Case 58-2
2021年3月15日 完成&誤字修正
「この一撃を以て積年返しとしよう」
『断層……最大解放』
『第零次臨界点射撃』
【6月25日(水)・夕方(18:50) 抑川地区・太陽喫茶前】
丸前の猛攻の最中、再び轟音が響く。
攻撃の手が止まった事で両者ともに距離を空ける事に成功する。
だがどれほど戦っても決定打にはならない。
互いが互いの弱点を掴み、異能力の自然回復が両者に驚異的な継戦力を与える。
どこかでこの膠着を打破する必要があった。
(こっちの疲労度も無視できない
何とかして丸前の次なる弱点……を……?)
端末をポケットにしまった瞬間に異変が生じた。
突如丸前から放たれていた闘気がゼロになった。
今、八朝達の視界の先に居るのは立っているだけの木偶である。
「え……何が……!?」
すると突然丸前が大量の血を吐いて倒れる。
そして、手や顔に夥しい『できもの』が浮かび上がってきた。
ああ、これは鹿室と沓田を殺した……
「悪疫……!」
「やぁ、元気にしてたかい?
あれれ、3人しかいないけど他はどうしたのかな?」
答えてやる気は無い。
新生とはいえ、彼にもある程度は戦況が伝わっている筈だからだ。
「それよりも、頼みの綱の『天神御守』が消えたようだが?」
「ん……ああ、『天神御守』ね
あんなのどうだっていいよ、寧ろ消えてくれて清々した」
「どういう事だ?」
「元々『天神御守』を持ち込んだのは習坎の方だし
別にあんなのが無くても『真の闇属性電子魔術』さえあればね!」
ここまで言った所で、わざとらしく口を押えて回答を拒否する悪疫。
丸前の言と特に矛盾はしていない。
そう、矛盾していないことが悪疫……ひいては十死の諸力の致命傷となり得る。
「そうか、全てお前の掌の上だって事か」
「ご名答……だったら、キミがすべき事はもう分かっているよね?」
暗に『粛清』をチラつかせる悪疫。
その手には乗らず依代を構えると、今度は困った顔になった。
「待ってよ、投降だよ『と・う・こ・う』!
僕はさ、全員が異能力者になる以外の事なんて求めてないし!」
「……」
「だからさ、僕を見逃して『地下シェルター』への道案内をよろしく!」
満面の笑みで答える悪疫。
だが、その言葉の裏には『地下深くに逃げたドブネズミ共を引き渡せ』と雄弁に告げている。
「ねぇ、どうして異能力に拘るの?
十死の諸力って単に『篠鶴機関が嫌い』ってだけの集まりなのに……」
「え、本当にそれだけの集まりだと思ったの!?
さっすが古参のおばあちゃんだよね三刀坂ちゃん!」
「頭までクソだとは思ってなかったよ」
嘲笑の色を隠さずにそう吐き捨てた。
だが、三刀坂は挑発にも乗らず話を続ける。
「だったらそのおばあちゃんに分かりやすいよう丁寧に教えてよ」
「自分で考えなよ、だからクソって言われるんだよ」
「ま、大方異能力者を差別してくる非能力者を無くして
みんな平等の理想社会を作るって話だろうと思うけど」
「ダサ過ぎて恥ずかしいと思わないの?」
逆に三刀坂の挑発に乗って雰囲気を変える悪疫。
「私の部活でも偶に起きたんだよ
落ちこぼれ同士が寄り集まって、その中で序列を決めてるっていう場面」
「……」
「結局はさ、意味ないの
全員同じにしたところで、些細な違いをあげつらって順番を決めようとする」
「理想人間たる異能力者にそんな悪習は持ち込まれない
非能力者共の論理を持ち込んで勝利気分だとか笑っちゃうよね」
「だったら、どうして元々なかった席ができちゃったの?」
その瞬間に初めて悪疫が不快感を露にする。
恐らくは『黙示録』由来の意味が込められているのにも関わらず
悪疫は、何故か忘れてしまっていた。
「ははははははははは!
何を言うかと思えば下らない、第五席が頭を張る時点で論理が壊れてるよ」
「いずれ消える運命なのさ、席はさ
全ては『真の闇属性電子魔術』の下、平等に!」
「すまんが、そのことについてマスターから伝言を預かった」
「何だい、ああ……そういえば天ヶ井博士か
どうぞどうぞ、どうせ今となっては全てが手遅れなんだけど……」
「『真の闇属性電子魔術』は既に発動された」
とうとう悪疫から平静さが失われた。
そして、驚愕の表情のまま何かをブツブツと言い募る
「まさか『天神御守』って……いや、流石に
でもあの化物……彼らもそこまで馬鹿だとは……」
「何を言っているかは分からんが
『新生』とお前は面従腹背の関係だったんだろ」
「お前の事だからペラペラと喋ったのだろうな、それが命取りだ」
彼のプランとしては以下の通りとなる。
『新生』と共に『異能力者の世界』という目的を共有させ
その際に手土産として『真の闇属性電子魔術』を持ち込む。
『新生』はそれを『天神御守』として転用するつもりだったが
6月26日でないと効果が薄く、それが悪疫の付け入る隙となった。
即ち、明日の発動に備えて準備した『介入法』が全て無駄になった。
今や『真の闇属性電子魔術』を発動できる咲良は
地下シェルターという安全圏に隠れ、再発動も絶望的。
「散々人を利用してきた報いだな」
「お前にだけは言われたくないよ、『転生者』
それじゃあさ、同類として聞きたい事があるんだけど」
「お前もそこの二人の乙女心に付け入ってあれやこれ
三刀坂ちゃんから『浮気』して楽しいのかい?」
続きます




