Case 57-5
2021年3月13日 完成
2021年3月14日 ストーリー変更
太陽喫茶を『異能部』もとい新生十死の諸力に襲撃される。
だが、躊躇なく味方を殺す丸前により混迷を極める……
【6月25日(水)・夕方(18:22) 抑川地区・太陽喫茶前】
「死ね、亡霊!!!」
丸前の咆哮と、全てを巻き込み破壊する黒輪が共鳴する。
阻むすべてを黒輪の徒にしながら八朝達に迫る。
『十の幻日よ!』
そこに鳴下の烏落としが炸裂する。
異能力の血肉である魔力を消されれば如何に『黒輪』とはいえひとたまりもない。
だが、黒輪は健在であった。
「そ……そんな……!?」
「我が無策にも亡霊に挑むと思ったか?
正体不明の環状銀河と魔力不使用……『異世界知識』破れたり!」
確かに『異世界知識』は八朝の死亡時点が基準となっている。
即ち、この時点でも『不明』となるものには滅法弱いという一面もあった。
だが、『銀河』という言葉を使った時点で八朝にも勝機が存在している。
「三刀坂、頼む」
「わかった!」
こんな曖昧な指示にも拘らず、彼女は銃剣を出す。
まさしく、重力によって形成される『銀河』にとって致命傷となり得るものを選んだ。
「吹っ飛べ!」
過重弾が砲身から迸り、黒輪に接触する。
渦よりも強い重力源により構造をかき乱され、黒輪が消滅する。
さらに過重弾に貫かれた丸前に『鈍足』の状態異常まで付いた。
「何……だと……!?」
「残念だが、こっちも負けるわけにはいかない」
八朝が灯杖を構えて丸前を見据える。
だが、丸前が突然呵々大笑を始めた。
「何がおかしいんだ?」
「我が努力が数秒で水泡に帰した滑稽!
やはり貴様は我が思惑を1段も2段も上回るよなァ?」
「そうでなくてはなァ! 亡霊!!」
丸前が初速度変更魔術を発動する。
それを見越した鳴下の二撃目が炸裂し、不発に終わらせる。
だが、その姿が霧の中に没し、風景まで霞んでいく。
「な……何ですのこれは!?」
「『村雨』の霧だね……だったら!!」
今度は騎士槍に変え、闇属性電子魔術の発動体制を取る。
霧の一粒に至るまでの『罪深さ』を測定するよりも早く肩口を切り裂かれる。
「……ッ!」
『一度見た技が通用するものか?
貴様から片付ければ残りは独活の大木!!』
全員を隔離してから、天敵となる三刀坂の排除を行う。
冷徹な丸前の戦術眼に八朝達は為す術がない。
そう、八朝達はである。
(あれ、どうして鳴下さん……?)
『Pnizzh!』
斬撃が三刀坂の腹部を捉える寸前
全てを覆い隠す霧が晴れた。
「な……!?」
『Nzyuk』
霧の向こうにいたのは魔力消去が使える鳴下と
いつの間にか丸前の刀を手にした弘治の姿があった。
「確かに聞いたぞ『村雨』と
ならばこうして奪い取るだけで能力が使えぬよな?」
弘治が勝ち誇ったような顔で丸前に対峙する。
だが、丸前から凶暴な笑みが消えていない。
「待て、何かがある!」
「安心するがいい、眷属よ
三方替の伝承、我が知らぬとでも……!?」
言い切るや否や弘治が驚愕に染まる。
自分が握っていた筈の刀が赤黒い豆形の……血を吐く肉塊。
即ち『腎臓』に姿を変え、弘治からあらん限りの血を吸い上げた。
「弘治!?」
「お兄ちゃん!!」
八朝は弘治の一大事に駆け寄ることはできず
眼前の丸前に阻まれる。
「成程、これが闇属性電子魔術
その点だけには感謝するぞ、疫病野郎!!」
「闇属性……電子魔術……!?」
何とか弾き返す事に成功するが、状況は変わっていない。
半ば戦闘不能に陥った三刀坂の戒めから解放された丸前は更に速度を上げる。
「くっ……!」
鳴下の矢すらも躱す丸前と
一か八か灯杖を地面に叩きつけ、反動で吹き飛ぼうとした八朝。
その間に黒色の雷が落ちてきた。
「……ッ!」
雷は石畳を裂き、阻む椅子や机を焼き尽くしながら移動し
幸運にも丸前の刀と接触する。
振り向くと、奴が遠い空の上に浮かんでいた。
「な……?」
見る見るうちに全天を覆いつくす黒雲。
雲を縦横無尽に迸る雷光。
即ち、アルキオネⅢ・『雷雨』のミチザネ。
「ははははははははは!
