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Case 62-5

2021年4月8日 完成


 記憶遡行から抜け出した八朝(やとも)

 そして彼に能力(ギフト)の危険性を説明する……




【2月6日(木)・放課後(17:00) 篠鶴学園グラウンド・辰之中】




「触るなってどういう事だよ?」


 依頼者は困惑の表情を浮かべている。

 それでも、この事実には納得してもらうしかない。


「ああ、アンタの依代(アーム)は掛け値なしの神器だ

 ……尤も、人間が触れたら死ぬという逸話付きの神器(もの)ではあるが」

「神器だぁ……?

 確かにデカいけどそこまでとは思わん」

「あの弓は神様が星を食べるために用いる虹の弓だ

 アフリカのマラウィ湖周辺で伝えられる神話でな……」


 それからは記憶遡行の内容通りの話である。


 欲しがった酋長が稲妻の矢に焼かれて死亡し

 失望した神様が持ち去って、空に虹が架かるようになった。


 だが、彼は納得していない顔である。


「……確かにダチがもう触るなって言ってたが

 その『ヤオ族の神話』とやらが本物かどうかってのも怪しいぞ」


 その一言に八朝(やとも)も閉口してしまう。

 今まで自身の『異世界知識(オカルト)』に瑕疵が無いと思っていたが、今回は違う。


 これだけに関しては『一つの書籍』からしか見つかっていないのである。


「あくまで参考意見だと思ってくれ

 代わりといっては難だが、一つ提案がしたい」

「提案って何だよ、諦めろってか」

「半分はそうだが、使い道についてだ」


 そうして八朝(やとも)が彼の固有名(スペル)を模倣し

 出てきた(taw)から形を読み取っていく。


 この依代(アーム)に含まれている要素は■■(digg)■■(samek)

 どちらも『魚』を意味する文字である。


(……■■(digg)だと(ダアト)の先だ

 道理で届かないと……だったらもう一方を使えばいいが、どう組み合わせるか)


 女帝(digg)は邪魔になるが『星を食べる』という逸話上では欠かせない存在である。

 何とかして組み合わせられないかと思い……ふと何かに気付く。


至高(AZVLT)より■■(pit)の影を投げ

 (samek)と、至高の汝(digg)を『十字』と為す』


『Ektht!』


 そうして八朝(やとも)がミニサイズの虹弓(アーム)を生み出す。


「お……おいおい

 これのどこが妥協なんだよ!?」


 依頼者が初めて手に届く虹弓(アーム)に誘われるように歩く。

 注意をしようとした矢先に激しい音が鳴り響いた。


「……ッ!!?!!」


 依頼者は真っ赤になった手を抑える。

 既に虹弓(アーム)には六角構造の障壁魔術が展開されていた。


「エリス、助かった」

『どんなもんさ!』


 誇らしそうに回転数を上げるエリス。

 呆然とする依頼者に、改めて本題を打ち明ける。


「不幸な事故になったが、ご覧の通りだ

 ……だったら、弓として扱わなければどうだ?」


 そう言って八朝(やとも)がエリスに浮遊魔術を指示する。

 八朝(やとも)の身体が天高く舞い上がった。


「な……!?」


 呆然と見上げる依頼者を尻目に

 自分の落着地点を見据えて彼の固有名(スペル)を叫ぶ。


 そうすると、身体が何かに引っかかるように減速し、やがて弾き飛ばされる。

 落下の衝撃が相殺され、低い放物線を描いて着地する。


「このように足場として使うのもアリだ

 そして、今度は逆に弓として使ってみよう」


 再びエリスに初速度変更(アクアグラム1)を指示し

 瓦礫を八朝(やとも)に向かって飛ばす。


 今度こそ正気の沙汰では無かった。


「そ、そこまでしなくても!?」

「安心しろ、アンタの能力(ギフト)を信じてみろ」


 そうして八朝(やとも)虹弓(アーム)を離れて展開する。

 弦の部分を過ぎ去った瓦礫が……速度をみるみるうちに落とす。


 まるでパチンコに装填された石のように、今度は逆に飛ばされる。

 雷を纏いながら何度か回折し、離れた瓦礫に衝突する。


「……」


 呆然とする依頼者に向かって八朝(やとも)が宣告する。


「これで戦い易くはなっただろう

 依頼には応えられなかったのは申し訳ないが……」


 八朝(やとも)が示した代替案にどういう反応を見せるか。

 当然の如く、溜息を吐かれてしまう。


「当たり前だ

 俺が頼んだのは『戦い方』じゃねぇ、『掴み方』だ」

「……」

「まぁ、でもお前ならできそうだし

 今度こそ『掴み方』の方を頼むよ」


 依頼人の好意により『継続』で話がまとまった。

 因みにミニマムサイズの方の『改造』は、当然のごとく断られた。




【2月6日(木)・放課後(17:55) 篠鶴学園グラウンド・辰之中】




『残念だったねー』

「目的は果たした

 後は、依頼人を満足させるだけだ」


 エリスと共にその他3枚の依頼に目を通す。

 一番直近なのは明後日の『能力(ギフト)が使い物にならない』である。


「思ったんだが、これ増えないよな?」

『……あり得るかも』


 ひらひらとさせた依頼書が何だか頼りない。

 あの部長の『腹黒さ』から考えて、際限なく増えそうな気さえしてくる。


『で、でも今回は失敗みたいなものだし!

 これ以上任せても部長さんのミス増やすだけだから……』

「増やした分、バツとしてこれも増えるってワケだな」


 エリスがとうとう押し黙ってしまう。

 だが、八朝(やとも)は別の事を思っていた。


 事実、楽しそうに口元を歪ませている。


「今日の分で、ようやく転生前の『日常』が思い出せた」

『え!?』


 驚くエリスに『記憶遡行』の話を聞かせる。

 聞き終わったエリスは、何故だか言葉に詰まっているようである。


『……』

「という事で、この方向性は有益だ

 増えれば増える程使命(オーダー)に近づく」

『そ、そうだね……』


 漸く出てきた言葉は、なんだか都合が悪そうな声音。

 何か裏があるのかという疑いを心の裡に追い遣って、エリスに向く。


「これからは忙しくなるが、よろしくな」

『そんなの当たり前じゃん

 こっちこそ人間に戻るまでよろしくね』




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 使用者(ユーザー):■■■■(プライバシー保護)

 誕生日:7月28日


 固有名(スペル)Ektht(エクスト)

 制御番号(ハンド)Nom.15130(サダルカイトスⅠ)

 種別(タイプ)  :S・VENTO(上級・風属性)


  STR:3 MGI:2 DEX:1

  BRK:1 CON:5 LUK:1


 依代(アーム)  :虹の弓、稲妻の矢

 能力(ギフト)  :不明

 後遺症(レフト) :アナフィラキシー発作(自身の依代(アーム)




Interest RAT

  Chapter 62-d   嚆矢 - Four Things




END

これにてCase62、『青銅人への道Ⅰ』を終了します


色々と詰め込みましたが、Dルートでは全て回収致します

今回はABと比べても複雑になってしまう予定となります


何しろ『妖魔』の住む場所が……

おっと、口が滑ってしまいました


次回は『都市伝説』

それでは引き続きよろしくお願い致します

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