Case 58-4
2021年3月17日 完成(遅刻)
悪疫に立ち塞がる三刀坂と鳴下。
彼女たちは『利用されている』という事実にどんな決着をしたのだろうか……
【6月25日(水)・夕方(19:11) 抑川地区・太陽喫茶前】
「え、あれだけ聞いておきながら味方するのかい君達?」
悪疫が依代も出さずに腹を抱えて笑う。
そこには彼女らの謎の行動だけでなく、悪疫の実力との差という事実もあった。
要はその気になればこの男は『全員を瞬殺できる』のである。
「何かさっきから女々しい話してるけど
『騙し合う』事なんて、みんな普通にやってると思うけど」
「へぇ……」
唐突な同意に拍子を抜かれる悪疫。
流石は十死の諸力だと思っていたが、何やら違うらしい。
「人にはそれぞれの事情がありますの
でも、私は信じてくれる人の為に不義を働く気はありませんわ」
「ふーん、だったら八朝君返してくれないかな?」
「人は物ではありませんの
大方、そんな態度だったからそっぽを向かれたのではなくて?」
かと思ったら目の前で剣呑な雰囲気を漂わせている。
予定通りではないが仲違いには成功したらしく、悪疫が心中でほくそ笑む。
対して焦った八朝が何かを言おうとして止める。
喧嘩している二人が息を合わせた訳でもないのに目だけをこちらに向けて同時に小さく頷く。
「あなただって『巻き戻す前』は何もしなかった癖に」
「そもそも『巻き戻す前』というのが妄言ですわ、考慮に値しません」
「へぇ……そのお陰で何度命を救われたんでしょーねー?」
「当の本人が『もう既に違う未来になってる』って言ってますけど?」
「ねぇ、僕を無視して余裕だね君達」
既に腸鞭を取り出し、音を立てる。
だが二人は全然気づいていないらしく、悪疫が顔色を暗くさせる。
尚も無視して口論する二人に、ついにキレた。
「そんなに死にたいなら、そうしてあげるよ!!」
腸鞭が二人目掛けて迸る。
表面積だけならテニスコート一面分の大きさを持つ『腸』のリーチは大きい。
だが、最も恐ろしいのはその周りで漂う『見えない瘴気』。
即ち八朝達の世界にて『細菌』『ウイルス』と呼ばれる『生きた毒』の群れ。
「私は単にインターハイに出たいの!
『異能力者の癖に』って言ってる奴等の鼻っ柱折ってやりたいの!!」
「それを目指すのであれば尚更ですわ
貴方に足りないのは『知識』『教養』『経験』『信頼』その全てですの!」
『だから、私たちには『日常』が必要なの(ですの)
それを壊そうとする悪疫は許さない(許しませんわ)!』
騎士槍で重量を削り、弓弦の一弾きで吹き飛ばす。
これで三刀坂だけでも戦闘不能に、と思っていた悪疫の顔が驚愕に染まる。
「どうして……」
「どうして効いてないんだお前らは!!!」
◇◆◇◆◇◆
二人からの合図を受けた瞬間から八朝は自分の仕事に集中した。
即ち『仲間割れと見せかけて時間を稼いでいる間に、悪疫を破る方法を!』という事である。
(随分と簡単に言ってくれるが
俺の世界でも『死ぬ寸前』まで苦しめられたんだぞ)
2020年、誰も知らない伝染病が猛威を振るう悪夢のような光景。
最先端を行くと自負する『転生者達』ですら、悪疫に対してはお手上げなのである。
器具を用意すれば或いは、と言われても肝心のその器具を生み出す技術が無い。
(科学的なアプローチは駄目だ
今回もいつも通りに『オカルト』の方から攻めるしかない)
胸ポケットから端末を取り出してエリスを呼び出す。
『悪疫の固有名の解読』を依頼したそばから画面が変わる。
(既に調査済みか、助かる)
小声で彼女に感謝しつつ、結果を眺める。
恐らくは『著名な機関が公表した文章の一部分』から抜粋されている、というものである。
(成程な、じゃあ本当に『天然痘』なのか
ならば今すぐにでも思いつく方法は二つ)
一つは、中東に伝わる『目』の護符を利用する事である。
丁度八朝の依代の中に『目』を意味するものが含まれているので速攻で可能。
だが、その地域は度々『伝染病』が襲来し、夥しい死者が出ている。
実効性はかなり薄く、賭けになるのかもしれない。
もう一つは『アマビエ』という妖怪の力を借りるというものである。
病が流行ったとき、その姿を描いた物を多くの人に見せよ、という伝承で有名な守り神の一種である。
『アマビコ』との類似性も指摘されており、呼び出せれば確実
問題はその条件が『シバタの名を持つ者』であり、これをクリアする妙案が必要である。
(それぐらいは、問題ないんだがな)
(さて……)
①『目』の護符を依代に混ぜる
②『アマビエ』を召喚し、悪疫を無力化させる
次でCase58が終了致します
分岐もありますので次話の前書きもご覧ください




