Case 60-0-3:Root B END3
2021年3月28日 完成
Case 59-1-53の続きとなります
事件から約一か月が経過した。
その間に篠鶴市も生まれ変わるように変化した。
【7月末日 篠鶴学園高等部・校舎内】
「ふざけるな!
返しやがれ!!」
それはある生徒たちの喧嘩の様子。
だが、異能力が関わっている以上その手段も過激になっている。
事実として啖呵を切った奴の周囲から無数の木の枝が出現する。
だが、それだけではなかろう……恐らくは夾竹桃等の毒の枝である。
相手は冷静に障壁を用いて防ぎきる。
「これは元々僕の取り分です
力の差が分かったのなら大人しく……ッ!」
油断しきった障壁の異能力者の首筋がバッサリと切り伏せられる。
手で患部を抑えるまでもなく出血は止まったが、代わりに何かが割れる音が響く。
「力の差が何だって?
大人しくするのはお前の方だろがい!」
「だが、貴方の一撃で僕を殺しきれなかった!
戦術では勝てても実力では負けているのです!!」
そう言い放つと周囲に半透明かつ球形の障壁が無数に出現する。
瞬間移動が使えるであろう相手の異能力者も躱しきれずに左手首が障壁で捕らえられる。
だが、それだけで何も起きない。
「……だから何だというんだ?
その『鱗』は俺のもんだ、返しやがれ!!」
そう言ってもう一度瞬間移動する。
その様子を観察していた八朝が動き出す。
(まずい……!
あの障壁は『割れる為にある』タイプだ)
障壁の異能力者の余裕そうな顔と、ある『異世界知識』から導き出した答え。
転んで割れて戻せない『卵の形をした紳士』。
その攻撃的な使い道が現在の状況なのだろうと悟る。
即ち、所定の位置から動いた『手首』を完全に破壊する呪詛。
このレベルの怪我だと自然回復が聞かずに失血死する可能性すらある。
どうでもいい記憶の再生と頭痛が、それが真実だと雄弁に語る。
(もう一つの問題は、瞬間移動する方だ
何をしているのか分からん以上、これは賭けになる……!)
『■■』
突如現れた霧を二人は無視する。
だが、あの後で思い知ったのはこの霧こそが『守神』の証。
異能力を丸裸にする神託の霧が立ち込める。
(……『月』と『愚者』、更に数詞の『女教皇』
言葉を用いる詐術ではなく、目に訴える方の騙し……)
その瞬間に相手の瞬間移動のトリックに気付く。
少し前のテレビで流行っていた動画形式の『間違い探し』。
俗に『アハ体験』と言われる視覚体験。
背景に仕掛けた依代或いは自分を徐々に浮かべたり消したりする。
なお、これに近いエウレカ効果の逸話として
『全ての自然数は高々3つの三角数の和』だと残した数学者がいる。
これが3に対応しているのは言うまでもない。
(だとすると、奴の枝は火属性の象徴である棒で
それに対応する枝の神器は、北欧の……)
余計に恐ろしい事態が明かになってしまった。
下手をすれば一人死ぬか学園が焼け落ちるかの2択。
辰之中の様な安全なスペースがない事を今更に悔やむ。
あのスピードでは『異世界知識』による呪術も振り切ってしまう。
だがそこに奇跡が起きる。
「な……!?」
枝が何かに弾かれたかのように飛んでいく。
この機を逃す訳にはいかない……必要なのは木と鳥と箱。
『■■! ■■! ■■!』
形を為せず霧状になるが今はこれでいい。
レーヴァテインには逸話通り『堂々巡りの試練』の中に封印されてもらう。
あと一つ。
枝はなくとも手は急に止まれない。
その為に最後に放った世界樹は障壁の異能力者に纏わりつかせる。
……即ち『刑死者』のいる『塀』に見立てて『動かさない』ようにする。
果たしてそれはどうなったか。
霧が晴れ、驚愕のまま固まる二人を『睡眠』で眠らせてその場を収めた。
【同日・約数十分後 篠鶴学園高等部・第二異能部室】
「あら、昼休みはお疲れ様ね『守人』」
「……それはもうよしてくれ」
「何を言ってますの?