どこぞの誰かが真の闇属性電子魔術を発動したな?」
「どういう事だ?」
「亡霊……おかしいと思わなかったか?
『電子魔術』と付いておきながら『級』の存在しない闇属性電子魔術に!!」
丸前の煽りは、その実核心を突く内容であった。
即ちこの真の闇属性電子魔術こそが『天神御守』であり、闇属性の性質といえば……
「『進化』か?」
「その通り、その名の通り闇属性電子魔術は際限なく級が上がり続ける
その途中に『特定の要素』を割り込ませれば効果を自在に変えれると疫病野郎は抜かしていたが」
「実に興醒めだ」
言い終わるや否や丸前は刀をどんどん上に持ち上げていく。
まるで、ミチザネの攻撃を押し返しているように。
「!?」
「驚いているようだな亡霊
貴様を打ち倒すためには、これぐらいできなくて何になる?」
「は……?」
最早絶句するしかない。
酷過ぎる買い被りと共に、単なる執念が雷を押しのけていく。
それは見る人が見れば、正しく神話時代の英雄の如き……
「貴様も我等の決闘を汚す愚か者
貴様の如き犬畜生には『渦動斬』すら惜しい」
「死ね」
刀身を支える左手をスライドさせるようにして右手に力を籠め
咆哮と共に一気に切り払った。
彼の刀を侵していた雷は真っ二つに切られ、星の光が戻ってくる。
この瞬間にミチザネの主武装である『雷雨の黒雲』が破壊されてしまった。
『ふうちゃん
ミチザネが7つ目級に降格しちゃったんだけど……』
「多分、それぐらいはここにいる皆はもう知っている」
丸前巧、又は抗生。
化物の血であり肉である『水』を切り裂き、一刀の下で切り捨てる。
もしも八朝がいなかった場合、彼が英雄扱いになっていたのは間違いないだろう。
そしてその素養を『亡霊を殺す』だけの為に全てを捧げた。
(にしても、お前の異能力……
顕現級すら有効なのかよ!?)
雷を……ミチザネを切り裂いた余韻もここでおしまい。
首だけを傾けて、目線は仇敵に……切っ先もまた同様に。
「これで我等を邪魔する者はいなくなった」
「さぁ、続きをしようではないか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:天ヶ井咲良
誕生日:8月23日
固有名 :Vcsksw
制御番号:Sln.146233
種別 :O・UMBRA
STR:4 MGI:5 DEX:2
BRK:0 CON:3 LUK:8
依代 :鏡
能力 :超弦理論
後遺症 :際限なき体温上昇
備考:
天ヶ井博士による封印処理で『非能力者』となっていた
その際に闇属性電子魔術が使用された
なお彼女の『色盲』も
後遺症による視細胞の熱変性が原因である
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Chapter 57-b 天神 - Arcyone Ⅲ
END
これにてCase57、『発狂する闇』の回を終了いたします
表題にある『壁を操る能力』とは咲良の異能力の事であり
この『壁』も単なる壁ではなく、超弦理論に基づいた……
さて、ルートB(第2章)も大詰めです
ここに『新生十死の諸力』の目論見は潰されましたが、彼はそうではありません
何をする気なのでしょうか?
少なくとも、これに関しては『地面から生えた設定』を使う予定はありません
次回は『疫病』
それでは、引き続き楽しんでいただけると幸いです




