当然の理論である。


 そして、勇猛な彼らにつられて生徒達が次々と戦闘態勢を取るようになる。


「待て」

「何だお前、四つ目(タイゲタ)級如きに怖気づいているのか?」

「そうだ、奴は只の四つ目(タイゲタ)級じゃねぇ」


 八朝(やとも)がそのうちの一人を引き留めようとするが、振り払われてしまう。

 呆然としている暇は無く、エリスと『ある攻撃』の相談を始める。


「エリス……この状況は非常に拙い」

『だよね、カツオノエボシって糸の部分に刺胞毒が……』


 カツオノエボシと言えば、大人でも死に至る強力な毒で知られており

 これを異能力者に置き換えるなら、一発で『回復死(コマトス)』に陥ることになる。


 そもそも相手は『死相反映』の能力。

 誰かの『死因』の姿が、生易しいものなど断じてない。


 だが今の状況で、この理屈を話した所で一体誰が聞き入れるのだろうか。


「エリス……障壁魔術で彼らの攻撃を全て防ぐことは?」

『無理無理無理ぜったい無理だよ!?』

「だよな」


 駄目元で聞いてみたが、やはり不可能であるらしい。

 だが、もう既に手遅れとなっていた。


『食らえ!!!』


 生徒たちの異能力の一斉攻撃を受け、Ekaawhsが呻き声を上げる。

 無論、刺胞毒が装填されている触手にも衝撃が届き……


「エリス! なるべく多くを!」

『ほいさ! Hpnaswbjt!!』


 エリスの障壁魔術展開と同時に、無数の紫色弾丸が飛び散る。

 数人程度は防げたが、残り大多数は直撃を受けて倒れ伏す。


「お、おい何だよこれ!

 畜生! 一体何が起きてやがる!」


 救われた内の一人が、障壁のすぐ外側の友人に声を掛けている。

 友人は刺胞毒にやられ泡を吹きながら痙攣している。


「エリス、篠鶴機関に伝えてくれ」


 エリスに別命を言い渡して、八朝(やとも)が彼に駆け寄る。

 八朝(やとも)の気配に気づいた彼が胸倉を掴んでくる。


「説明しやがれこのクソが!」

「……今、篠鶴機関を呼んだから落ち着け

 ついでに奴の触手に如何なる衝撃も与えるな、回復死(コマトス)になるぞ」

回復死(コマトス)だって!?」


 絶望による脱力なのか、手に力が無くなっていく。

 そこに助かった二人目が駆け寄って来る。


「やあ、君達は大丈夫だったか?」

「……一応な」

「それじゃああっちに退避しよう」


 指し示したのは最後の一人がいる橋の隅っこ。

 あの惨事を目の当たりにしてガタガタと震えている。


「さて、君はこの化物(ナイト)について何か知っているようだけど」

「ああ、掻い摘んで説明する」


 そして彼らにEkaawhsの特性……死相反映の能力の説明を行う。

 駆け寄ってきた上級生と思わしき人物は努めて冷静に聞いていた。


「そうか、それで手立てはあるのかね?」

「刺胞に触れたら先程の毒の雨が発射される

 それを凌ぐための巨大な構造体がまず必要だ」

「この橋の上では無理そうだね」


 振り向いてもライトよりも大きな障害物が存在しない。

 だが、一人手が挙がっている。


「巨大なもんだろ、それなら俺に任せてくれ」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫も何も

 次は俺たちだろ、それにお前だってもうあのバリアは無理じゃないのか!」


 友人が危篤状態にも関わらず周囲を正しく分析していた。

 彼の度を越えた冷静さに舌を巻く。


「ああ、頼めるか」

「……やってやるよ!」

「でもそれだけじゃない、そうでしょう?」


 上級生の指摘に観念して、もう一つの絶望を口にする。


「俺が知る限り、奴は鏡の向こうの世界に『スペア』が存在する

 それこそ自分の死因を覆す程の力で、両方とも絶命させる必要がある」

「成程ね」


 そこにEkaawhsの唸り声が響き渡る。

 既に時間は無かった。


「俺は戦えないが、サポートは出来る

 依代(アーム)の形が変わる可能性があるが……」

「どうってことは無い!

 寧ろ変えれるものなら変えてみやがれ!」

「僕の方は問題ない、全力で支援しておくれ」


 篠鶴機関が到着するまで10分。

 総意が固まった所で、毒の雨を防ぎ得る障壁魔術が消え失せた。

続きます

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