私の代わりに拝命したのに文句がありますの?」
鳴下が不貞腐れたようにそっぽを向く。
こうなると明日までこの調子なので何とも言えなくなる。
勿論自分たちを取り巻く環境も様変わりした。
まず篠鶴機関の治安部門に散々荒らされた学園は
ほぼ一からのやり直しを余儀なくされた。
しかも辰之中の消滅と共に化物退治という大義名分まで失う。
これからはこの学園の存在意義を問われ続けることになるだろう。
同時に行き場のなくした異能力はこうして喧嘩に使われる。
前々から『校内での私闘禁止』は骨抜きになっていると指摘されていたが
この環境変化に伴い表面化してしまう。
だが、落ちるところがあればその逆もまた存在する。
それが八朝達の第二異能部であった。
八朝達が対人かつ対異能力の戦いに慣れていた事もあり
生徒たちが引き起こす殺し合いまがいの喧嘩を一つずつ止めてきた。
その甲斐もあり、現在は事件直後に比べてほんの少し安定するようになった。
立役者として八朝には『守人』を
鳴下には『破壊神』という二つ名が自然に生まれたのである。
彼女はこの事に不服なのである。
「大体何ですの破壊神って
私はこの学園の為を思って頑張ってきたんですのよ、それをどうして……!」
因みにこれに関する皆の回答は次の通りとなる。
喧嘩を止めた上で利害調整までしてくれるから『守人』
喧嘩そのものを魔力と一緒に消し飛ばすから『破壊神』
「それでも、ウチには過分な『綱紀粛正』を為すに
鳴下の協力はとても有難い……」
「な……なんですの?
おだてても無駄でしてよ」
現在鳴下の役職は生徒会長。
生徒会と部活の掛け持ちが禁止されているので彼女は部外者なのである。
「誤解を解くにはもう少し待ってくれ
少なくとも俺のクラスには鳴下を悪く言う奴はいなくなった」
「ふ……ふん、当たり前でしてよ!
あの三刀坂さんですらインターハイまでに2年も頑張っていらしたので!」
その為に彼女のプライベートが犠牲になっているのは口が裂けても言えない。
だが、この平和も長く続くことは無い。
先程の『奇跡』にはタネがある。
戒律との戦いの際に『未来へとループする空間』で放ったものである。
それを一つずつ『記憶遡行』で取り戻すと
ある一つの事実に行き当たる。
11月にはもうこの『奇跡』は起こらなくなる。
蝉の声が消えてなくなるころには、影の追撃もストップしてしまう。
さらに不眠の害が如何なる形で出現するかも未知数なのである。
それでも、この学園を存続させるには彼女を始めとした学園の皆の力が必要になる。
ここで折れるわけにはいかない。
「鳴下」
「な……なんですの?」
「あの時は俺の為に文字通り血を流して
場を清め続けてくれて本当に感謝する」
「そ……今更ですわよ
第一、本当に助けたのは錫沢の方ですし」
「それでも鳴下に言いたいんだ」
ここで場の空気が変になったことに気付く。
八朝は書類作業、そして鳴下はお弁当に慌てて戻る。
それでも時はゆったりと流れていく……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Return 0;
xxxxxxxx xxx
GOODEND5 加護 - Divine Protection
END
これにてRootBが終了いたしました
今回の章では『学園』が主体となっており
(当社比でほんの少し)青春成分が混入されています
王道の物語を目指したはずですが、いやはや……
取り敢えずノベラ版の修正をお待ちください
さてストーリーに戻すと未回収の問題がまだいくつも残っています
『妖魔』
『アイリス社』
『摂理侵食固体・IERシリーズ』
『ペダル』
そして未だに謎な『鷹狗ヶ島の虐殺』
どうして「死人は死なねばならぬ」なのでしょうか?
これらのうちいくつかは次章のキーワードになります
次話も楽しんで頂けたら幸いです
それではまた明日(なお間章の予定)




