Case 63-1:何もない所から水を生み出す能力
2021年4月9日 完成
部長から渡された合計4枚の依頼書。
『青銅人』に会うべく、本日は『能力が役に立たない』に対応する……
【2月8日(土)・朝(10:00) 篠鶴学園グラウンド・辰之中】
「第二異能部から来た八朝だ」
「あっ、第二異能部の方ですか?」
待ち合わせ場所にいたのは明らかに上級生の女性である。
聞くと彼女は今年の四月に工務店に勤める事が決まっていた。
「異能力者でも一般の応募があるとは珍しいな」
「そう、そうなのよ!
ホント最後まで諦めなかったお陰っていうか……」
どうやら縁故採用というものであったらしい。
何にせよ職が決まった事に関しては掛け値なしに喜ばしい事である。
「就職おめでとう」
「あ、ありがとー!
いや、マジで頑張るから!」
彼女の一通りの話を聞く限り、逆境には強そうである。
それ故にその『我慢強さ』を利用されないよう願いたい所である。
「それで依頼何だけど、ひとまずこれ見てよ」
そう言って依頼者が固有名と共に能力を発動させる。
……だが、何も起きていない。
「?」
「ほら、下見て下」
指差した先の地面がほんの少し湿っている。
曰く、地面を湿らせる程度の異能力である。
エリスにも制御番号を確認させたが、位階はQ・VENTI。
お世辞でさえも『使えない異能力』となってしまう有様に思わず閉口する。
「……すまん」
「いいって、慣れてるし
それにこれを解決する為に呼んだんだからさ!」
という事で早速聞き取りを始める。
……さすがに立ち話だと拙いので第二異能部部室に移動する。
【2月8日(土)・朝(10:11) 篠鶴学園・第二異能部部室】
用務員から貰った部室の鍵を鞄から取り出そうとする。
「もう開いているから入っておいで」
ドアを開けると奥には部長が居た。
取り敢えず、部長の事を紹介しようとするが依頼者は奥へと進んでいく。
「お、まっしーじゃん! カレと上手くいってる?」
「……別に悪くは無いわよ」
「またまたー
比婆っちから聞いてるけど、手も繋いでな……」
「あーあーあー!
今は依頼の話でしょ!」
そう言ってあしらわれた依頼者がこちらに戻って来る。
どうやら、依頼者は部長の……いや、比婆の知人らしい。
因みに部長の本名である里塚真白で『まっしー』となっているらしい。
「改めて、能力を使った時の状況を
覚えている限りでいいから聞かせてくれ」
「話長くなるよ?」
「重要な作業だ、もう慣れてる」
そうして彼女からヒアリングを開始する。
内容を纏めると次のようになった。
・生み出せる量はコップ一杯分
・飲むと炭酸のようにシュワシュワしている
・火のついたマッチを近づけると一瞬火が大きくなる
・肌に塗ると化粧の乗りが良くなる
・ついでに飲むとその日は一日中身体の調子が良くなる
・刺激物なのに腫れ物を抑えてくれる
・悪霊に憑かれた友達に振舞うと悪霊が消えた
・テストで100点が取れる
・お金持ちになった
・就活に成功し……
「ちょっと待て、嘘混じってるだろ?」
「バレた?」
依頼者はおどけているが、八朝は呆れたまま。
だが、今言った内容に聞き覚えがあった。
(……水素水?)
それは八朝の世界でまだ証明されていない健康用品の事である。
水素を含んだ水が、体内の活性酸素を除去する事で老化を防ぐ、というものである。
また、水素水に関する話題として『疑似科学』も挙げられる。
要は数多くのオカルティスト達が語る陰謀論の中に度々登場しているのである。
「それで、結局これってなんだろうね?」
依頼者が件の水素水をコップの中に生み出して呷る。
まるで酒を飲んだ後の人のような気持ちよさそうな声を上げる。
対して、八朝は『記憶遡行』が起きなかった。
(水素水じゃない……?
ならば『酢酸』……いや、そもそも健康食品系なのか?)
疑うほどに真実が遠くなっていく。
そもそも彼女の話が徐々に眉唾になっていったのがこの発想に傾いた原因である。
「あ、そうそう
一度だけおかしなことがあって」
「おかしな……事?」
「いや、ホントごめんて
これは本当におかしかった事なんだけど……」
「煙が出てきた事があってね
ああ、勿論冷たいのになんだけど」
ここで漸く水素水からの呪縛から解放される。
水素自体は無色透明で、勿論水煙を発するような性質は無い。
「それは飲んだのか?」
「いや、ちょっと塗ったんだけど
めっちゃ手が荒れまくって慌てて水で洗い流したよ」
「あの時は泣きついてきたもんね」
「泣いてねーし、ってかまっしーも揶揄ってごめんて」
部長からの証言も有り、この話は真実のようである。
部長曰く、ふざけて『逆の固有名』を唱えた時らしい。
あれ以来この能力が怖くなって部長に相談した所、今の依頼となった。
(煙と……今度は健康被害
まさかとは思うが『変若水と死水』……)
と、ここで頭痛が始まった。
しかも強度が一昨日の時と同様である。
「ちょ……大丈夫なのこれ!?」
「ああ、それ過去の記憶を取り戻しているだけだから」
「いやいやヤバいでしょ!
ほら、これ早く飲むんだし!」
口の中で炭酸が弾けているらしいが何の味もしない。
それよりも頭痛が上回っている。
やがて、またあの『日常』の幻覚が再現された。
続きます




