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Case 63-4

2021年4月12日 完成


 職員の処置により回復死(コマトス)の瀬戸際から逃れることに成功する。

 『月の館』送りが無い事を確認できた以上、ここに長居する意味は無い……




【2月8日(土)・昼(12:30) 磯始地区・■■アパート前】




「いやー助かったよ! マジありがと!」


 依頼者から両手を掴まれ感謝される。


 無自覚にこんな事をやってのける豪胆さは

 流石は部長の友人と言ってもいい。


「ええ、それでも依頼はまだ解決してないわよ」

「え、どゆことまっしー?」

「……呆れた

 貴方の依頼は『使い物にならない異能力をどうにかして』でしょう」


 部長からの指摘でストンと納得した依頼者。

 実のところ、この能力(ギフト)については解決法となる『前例(どうぐ)』が存在している。


「それを提案するには

 一つの説明と、俺の限界を語らないと駄目だ」

「ん、限界……?」

「ああ、その能力(ギフト)を運用する才能を俺は持っていない

 代わりに、その才能を持ち合わせている人物に心当たりがある」


 そう言って依頼者達を磯始地区のある地点に案内する。

 因みに、その人物とは事前連絡で了承を得ている。


 ……たった数時間先の予定にも拘らず、である。


「あれ……ここって」

「その通り、鳴下(なりした)のアパートだ」


 部長が見覚えのある風景に少々驚いている。

 未だに状況を理解できていない依頼者は、最早口をはさむ事すらしていない。


 そして目的の部屋まで行くと

 鳴下(なりもと)の執事である唐砂(からさ)が出迎えてくれた。


「お待ちしておりました、八朝(やとも)様」

「あれ、貴方知り合いなの?」

「……色々とあってな」


 彼の第一声から考えて、恐らくは同じく記憶を保持している可能性が高い。

 何はともあれ黒一点になる危機から逃れられた。


 そのまま客間ダイニングにまで通され、お茶を用意される。

 席に座ると唐砂(からさ)が早速本題に入る。


「それで、そのお方が『湯立』の力の持ち主であると」

「ああ、そうなる

 熱湯ではなく『草水』の如く燃やす事にはなるんだが」

「あの……さっきから何の話を」

「ああ、彼と彼の主人が才能……つまりは鳴下神楽を扱える者だ」


 八朝(やとも)は漸く依頼者の異能力の考察を開示する。

 即ち『湯立』による神明裁判と『ネデリンの大災害の生還者』がミックスになった能力(ギフト)


 最初に触れた者の穢れに反応して『燃水』となる異能力であると説明する。


「……概要は把握いたしました

 だと言っても納得するかどうかは別の話ですね」

「そうだな、この場で証明する必要がある

 例えばだが、今の俺は『鳴下家』から見てどうだ?」


 唐砂(からさ)が少々悩んでからこう言い放つ。


「残念ですが、禊の場に入れてはいけない人物です」

「そうか、じゃあその俺がコレに触れた場合は?」

「……燃える、と?」


 その為に依頼者に先程の異能力でコップ二つを満たしてもらう。

 その一方に浮遊魔術で火のついたマッチを入れるが、火は忽ちに消えた。


 そして今度は八朝(やとも)が付けたマッチの火を入れると、勢い良く燃え上がった。

 その水は唐砂(からさ)の鳴下神楽の一拍によって吹き消された。


 ちょっとの間八朝(やとも)以外が沈黙する。


「これで証明として良いか?

 じゃあ、俺が言いたい事は理解してくれた筈だ」

「……ええ、承知いたしました

 簡単にではありますが、先程の『禊』をお教えいたしましょう」


 それから少しの間、依頼者に鳴下神楽のレクチャーをさせる。

 派手そうな印象の割に、唐砂(からさ)の話を真面目に聞いていた。


(毒と水を使い分ける

 確かにそれも重要だけど……)

(安心しろ、それだけではない)


 そして穢れの水から火を消した瞬間、彼女の鍛錬が完了した。


「おっし! うまくいった!

 ありがと唐砂(からさ)さん!」

「恐縮でございます」

「ああ、お疲れ様

 ここからは俺の仕事だ」


 そうして八朝(やとも)が彼女の固有名(スペル)を真似る。

 出てきたのは居酒屋でよく見かける卓上用釜飯セットである。


「あ! これアタシのじゃん!?」

「そうか、それは何よりだ

 ……今からこの依代(アーム)を改良する」

「え……?」

「最初に言った筈だ、前例(どうぐ)があると」


 八朝(やとも)がカバラを由来とする詠唱(スペル)を開始する。


 必要なのは、この能力(ギフト)の核となる(mem)を圧迫し解放する概念。

 その概念は(mem)小径(パス)と関わっているものでなくてはならない。


 つまり、開放を意味する太陽(res)

 その二つを『上から』繋ぐ架空の(パス)たる二十(sims)


(mem)を切り開くは遍く太陽(res)の輝き

 形成(Yetzirah)より来る彼の災害(sims)は忽ちに霧散する』


 その二つの霧を混ぜ合わせて彼女の依代(アーム)の形を変える。

 その結末を目の当たりにした依頼者が呆然と呟いた。


「水鉄砲……?」


次でCase63が終了します

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