Case 59-1-4
2021年3月25日 完成
戒律の攻撃を食らい、地獄の如き幻覚に囚われる。
それでも死ななかった八朝に逆上した戒律に一芝居を打つ……
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『縺ェ窶ヲ窶ヲ??シ』
体中から力が抜け、末端から徐々に冷えていく。
書物だけの知識によるなら正しく『毒人参』を盛られた哲学者の如く。
一つ目の掛けである『仮死状態』はここに成る。
(そして……二つ目……
『夢遊病』を……思い出せ……!)
それは神出来が陥った異常に広範囲な夢走である。
質量の持たない『魂』だけによる輪形彷徨、それを現実の人間が行えるか?
無論、是である……それを利用して解決した筈だ。
(正しき星よ、彼我を呪い給え!)
選んだのは『峻厳の柱』を呼び出す詠唱。
この『形』と『柱』を呼び出す詠唱は、一定のルールで作られている。
例えば『至高の形』には機械言語としての『命令』
『慈愛の柱』には『裁判』を通じた制限解除、『中庸の柱』には果実を得る作業。
そして『峻厳の柱』には『悪魔召喚』がベースになっており
悪魔の魂を現世に繋ぎ止めるという意味で依代の中で最も適任である。
だが、用途が『空間汚染』と下手をすれば自滅を避けられない。
魂が汚染の果てに消えるか、繋ぎ止めたまま『周回』するか。
(……ッ!)
文字通り全身を溶かし圧する苦痛が、やがて消えていく。
それはある意味『消滅』の経験なのだと直感するが、どうやら何かが違う。
(あれ、思考がまだ残ってる……成功か!?)
だが周りが何も見えない。
やがて、それが光速と等しい速度の世界だと悟る。
反射している光を見ている筈なのに
同等の速さで進んでいる為、永遠に目に光がやってこない。
(だがこれでは俺が死んだだけだ
相手が興味を失くす所を確認しなければならない)
そして、油断している隙に止めを刺すための『異世界知識』も必要だ。
だが、どうやって?
どうしたものかと一歩進むと暗黒の世界に変化が訪れる。
『この先どうしよ?』
『大丈夫、私が部を失くさないように……』
『といってももう手錠は借りれないよね、篠鶴機関が消えたし』
聞こえてきたのは恐らく三刀坂と部の仲間の会話。
時期は分からないが『篠鶴機関の壊滅』という言葉から現在ではない。
(壊滅……何の事だ?
それに手錠が借りれないのは一大事だ)
彼女たちの部活に手錠の存在は欠かせない。
身体能力強化のある異能力者がフェアに戦うに異能力を制限する手段が必要なのである。
だが、それと現在の状況は全く関連していない。
(それでも進めば何かわかるかもしれない)
前に進み続ける。
輪形彷徨が作動しているなら、少しでも横に移動するだけで元に戻れなくなる。
歩くことに集中し過ぎて、一瞬訪れた光景を見逃す。
(何だ……!?
一瞬暗闇が晴れたような……?)
何らかの手掛かりだと悟った八朝が走り出す。
『学園生の蛮行により榑宮が傷ついた
我々は篠鶴学園の即時解体と、異能力者の全収容を求める!』
不穏な音が流れた後、もう一度一瞬明るくなる。
それを幾度となく繰り返してみる。
そして、自分が歩いた歩数を確かめてみる。
(410歩か……試す価値はありそうだ)
今度は数えながら歩く。
再び音声が流れたが全く要領の掴めないものだった。
そして409歩目。
一歩踏み出すと、戒律と戦った謎の赤い空間が見える。
そして、戒律が馬乗りになりナイフの切っ先をこちらに向けている。
「な……そんな馬鹿な!?」
八朝が十死の諸力を狂人の集まりと勘違いしたのが命取りとなった。
無理もない……あの悪疫を前にして正気を保っている構成員の方がおかしいのである。
確かめるためにもう何周かする。
やはり切っ先は徐々にこちらに近づいている。
(時間がコマ送りで見えているのか!)
理解した所で意味は無い。
相手は周到にも確殺を入れようとしている。
余りの絶望を前に一歩進む。
自分が死んでいく様子を見たくはない。
「……」
呆然自失のまま前に歩き続ける。
するともう何十回目かの『音声』が再び聞こえ始める。
『八朝さん! しっかりしてくださいまし!』
『汝等を『骸抱き』と称すると聞いて来てみたが、興醒めだ』
今までの経験から、恐らくは未来の話なのだろう。
(……ふざけるな)
それにしても、篠鶴機関不在の状況で妖魔が自分たちを襲うとは不愉快な。
しかもこれで二度目、この後鳴下が惨殺されるのも知っている。
【法源不明】236条:■■■■罪
『勅令を為し、この身に勝利を!』
異能力により失われた攻撃力を復活させる状態異常。
魂だけの状態でも殴れる筈なので
鳴下が殺される寸前に合わせて妖魔を殴る。
『な……!?』
『へ……?』
すると、聞いたことのない展開へと分岐した。
一瞬躊躇してくれたので、このまま何度もぶん殴る。
『……成程、それ故に『骸抱き』であるか
面白い、面白いぞ鳴下の呪われた裔よ!』
攻撃がさらに激化する。
それでも相手が諦めてくれるまで拳、灯杖、八雷神と『見えない敵』と死闘を繰り広げる。
『時間切れか
だがまた会いに来る、それまでは死ぬでないぞ我が門弟よ』
そして未来の運命が『鳴下の死』から分岐した。
(輪形彷徨が時空間に拡張されて
俺の現在が未来に彷徨いだしているのか?)
これは行けると思い走り出す。
最早自分が切っ先を向けられているのを忘れて未来に手を出す。
三刀坂に仮想の『手錠』を差し出し
篠鶴機関粉砕を掲げる狂人達に残らず『祟り』を仕掛ける。
だが、切っ先は喉元まで迫ってしまった。
(いやだ……死にたくない……!
こんなところで何も思い出せないまま……!)
そこまで独り言ちて、ふと気づいた。
もしかすると、この『切っ先』にも関与できるのでは、と。
まだそう決まった訳でもない。
だが、出来るとすれば悲願の『不意打ち』が実現することになる。
『……』
①戒律に反撃する
③戒律に反撃しない
次でCase59-1が終了します
更に次話も分岐いたします




