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Case 64-4

2021年4月17日 完成&誤字修正


 記憶遡行処理・正常終了

 脳波異常の解消を確認いたしました




◆◆◆◆◆◆




(あれ……?

 妙に明るいな)


 瞼裏の景色が暗赤色になってしまう程の異変。

 真夜中に太陽が現れる矛盾に思わず目を開ける。


 部屋の中を窓から差し込む光に優しく照らされている。

 その窓の向こう側にはいつもの抑川地区の風景と、乾燥した冬の抜けるような青空が広がっている。


 つまるところ、朝になっていた。


「な……!?」


 窓から一歩後退る程の衝撃を受ける。

 まるでも何も狐か狸か……いや玉手箱を開けてしまったような驚愕に言葉が出ない。


 いや、今は本当に朝かどうか確かめる必要がある。


(……6時10分

 紛う事無き朝、しかもいつもより早い)


 目覚まし時計をちゃぶ台に置くと

 漸く『昨夜』の出来事と記憶が繋がった。


「拙い……!」


 まず布団……人の気配はもう既にない。

 それから部屋中を検めてみても柚月(ゆづき)の姿が無い。


(……夢だったのだろうか?)


 更につるりと出た言葉に思わず口を押えそうになる。

 後遺症(レフト)で意識が失えなかった自分が、どうやって夢を見たのか。


(あり得ない……一体何が起きているんだ……?)


 程なくして今度はエリスの間抜けな寝起きが聞こえて来る。

 端末(RAT)に浮遊の妖精魔術(エルフグラム)を掛け、こちらにふよふよと近づいてくる。


『あっ珍しいじゃん、おっはー!』

「おはよう」

『それで、何してたの?』

「あ、いや……探し物があってな」


 もう見つかったと誤魔化しておく。

 まさか柚月(ゆづき)と添い寝したなどと口が裂けても言えない。


『えー……なんか怪しい』

「んな事言われてもなぁ」

『本当かなぁ……ってあれ?』


 エリスが唐突に声色を変えて黙り込む。

 何かに気付いた時の仕草なのだが、タイミングが悪すぎる。


 まるで迫るようにズイっと近づいて来た。


「……何かあったのか?」

『ねぇ、本当に何か隠してない?』

「いや、特には」

『今日のふうちゃん、脳波が正常なの』


 エリスが何気に恐ろしい事を呟く。

 まさか毎日モニタリングしていたのかと思いつつ、その先を促してみる。


「正常って何がだ?」

『正常は正常

 ふうちゃん、一度も眠らないから段々と棘波になりつつあったんだけど……』




『それが正常に戻ったの

 もしかして、昨日は良く寝れた(・・・・・)の?』




【2月9日(日)・朝(8:10) 太陽喫茶・共用スペース】




『って事があったんだけど……』


 食卓で皆で談笑している最中に話題がやって来たので

 エリスがやや早口気味に今朝の出来事を話す。


 無論、2月の時点では誰一人八朝(やとも)後遺症(レフト)を把握しておらず

 マスターの奥さんに至っては箸を落とすレベルで凍り付いていた。


「お前……いつから寝ていないんだ?」

「ざっと1か月強ぐらいか」

「1か月だと……!?」


 職業柄、それが致命的な事態である事を悟ったマスター。

 そんな事すらも相談してくれなかった八朝(やとも)に大きな溜息を吐く。


「お前、篠鶴機関に行って見てもらえ

 流石にそれだけは看過できねぇ、命に関わるぞ」


 本来なら有難い事なのだが

 あの『異常事態』を経験した八朝(やとも)には複雑な心境である。


 だが、民間の病院に異能力者を診断する設備が整っていないのも事実。


「……そうすることにする」

「ああ、さっさと行って治してもらえ

 ついでに咲良(さくら)も今日は定期健診だろ?」


 話を振られた咲良(さくら)が笑顔で極めてつまらなさそうに頷く。

 一瞬だけ目が合うも、何一つ表情が読めないのである。


 一足先に食べ終えた咲良(さくら)が準備に席を立つ。


「お前も『篠鶴機関』は初めてだろ、案内してもらえ」


 拒否する意味が無いので初めからそうする予定である。

 とはいえ、気まずいのも問題なので一つ質問する事にする。


「そんなに寝不足はヤバいのか?」

「……俺が元病院関係の仕事だった事は知っているか?」

「そう……なのか?」


 本当は知っているが、取り繕う事にする。

 徒に予言紛い(不安要素)をばら撒いて不信感を増大させるつもりは無い。


「まあ、そういう事でな

 俺が見た中にはそれとしか思えない死亡例(ケース)がいくつかあってな」


 マスターが煙草を取ろうとして、気まずそうな顔をする。

 彼の真面目な話には煙草が欠かせないが、奥さんの為にも今は堪えたのだろう。


 頭を掻きながら話を続ける。


「そこの柚月(ゆづき)もそうだ」

柚月(ゆづき)が?」


 名前を出しただけなのにビクッと振るわせて驚く柚月(ゆづき)

 可哀想ではあるが、今はマスターの話が最優先である。


「そうだ……柚月(ゆづき)を拾った頃は大変でな

 一向に寝ようとしない上に、よく分からない事をしてだな」


 例えば友人の譫妄、過剰な恐怖、書かせた横書きが左右逆……

 そこまで言って咳払い一つで話を終了させた。


「まあ、今は薬でマシになっているが一睡もしていないのは治っていない

 お前も同じような治療になると思うが、全くどいつもこいつも徹夜を軽く見やがって……」


 そこに準備を整えた咲良(さくら)から呼ばれる。

 最初から外行きの恰好をしていてて助かったと思える瞬間であった。

次でCase64が終了致します

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