Case 61-5
2021年4月3日 完成
市新野の変死体が発見されたという波乱の幕開けとなった。
八朝は『炎の妖魔』で疑われそうな沓田に接触しようとする。
【2月6日(木)・1時間目(9:10) 篠鶴学園高等部・グラウンド】
『我は弓にて汝を解き放つ
即ち、大魚の尊き犠牲を以て輝け!』
1時間目から始まった『勢力調査』の演習により死に物狂いで応戦する八朝。
相手は沓田……言うまでもなく勝ち目が薄い。
「何だその詠唱は?
舐めてんじゃねぇぞ!!」
沓田が固有名を唱えるが、何も起きない。
そこにエリスからの小石弾の連撃が飛び込んでくる。
(様子がおかしい……?)
もしも『巻き戻し』に気付いているなら今朝のエリス達の様な反応になる筈が
彼に至っては終始初対面に対するそれである。
(もしや、記憶が無いのか?)
本来なら『記憶』がある八朝達の方がおかしいのだが
そんなことを考える暇もなく、驚愕と共に彼から放たれた爆炎を凌ぐ。
「……ッ!
エリス、障壁魔術でもう残量尽きただろ」
『御名答かも、そっちもだよね』
もう既に自分に戦う手立てがない事を痛感する。
だが、彼の信頼を得るにはここで引き分けになるか勝つしかない。
(『太陽』が今回も有効か
これでは両手がふさがるから、あっちを諦めるか)
大博打に等しい戦法であるが、これ以外に手立てがない。
星々の輝きを消すのは『カバラ』よりも『占星術』の方が向いている。
エリスの方を向くと、機体を傾けて首肯する。
『汝への旅路は■■が導く
速やかにその身体を捨て、魂の道を辿れ!』
「させるかよ! 『火吹箱』よ!!!」
沓田の攻撃が久々に通り
|棒立ちの八朝を吹き飛ばした。
「勝者……」
「待ちやがれ、アレをよく見てみろ」
爆炎の先に八朝の姿が忽然と消え去っていた。
沓田は力押しを行っている間にも相手をよく観察していたのである。
それまで咆哮で何とかしようとした彼の戦術が打って変わった。
「どこに消えやがったんだ?
まぁ、『火吹箱』で炙り出してやれば全て……」
会話文の中に詠唱を混ぜ込む高等技術の不意打ちを行うも
今度は不完全どころか一切能力が発動していない。
「どういう事だ?
そもそも、八朝はあんなに強かったか?」
観戦の方に回っているクラスメート達が騒然となる。
終始翻弄されている沓田も頭を掻きながら手あたり次第爆破する。
(太陽の『コンバスト』が効いているな
その調子であと10分能力を使い続けてくれ)
星占いにおける『コンバスト』
『太陽』の光が星々を焼き潰すさまから、凶の座相として語られる。
敷布があり続ける限り
星々側の沓田はこちらの姿が見えない。
だが、逆に能力を解除されると
この仕掛けが丸ごと消し飛び、棒立ちの八朝が現れてしまう。
「おい、何処狙ってんだよふざけてんのか?」
「こっちは大真面目だ
お前こそ幻を見てんじゃねーのか?」
本日の沓田は機嫌が悪いらしく
外野に喧嘩を売ってしまっている。
このまま、あと9分……8分……
そして、反撃のピースが揃う。
『勅令を為し、この身に勝利を!』
八朝の声に気付いたがもう遅い。
真後ろに突然出現した相手に反応できず沓田は硬直する。
刑法204条:傷害の罪
STR:0→1
不殺ならぬ不傷の呪いが解かれた一撃が
沓田を捕えようとした瞬間……
「時間切れ
勝者、判定で沓田!」
教師の放った防御電子魔術の壁に阻まれ、拳だけを砕いてしまった。
【2月6日(木)・昼休み(13:10) 篠鶴学園・天文台前】
『酷い目に遭ったよねー』
「まぁ、趣旨替えで勝ちに行ったからな」
あの後八朝は『重傷』扱いとなり保健室に連行された。
結局、三刀坂には『彼は覚えていなかった』と言い訳するしかなかった。
『重傷』扱いの割に元気そうなので、誰も見舞いに来なかった。
という事で八朝も普段通りに戻ろうと、こうして出歩いた。
『にしてもまだ気が早いんじゃない?
話し合いがあるのは今日の放課後なんだけど』
「何でだろうな、つい来てしまった」
八朝にしては珍しく思惑無しの行動にエリスが虚を突かれる。
やがて、何故かエリスが爆笑し始める。
「何がおかしいんだ?」
『いやいや、そうじゃなくて安心しちゃったからだよ』
『本当に無理する気が無いんだって』
彼女の言動がまるで繋がっておらず八朝は困惑する。
無論、その様子を見守られていることなど気づくことすらできない。
「まぁ、特に用が無いしさっさと戻って……」
踵を返した一歩目で、忙しそうな人影と正面衝突する。
視界に大量のプリントが舞い散る。
「いたた……ご、ごめんなさい!!」
「いや、そっちも大丈夫だったか」
「大丈夫じゃないっぽい」
まき散らされたプリントが風に舞ってどこかへと飛んでいく。
恐らくは中等部の女子であろう人影が青い顔をしていた。
「エリス、ありったけの霧でも食っていけ」
『りょうかーい!』
八朝が出した霧を食い荒らし
飛んで行ったプリントに残らず初速度変更魔術を放つ。
致命的に飛ばされたものを回収し、同時に残りを八朝が拾い上げる。
そうして元のプリントの束を彼女に渡す。
余りの多さに彼女の視界がプリント束が塞いでいた。
「あ、ありがとうございます!
うわーホント助かったかも」
お礼代わりに彼女が中等部の3年の向葉日万里と自己紹介する。
取り敢えず自分も同じように素性を明かしておいた。
「それだと前が見えんだろうし半分持とうか?」
「いえ、大丈夫です
それと一つ聞いていいですか」
神妙な面持ちの向葉が聞いてくる。
取り敢えず首を縦に振ると、衝撃的な言葉が飛んできた。
「あなたがもしかして『ふーちゃん』って人ですか?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:向葉日万里
誕生日:不明
固有名 :Fntesh
制御番号:Nom.163917
種別 :T・TERRA
STR:5 MGI:0 DEX:0
BRK:5 CON:4 LUK:3
依代 :手袋
能力 :結晶崩壊・?????
後遺症 :不明
Interest RAT
Chapter 61-d 初動 - First Act
END
これにてCase61、大番狂わせの回を終了いたします
前回のラスボスが一瞬でやられるとは……
また、『巻き戻し』に気付く人間も急増……おっと
まだDルートは始まったばかりです
今回は一味違うお話になるので、ご期待くださいませ
次回は『金平糖』
引き続き楽しんでいただけると幸いです




