Case 60-i-2
2021年3月29日 完成
『創造神』曰く、この暗黒空間が『前と同じ選択をした世界』だという。
そして、その様子を見せてあげると言われ、足場から蹴落とされた……
【TIMESTAMP_ERROR ARRAYINDEX_OUTOFBOUNDS】
『昼寝ですの?
もうすぐ授業が始まりますわよ』
……。
…………。
………………。
『な……脈が無い……!?』
7月7日の昼休み中、八朝は息を引き取った。
原因は兼ねてから指摘されていた不眠による急性心不全。
医者曰く、どのような可能性でも8月まで生きることはできない。
『……』
鳴下が憔悴しきった顔で部屋から出る。
彼女に残ったプライドが涙を流させなかったのか、一歩一歩が痛々しい。
まさに『亡霊』と言わんばかりである。
そして月日は流れ、鳴下はあの『記憶遡行』と同じく死体と歩いている。
周囲から『骸抱』と呼ばれながら、逃れるように海岸へ。
(ここまでは一緒のようだ)
『創造神』が『前と同じ選択した世界』と事前に警鐘を鳴らしているが
単なる『選択ミス』なだけで何のために見せたのかいまいち掴みかねる。
(……選択ミス?)
不意につるっと出た言葉に愕然とする八朝。
それは悪疫の指摘通りの『悪行』に違いなかった。
『君、女の子をとっかえひっかえするのを楽しんでるでしょ?』
感傷に浸る暇は無い。
この後は確か『妖魔』に襲撃されるも、『祟り』が『妖魔』を撃退し……
『やはりこうでなくてはな!!』
妖魔の一撃が、ホーミングする矢を縫って鳴下へと至り
傍らで座る死体を粉々に吹き飛ばした。
「………………は?」
『祟り』が起きていない?
これは一体どういう事だ!?
『ああ……ぁぁぁぁぁぁあぁああああ』
『……やはりこうなるか
せめてもの慈悲に、苦しみなく浄土へと旅立つがよい』
やめろ……やめてくれ……!?
そいつの首を捩じ切らないでくれ!!
「あ……」
呆気なく物語が幕引きとなった。
その後、事件は『狂女の変死』として面白可笑しく消費されることとなった。
手で目を覆っても、耳までは塞げず
不愉快かつ絶望的な情報が押し付けられていく。
そして、その精神的衝撃で『記憶遡行』まで発動した。
即ち、この世界の自分がやらかした『選択』と『試行』の数々。
下された結論はたった一つ。
『鳴下』を選ぶ限り、8月まで生存することは無い。
『その通り、さっきからそう言ってるじゃないか
ちなみに、さっきのは君が『一番の愚行』だと断じてる『祟り』を省略した結果さ』
『創造神』の声が聞こえて来る。
恐らくは、そんな惨めな自分を笑いに来たのだろう。
やがて、絶望の未来が元の暗黒空間へと戻っていく。
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『お分かりいただけたかな?
もちろん誰を選ぼうが8月1日に到達することは無いけどね』
思考が絶望で鈍くなっていく。
だが、皮肉にも『創造神』の一言が刺激となり、ある一つの疑問に至る。
(そもそも後遺症って何だよ
これさえ無ければ俺も生き続けられるのでは……?)
見上げると、『創造神』のしたり顔。
コイツは人の心の中が読める事をすっかり忘れていた。
『よくぞ気が付いていただけた!
君の後遺症が治らない限り『記憶遡行』の効率も悪い』
『だから今回はこれと戦ってもらおう
具体的には君の目覚める時期を少し早めるんだけどね』
「……それは何時だ?」
『お、同意してくれるのは有り難い!
同意が無いと『早期覚醒』ができないからね』
『勿論、今の君なら大丈夫だし安心してね!』
転生準備となる精緻な魔法陣がどんどんと組みあがっていく。
張られたのが水色ではなく赤の魔法陣であり
その変化が、前回と違う『巻き戻し』なのだと自覚させられる。
『でも、君の使命が『記憶遡行』なのは忘れないでね』
「忘れるかよ
エリスを助けるためには使命とやらが必要だ」
『そう?
あそこの君はそれすらも忘れてるのにね』
指差したのは遥か下の暗黒。
即ち、先程の無意味な繰り返しを行った八朝の世界。
だが、ここである違和感に気付いた。
「待て、エリスはどうした?」
『え……何の事かな?』
「あの無駄に繰り返した俺の世界にエリスが居ないのはどういう事だ?」
それを聞いた『創造神』が殊更に笑みを深くする。
……『嘲笑』ではなく『実験体の蘇生』が笑みの意味だとはこの時の八朝は気付いていない。
更にもう一つ、彼の正体に迫る質問をぶつける。
「もう一つ、あのメモ帳は『空白の書』って言うらしいな
……お前、さしずめ『ペダル』の『導師』って奴なんだろ?」
『ああ、それね』
『お前が知る必要ある?』
魔法陣の光が全てを塗りつぶす。
恐らく、自分は4月よりも前に目を覚ます事になる。
目標は三つ。
・後遺症の解消
・『ペダル』という組織に迫る
・『鳴下』を諦める
(……ッ!!
覚えていろ、いつの日か必ず……!)
そうして八朝の意識は
いつも通りの自室天井の風景と、肌を苛む寒さから始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Return 0;
Process "ZayinNaxsh" is normal running.
Complete.
Interest RAT
RootD:Demon Does Different Decade Down
これにて間章は終了です
次回からは『Interest RAT』のRootD(第三章)をとなります
明日まで気長にお待ちください
タイトルが違う? ええ、そうですね……
いつから『ほぼ現実(リアル)以下略』が正しいと思ってた?
よく見てくださいよ、最初から『Interest RAT』でしたよ??
冗談はさておき、第三章の開幕となります
彼はこの世界でどんな選択をし
何を取り戻すのでしょうか?




