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Case 64-1:斬撃を操る能力(Ⅳ)

2021年4月14日 完成


 無事一人目の依頼を完了させた八朝(やとも)

 だが、その際に得た『記憶』が問題であった……




【2月9日(日)・深夜(2:30) 太陽喫茶・自室】




 目を開けると、いつもの薄暗い照明器具の風景。

 やはり今回も後遺症(レフト)を突破することが出来なかったらしい。


 すくりと起きて、備え付けの小さな冷蔵庫の方へ向かう。

 この明瞭さが、まさしく2か月先の滅びの足音そのものである。


「……」


 それとは別に、マグカップを握るや否や罰則(ペイン)に襲われる。


 このマグカップはアイリス社の最新魔工学技術によって作成されたものである。

 具体的には、握るや否や人体に有毒な要素を『誤差』として完全消滅させるのである。


 質量保存則を逸脱するこの奇跡の前に

 微量程度であるが魔力を求められる。


 だが、八朝(やとも)には魔力量を示すMGIが(皆無)

 よって、いつもの電子魔術(グラム)発動と同じく(アーム)を吸わせる必要があった。


(……遅れているとはいえ

 もう少し、魔力無しにも優しい設計をだな)


 そんな魔力無しにはマグカップの機能を使う権利が無いのだが

 水を飲もうとするたびに両肩をぶん殴られる衝撃に襲われるのも不便に違いない。


 頭をぐらつかせるダメージに耐えきれず、ちゃぶ台に倒れ込むように座る。

 突っ伏した真っ暗闇の中で昨日の出来事を思い出す。


 事前準備不足で自ら綱渡りとなった『使えない能力』の依頼。

 その際に思い出したのは、自分の知らない『敵意を向ける字山(あざやま)』の記憶。


(あり得ない……そもそも俺は『本人』に会った筈だ

 あの時の字山(あざやま)は俺に『能力(ギフト)を向けた』とはいえ……)


 終始協力的だった……そう言い切れない根拠を自供してしまった。

 話をするだけなら『八雷神』を使わずとも、会話だけで事足りた筈。


 少なくとも、主治医を内緒話から追い出すのに『昏倒』では乱暴が過ぎる。


(それでも、今までの『記憶遡行』でも見なかった

 何だこの違和感は……まるで転生したての『2回目の記憶喪失』を忘れていた頃のような)


 一人だけ眠れない夜は

 自分の思考を整理するのにうってつけの静寂である。


 即ち、今の八朝(やとも)が得ている『記憶』は次の通りとなる。




 時系列がある記憶


  ①自分を除いた家族が土砂崩れで死亡

  ②この間の記憶無し

  ③自分を預かってくれたもう一つの家族を島から逃がす

  ④上記の復讐で島の住民を皆殺しにする(手段不明)

  ⑤この間の記憶無し

  ⑥自分が死ぬ(使命(オーダー)の対象)


 時系列が無い記憶


  ・字山(あざやま)左海(さかい)との日常

  ・『謎の少女』との記憶(恐らくはもう一つの家族)

  ・字山(あざやま)左海(さかい)が死ぬ光景


 2回目の記憶喪失前


  〇咲良(さくら)からタロットを貰い、和解する記憶

  〇Ekaawhsの『死相反映』から逃れる為にエリスに記憶を破壊してもらう


 明らかに自分のものではない記憶


  〇三刀坂(みとさか)から闇属性(アンブラ)を分離させる

   そのうちの1回で、記憶遡行中の八朝(やとも)に勘付く

  〇市新野(いちしの)、もとい悪疫(アポリオン)に殺される

  ●三刀坂(みとさか)兄妹の親を奪ったイムム・コエリ事件etc...


 今回得た記憶


  ⑤字山(あざやま)に毒を盛られ

   その字山(あざやま)が正体不明の人物に殺される




(そうだ……今回のは明らかに景色が変だった

 今得ている情報だと、俺が全島民を皆殺しにした後しか考えられない)


 考えれば考えるほどに異様な要素である。

 友人を裏切るような、今すぐにでも忘れたい記憶の筈なのに、一番現実感がある。


 そもそも、本当に自分が大量の人間を殺したとは思えない。

 この時点で八朝(やとも)の記憶は整合性を持っていないのである。


 考え得る原因は一つ。


(『記憶遡行』の元になっているのは『本物』の『千里眼(ギフト)

 つまりは、この中にも俺のものではない記憶が混じっているかもしれない)


 今までは明らかに視点が自分でない記憶に対して感覚的に仕分けていたが

 それでは粒度が粗過ぎたのかもしれない。


 だが、それを検証するには情報がまるで足りない。

 それでも、居ても立っても居られず起き上がろうと動かした腕とマグカップがぶつかる。


 布団の上に水がびしゃりと掛かってしまった。


(まずい……)


 まずは吸水性の良いタオルに水を吸わせ、もう一つので何度か擦る。

 対応が遅すぎた事により、沁み込んだ水に対しては無力であった。


(……換えのあるっけな)


 濡れた布団は諦めて、スペアを求めに物置のふすまを開ける。


「………………は?」


 中にいたのは掛け布団の換えと

 その上ですやすやと寝ている柚月(ゆづき)の姿であった。

続きます

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