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Case 62-4

2021年4月7日 完成


 『青銅人』と引き換えに能力(ギフト)調査を依頼される八朝(やとも)

 幸運にも日付指定が今日であったので準備してグラウンドに向かう……




【2月6日(木)・放課後(17:00) 篠鶴学園グラウンド・辰之中】




 篠鶴学園のグラウンドは閑散としている傾向にある。

 それには2つの理由が存在している。


 1つは運動部の衰退。


 異能力の身体能力強化がドーピングと同じ扱いを受けており

 あらゆる公式大会から出禁を食らった結果、満足に練習する運動部が減ってしまった。


 もう一つに辰之中の存在がある。


 閉鎖空間を作成するこのアプリの存在により

 異能力演習で『独占的』かつ『広域』の場所確保が必要が無い。


 これにより、現実世界でのグラウンドの需要は減ったのである。


(その場所を態々指定しているが……)


 八朝(やとも)はもう一度依頼書の中身を検める。

 

 やはり書いてあること以上に特におかしな点は無い。

 ここに来て事前に依頼人の人相調査をしていなかったのが響いている。


(どういった人間なんだろうか

 せめて十死の諸力フォーティンフォーセズ関係者でない事を祈りたい)


 グラウンド片隅の残骸に背を預けていると

 その向こうから近づいてくる人影が確認できた。


「貴方が第二異能部の請負人って奴か?」

「そうなるな」


 努めて冷静に対応したが、内心では驚愕している。


(……掌藤親衛隊だと!?

 しかもこいつは『巻き戻す前』の……!)


 依頼人はあの時の『追加の後輩』であった。

 ある意味犯罪組織(十死の諸力)よりも面倒な人間に当たってしまう。


 それを察したのか依頼人が不安そうな顔になる。


「どうしたんだ? 何かあるのか?」

「いや、何でもない

 早速だが依頼内容を確認したい」


 八朝(やとも)が噛み砕いた形で依頼内容を話す。

 取り敢えず全区間で相槌が確認できたので、話を進めることにする。


「それで、依代(アーム)が届かない位置に出るってのは」

「ああ、見てくれよ」


 依頼人が固有名(スペル)を唱える。

 ここまでは他の能力と相違無いのだが、依代(アーム)の位置が問題であった。




 天高く、まるで虹のように真っ黒なアーチが展開されている。




「確かに、これは届かないな」

「色々と努力はしたんだよ

 身体強化で飛んだり、横向きに展開しようとしたり」


 彼はその内容を実践してみせる。


 身体強化もレベルが足りずまるで届かず

 横向き展開は近づくと逃げ水のように遠ざかる。


 文字通りの八方塞がりに八朝(やとも)が顎に手を当てる。


初速度変更(Vrzpyq)はどうだ?」

「ああ、一回友達にやってもらったが、殆ど覚えてないんだ」

「それは一体?」

「ああ、何か大怪我で篠鶴機関に運ばれたって」

「大怪我……?」


 確かに異能力の身体強化を以てしても無事では済まない高度が存在する。


 それでも依代(アーム)がダメージを代替してくれる以上

 落下ダメージ程度で『大怪我』を負う事は珍しい。


「何か聞いたのか?」

「いや、詳しくは教えてくれなかったんだよ

 ただ『もうアレに触らない方がいい』って何度も……」


 依頼者が困惑顔で受け答えする。


 彼に協力した友人が一体何を見たのか?

 恐らく尋常じゃない落下の仕方をしたはずである。


 例えば、触れた瞬間に高熱や雷撃などの大ダメージを受ける等の……


『ふうちゃん、分析完了したよ』

「ああ、見せてくれ」


 八朝(やとも)がエリスの分析内容を確認する。

 今回はエリスのデータベースでも構成できない要素らしく、単語が羅列していた。


(狩り、星々、弓矢、創世神話、神罰……稲妻)


 最後の1文字で何かに気付く。

 そして、その確信を後押しするかのような『記憶遡行(頭痛)』が開始する。


『お、おい大丈夫かお前?!』


 声が遠く、過去の記憶が再生される。




◆◆◆◆◆◆




『ねぇ、星ってこんなとげとげなんだって!』

『……』

『何か金平糖みたいでおいしそうだよね』

『金平……糖……?』

『え? 知らないの?』


 知らないと答えると、少女が席を立ち棚の中からある物を取り出す。

 両手で抱えるほどのプラスチックの入れ物に、ペールトーンの欠片がぎっしりと詰まっていた。


 それを机の上に置く。


『これが金平糖だよ!』


 黒い布を敷き、底の深いスプーンで一掬いして布の上に散りばめる。

 布の濃色と金平糖の淡色のコントラストが綺麗に映えていた。


『綺麗だよね』

『ああ、そうだね』

『しかも、おいしい!』


 少女が金平糖を一つ掴んで口の中に放り込む。

 満足そうに咀嚼しているのを見て、自分も試してみる。


 砂糖のように……いや最早砂糖そのものの甘さが口の中に広がった。


『……まるで■■■■だね』

『■■■■?』

『うん、南の国のお話で

 神様が星を矢で射抜いて、それを食べて暮らしてたんだ』


 ここから話した内容はあまり覚えていない。

 今にして思えば、教訓話に近く子供だった俺たちの感性とあまり合っていなかった。


『でも星ってどんな味がしたんだろ……』


 少女が目を瞑って想像する。

 きっとこの金平糖のように甘いのか、あるいはそうでないのか。


 まぁ、この記憶の結末としては

 勝手におやつを食べたとして彼女の父親に拳骨を貰ったのである。


 まさしく、■■■■を欲しがった『酋長』の如く……




◆◆◆◆◆◆




「おい、起きろ!」

「……すまん」

「しっかりしてくれよ、全くホントに大丈夫か?」


 依頼者に心配される程の深い『記憶遡行』であった。

 何気ない日常のようだが、全然思い出せない。


 だが、今はそれよりも答え合わせである。

 あの依代(アーム)の正体と、掌藤親衛隊との奇妙な縁について開示する時だ。


「それであの『(アーム)』についてだが……」

「弓だって……?

 確かにそう見えなくは無いが」


「友達の助言は正しい

 あれに触れてはいけない、触れれば死ぬぞ」


次でCase62が終了します

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