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Case 64-3

2021年4月16日 完成(35分遅刻)


 気が付くと柚月(ゆづき)と添い寝している事態に陥る。

 無論、嘆き悲しんでいる暇など八朝(やとも)には残されていなかった……




【2月9日(日)・深夜(2:59) 太陽喫茶・自室】




「な……!?」


 再び微睡に沈もうとする意識を叩き起こし

 同時に布団から脱出しようと飛び起きる。


 だが、左手ががっちり掴まれており、どうにもできない。


「……」

「た、頼むから……」


 まるで咎めるような視線を投げかけられる。

 寧ろこの状態に甘んじている方が人として終わっている筈なのだが……


「ん」


 左手を引っ張られる。

 どうやら大人しく寝ろという意味合いなのだろう。


 大人しい筈の柚月(ゆづき)にあるまじき頑固さである。


「……せめて距離は開けさせてもらうが」


 それに対しては「いいよ」と頷かれる。

 ……手を放したが最後、もう一つの布団に手を伸ばそうとする。


 これで危機的状況は脱した筈である。

 尤も、急にバランスを崩して畳と激突する羽目になるのだが。


「……ッ!?」


 強かにぶつけた痛みでなく、擦った事による爛れた痛み。

 いつの間にか目の前にいる柚月(ゆづき)が慌てた顔をしていた。


「あ……えっと、絆創膏……」

「いや、そこまでしな……」


 突然押し付けられたティッシュによって最後まで言いきれなかった。

 何事かと手で受け止めると、鮮やかな血の染みが浮かんでいる。


 どうやら思った以上に派手に怪我したらしい。


「大丈夫だ、これぐらい自然回復で……」


 だがこれも言い切れない……今度は急激な激痛によって。

 呼吸すら口の中で彷徨って息苦しい……これも罰則(ペイン)による苦痛である。


 ふとした衝撃に驚いて身体を丸めてしまう。

 周りの様子を見る余裕すらなく、故に彼女がどれだけ驚いたのかも同様に。




 呼吸が落ち着いた頃には、後頭部に柔い感触があった。


「あ……」


 柚月(ゆづき)に頭を撫でられる。

 いつもの意趣返しと言わんばかりの、満面の笑みがぼんやりと見える。


 色々な事が起こり過ぎて、八朝(やとも)が諦めてしまったらしい。


「助かる」

「ううん、どうってこと……ないよ」


 柚月(ゆづき)が持ち上げた端末(RAT)で電子魔術を『解除』させる。

 彼女の属性は火……即ち初級火属性の『蜃気楼』の電子魔術(グラム)である。


 つまりは、最初の体勢に戻されていた。


「ひざまくら……しびれるし」

「……それもそうだな」


 鼻に触れるとテープの異質な感触。

 あの罰則(ほっさ)の間に手際よく処置してくれたらしい。


 それについても感謝したいが、一つ気になることがあった。


「そういえば

 どうして柚月(ゆづき)はここに……?」


 初めて彼女に顔に動揺の色が浮かんでくる。

 問い詰めるつもりは無いが、相手にはそう伝わらなかったらしい。


 やがて何かに気付いたかのように鼻歌を歌い始める。


(……これは?)


 単に誤魔化す為のものなのだろうと思ったが

 記憶の奥底がそうでないと雄弁に告げている。


 何故か、身体に纏わりつく疲れの重さが強くなっていく。


「♪」


 小さいが、耳にはよく聞こえる旋律。

 何故か『記憶遡行』に陥るような異常感に戸惑う。


 唯一の違いがあるとすれば、全くもって不快でない。

 故に恐ろしく感じてしまう。


「……」


 また頭を一撫でされる。

 それと共に恐怖感と意識が部屋の隅に掃き去られるが如く消え失せた……




◆◆◆◆◆◆




 また知らない畳と天井。

 でもこちらは、外と密接につながっている広い空間だ。


 何しろこちらまで血風が漂ってきている。


(これは……皆殺しにした後の……?)


 見渡そうとしてもそうはいかない。

 自分の首の筈なのに、石の如く動かず後頭部に触れる感触を楽しんでいる。


『だいじょうぶ?

 ひざ、しびれてない?』


 大分幼いが、自分の声と似た感じ。

 そもそも声帯が震えた感触が、この身体の持ち主のものだと告げている。


(……自由が効かない?)


 急に上を向こうと身体を動かされる。

 膝枕をしている主は、何故か真っ黒でよく見えない。


『どうって事ないよ』

『でも、しびれたら言ってね』


 人影が、多分困った笑いを浮かべて頷く。


 前髪が撫でられるのが心地よい。

 彼女の穏やかな鼻歌が、確実に眠気を呼び起こしてく。


 非常に強い郷愁を感じる……


(誰だ……駄目だよく見えない)


 身体は動いてくれず、凝らそうとする目は微動だにしない。

 やがてタイムアウトだと言わんばかりに瞼が閉じられる。


 そしてそのまま十数分後、頬をぷにぷにと突っつかれる。


「寝てる……よし!」


 頭を固定し、膝と恐らくは枕を神業のようにすり替える。

 人影の主が立ち上がると、ほんの少し畳がすれる音がした。


「安心して

 君のかわりにわたしが……」


 その後は音もせず気配が消える。

 そうしてこの光景もどんどんと終わりを迎えていく。


(待て……何が何だが……!)


 身体の感触が段々と薄くなっていく。

 まるで天に引き離されるかのように、鷹狗ヶ島の全景が露になっていく。


 ふと、誰かの叫び声。

 その方向には二つの人影……つまり被害者と加害者。


 その一方は、間違いなく『関係無いと叫ぶ男』のものであった。


(どういう事だ、アレは俺が殺した筈

 この手で……じゃあこの『記憶遡行』は一体……!?)


 そして、テレビを消すように『記憶遡行』が消え失せた。

続きます


本日は急用により遅れてしまってすみませんでした……

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