Case 61-4
2021年4月2日 完成
三刀坂と鳴下にばったりと出会う。
彼女らの喧嘩を避けるように学校へと辿り着いた……
【2月6日(木)・朝(8:20) 篠鶴学園高等部・1-3教室】
『そういや2月じゃまだ1年だったね』
エリスの慰めに、取り敢えず礼を返す。
着いて早々にいつもの調子で昇降口に行くと
下駄箱のネームプレートが別の人になっていた。
然もありなん
今の八朝には1年の時の記憶が無かった。
「まぁ、こういう時こそメモ様々なんだよな」
『だねー』
広げていたメモ帳をポケットにしまう。
恥はかいたが、これのお陰で遅刻は免れることが出来た。
筆まめな自分で助かったと安堵する。
「おはよーさん」
隣の席のクラスメートが話しかけて来る。
顔に見覚えが無い、2年で離ればなれになったのだろう。
「それで課題どうなのよ?」
「エリス、分かるか」
『うん、もう達成してるみたいだね』
こういう時にエリスはとても頼りになる。
そして、相手は大げさにも椅子からすっころんでしまう。
「大丈夫か?」
「平気平気……ってそうじゃねえ!
4つ目級にタゲられながら倒してたんかよ!?」
「4つ目級だからな
奴の攻撃を躱しながら雑魚を巻き込んだだけだよ」
達成した経緯は分からないのでテキトーに誤魔化してみる。
相手の反応は意外にも関心の溜息であった。
「マジか、頭いいな……それ真似していいか?」
「割と危険だからオススメはしない」
「大丈夫だ、俺には『神託』があるからな」
『神託』とは風属性異能力者が持つ属性スキルである。
スキル発動と共に問いを投げると、神からその解決法が教えられる、というものである。
これによって物品の作成や敵からの攻撃の回避などが可能となる。
因みに力量不足等による解決方法無しの回答は『ご武運を』となる。
「くれぐれも『お祈り』されんようにな」
「う……いやいや、俺が無理するようなタチか?」
そう聞き返されても
今の八朝にあるこの同級生の印象は『軽薄そうな声色』のみである。
「見えはしないが、巻き込まれそうではある」
「……否定できねぇ」
こうして見ず知らずの人間と親しく話しているのも奇妙な感覚である。
案外あっさりとコミュニケーションが取れるんだな、に加えて市新野の前例が過る。
(……何が市新野を変えたんだろうな)
曰く、最初から仲良かった口ぶりであるが、その覚えがない。
2回目の記憶喪失だと言われると弱いが、それでも気になって仕方がない。
後ろを見ると、丁度三刀坂が不機嫌な様子で入って来るのを見る。
「……」
「……お、おい、お前何かやらかしたか?」
隣の席の人が不安そうに言ってくる。
大体予想は付くが、彼に話してしまえば飛び火してしまうだろう。
(三刀坂もクラス間違えたな)
と、そこで朝のSHRのチャイムが鳴って先生が教室に入って来る。
「はい、お願いしますね」
「きりーつ、礼、着席」
起き抜けでやる気のない号令で、恒例の儀式を終える。
教壇まで上がった担任が、いつも通りに連絡事項を話し始める。
それだけで終わると思っていたが、今日は違っていた。
「はい、最後に市新野君の葬式ですが
明日に決まりましたので、親しい方はよろしくお願い致します」
たった今、担任が驚愕の事実を口にした。
葬式……即ち市新野が何らかの理由で死んだのだ。
(お、おい……どういう事だ死んだって)
(それも忘れたんかよ仕方ねえな
一昨日ぐらいに辰之中で市新野の焼殺遺体が発見されたんだよ)
隣の席の人が丁寧に経緯を話してくれる。
辰之中なので化物の仕業かと思われたが、食われた形跡が無い。
それで槍玉に挙がっているのが最早伝説と化した『妖魔』の再来である。
即ち『炎の妖魔』……と。
「……」
席を見渡すと、
深刻そうな顔をする沓田の姿もある。
確か彼の父は……。
(いや、5つ目級も食害する筈だ)
そう言い聞かせると、後ろからツンと刺される感触がする。
振り向くと同じように深刻そうな顔の三刀坂があった。
そして、渡された紙片にこう書かれていた。
『今の話、本当ならヤバいかも
そもそも十死の諸力って結束力が弱いから』
彼女の兄は『異能力者の殲滅』、異能部部長は『新しい世界でのイニシアチブ』
これだけ取っても皆が皆別々の方向を向いていることは確かである。
即ち、単独犯をしでかす可能性が高い。
『それも話し合いの時に出してみよう
ついでに沓田も呼んでいいか?』
紙片に追加で書き込んで三刀坂に返す。
その返しは首を縦に振って答えてくれた。
更に、端末にもメモ機能を使ってある事実を共有する。
『突然だが、今日俺は奴が死ぬ夢を見た』
『ど、どういう事!?』
『ああ、荒唐無稽だから話さなかっただけだ
奴の死因は『客星の妖魔』……あの高慢ちきの妖魔だ』
この一連のやり取りで自分の2つ目の異能力である『記憶遡行』の整理がつく。
過去・現在・未来を視認する『千里眼』の如き力。
それが『本物』が行使していた力の本質なのだと。
次でCase61が終了致します




