Case 59-1-51
2021年3月26日 完成
Case59-1-4にて①を選んだ方はこちらからお読みください
未来に向かってループする世界に囚われた八朝。
その様子を辻守が見守り続けていた……
【TIMESTAMP_ERROR 篠鶴市地下xxxメートル】
『八朝さん!
駄目です……彼に反撃しては!』
八朝の目の前で叫ぶ辻守。
だが、八朝からは一切聞こえていない。
それが、彼に対する『悪魔』からの罰であった。
(そんな……!?
ここまで織り込み済みなのですか、姉さん!)
遡る事数日前。
八朝達の苦心により取り戻された悪魔の話には続きがあった。
『貴様はもう理解しているだろうな?』
「……『本当の姉と思ってはならない』ですね」
『その通り』
もう既にこの『悪魔』から姉である朱音の気配が微塵も無い。
それは兄弟故に小さい頃から過ごしてきた彼の直感によるものであった。
「でもそれは闇属性電子魔術の『反転』で……」
『言い訳しても無駄だ
悪魔とは神であり、神とは即ち契約なのだ』
『破れば即ち、罰を与えねばならぬ』
そう言って悪魔が少し考えこむ。
その人間らしい仕草に無意識にも油断してしまったのである。
『……では、透明人間になってもらおうか』
「透明……人間……ですか?」
『ああ、透明人間だ
一生お前は『透明』となるのだ、それが良い』
余りにもこちらに有利な罰で逆に疑ってしまう辻守。
だが、こういう話し合いで最も重要なのはパワーバランスなのだと彼は悟っている。
即ち強者である『悪魔』の一言目は最大譲歩、これを破れば忽ち条件は悪くなっていく。
「それで構いません」
『ああ、達者でな』
余りにも似つかわしくない言葉と共に、悪魔の気配が完全消滅した。
(そっか、悪魔は契約そのものだからもう……)
二度と朱音に会う事は出来ない。
それでも命を繋げれた事には意味がある。
そう思って数日間。
何かがおかしかった。
(どういう事だ!?
触れれない、気付いてくれない……これではまるで!)
つい先ほどの一幕で八朝に干渉できなかったように
彼は世界にいかなる波紋すらも起こせなくなってしまっていた。
だが、悪魔の置き土産である『千里眼』が
誰彼構わずその心裡を暴き立てていく。
『奴は友より『謀略を好む』と聞いた
我との彼我の差を前に考えなしに自死を選ぶはずがない』
『これは罠だな
『トドメが刺せる』と油断し、近づいた我を一撃死させる……』
これは戒律側の心境である。
確かに八朝が恐れていた通り、彼は完全には狂気に堕ちていない。
だが同時に不安材料があった。
『俺の現在が未来に彷徨いだしている
この状況なら戒律にも手が届く!』
自分が死ぬ一瞬を何度も見せられて挫折した八朝が
安易な解決策に走ろうとしているのである。
「そんな……!?
八朝さん、最初に言ったじゃないですか策略だって!」
「お願いですから……」
だが声は届かない。
即ちこれが『透明人間』……いや、記憶破壊刑の儀式魔術である。
今の辻守は、認識できるのに認識されない。
正真正銘の透明人間である。
彼の叫びも、真摯な訴えも、絶望の涙も
何一つ届くことなく、八朝の攻撃が予定通り行われた。
『……ッ!?』
灯杖の一撃が彼の心臓を打ち据える。
攻撃後も不整脈による嘔吐感で苦しんでいた。
(やはり罠であったか……!
ならば我も全力を出さねばならぬ!)
「!?
八朝さん! 早く一歩だけでもいいから!」
だが届かない。
八朝の現在と世界の現在が釣り合う410歩目から一歩も動かない。
確かにそこなら攻撃は届くだろう。
だが同時に戒律の闇属性電子魔術も同様である。
『■■■■■!』
錫杖をクロスさせて天に掲げる。
音は出ていない筈なのに、それだけで八朝が激烈な反応を見せる。
「あ……ぁ……ッ!?」
もう魂からの声も絶叫で塗り潰されている。
その上で実体が、無造作に自分の手を口に突っ込んでいる。
もう既に歯や顎がぐちゃぐちゃになっているのに、まだ続けている。
それでも生きている異能力者の力は凄まじいが、これでは死の苦痛を倍増させるだけである。
「やめて……やめて……」
透明人間である辻守は
やがて足場が崩壊し、二人とも溶岩に焼き尽くされるまでその場で泣き喚くだけだった。
◆◇◆◇◆◇
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xxxxxxxx xxx
■■■■■■■ 59-b 透明 - Damnatio Memoriae
END
これにてCase59、冥升の回を終了致します
……ご安心ください
彼は死にましたが、だからといって全てが終わりという訳ではありません
たった1000字未満ではありますが
何かをしていましたよね?
それがどういう結果になったのでしょうか……?
次回は『骸抱』となります
それでは引き続き楽しんでいただけると幸いです




