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Case 57-1:壁を操る能力

2021年3月8日 完成


 秘蔵の『天然ナノマシン(レトロウイルス)』で辛くも逃亡に成功した悪疫(アポリオン)

 全てを破壊する緑色のゲルが避けていく通路の奥にアジトが存在していた……




【6月25日(水)・昼(16:00) 迷宮(チュートリアル)中層・『十死の諸力フォーティンフォーセズ』のアジト】




「……凄まじい光景であるな、悪疫(アポリオン)

「当然ですよ

 切り札の1つたる『グレイ・グー』がお行儀が良い筈がないでしょう」


 窓外に広がる光景は一面の溶岩の海。

 つい1時間前までは『祈りの地』……即ち『辰之中』のモデルが丸ごと消え去っていた。


 無論、他二つの『切り札』が失敗の終わったときの保険としては十分すぎる。


「それで、『天神御守』はどこまで進んだのかな習坎(ブラキウム)

「『目』が無い今の我々では制御不能です」

「それでも核は残っているでしょう

 そいつの命なんてどうでもいいから早く進めてよ!」


 悪疫(アポリオン)の催促に閉口する習坎(アポリオン)

 やがてしびれを切らした悪疫(アポリオン)が机を思いっきり叩く。


「ねぇ、まさか僕に逆らう気なのかい?」

「我々の計画は漸次進行中ですとお伝えしたばかり……」

「本当なのかなぁ?

 そういえばさ、『生贄』が上手く死んでくれないって聞いたんだけど」


 習坎(ブラキウム)がポーカーフェイスを保ち続ける。

 まさか悪疫(アポリオン)が『目』も無しに動向に気付くのは予想外であったらしい。


彼女(・・)が死んでくれないとミチザネ(アルキオネⅢ)が喚べない

 喚べなければ僕の異能力を伝播できない……しかももう時間が無いんだけど!」

「『グレイ・グー』があれば伝播程度容易なのでしょう」

「ねぇ、全員死んでしまうんだけど……本気で言ってんのかな?」


 それは先程の戦いで三刀坂(みとさか)に放った『感染』の応用である。


 即ち依代(アーム)と同じ化物(ナイト)の身体に感染させ

 ミチザネ(アルキオネⅢ)の『雷雨』を用いて『異能力症候群』を伝播させる。


 そしてミチザネ(アルキオネⅢ)を喚べるのは1年で1回のみ。

 即ち『雷の日』と称される6月26日(あした)以外不可能なのである。


「お言葉ですが、そちらの『間在の鼠』はどのように」

「……言われなくても用意は万端なんだけど、今はその話じゃない!」


 悪疫(アポリオン)からの苛立ちを感じながら、習坎(ブラキウム)は目を閉じる。

 ああ、これはもう潮時なのかもしれない……と。


「ええ、必ず明日には間に合わせます故心配なさらぬよう」

「……だったらいいんだけどね

 君達のその『数』は『異能力者だけの世界』に必要なんだから頑張ってよね」

「『異能力者だけの世界』の為に」




「……それ、僕達しか(・・)いないのに今更必要なの?」




 そうして悪疫(アポリオン)がアジトから立ち去る。

 その背中に誰もついてこない様子を見ながら習坎(ブラキウム)がほくそ笑む。


十死の諸力フォーティンフォーセズは脆い物であった

 我々『異能力者だけの世界』の前に『篠鶴機関への復讐』だけでは荷が重すぎたか)


 壁の中、収納の奥、天井の隅、机の下、窓に掛かる両手の指。

 それら全てが悪疫(アポリオン)の命を狙っていたとは誰が思っていたか。


(裏切られた時点で貴殿達は用済みだ

 これからは我々『異能部』が貴殿らに成り代わり、使命を果たそう)


 十死の諸力フォーティンフォーセズと『異能部』の蜜月が終了する。


 そこにタイミングよく扉をノックする音が聞こえる。

 『入れ』の一言で姿を現したのは、世間的には『左壁(ヘリア)』とあだ名される篠鶴機関の幹部。


「何か用かね?」

「用も何も、辰之中に入った部下たちが今も意識不明なんだけど」

「ああ、貴殿の想像通り『グレイ・グー』が発動した」


 その言葉で頭を押さえ天を仰ぐ左壁(ヘリア)

 『異能部』と篠鶴機関の繋がりを考えれば、この奇妙な二人の関係にも頷くことはできる。


 即ち『治安部門のクーデター』も十死の諸力フォーティンフォーセズ主導で引き起こされた。


「マジかよ……

 アイリス社もやっこ(榑宮住民)さんの戦意ももう無いのに」

「ああ、これ以上減らすのは限界だ」


 彼らの目指す『異能力者だけの世界』に非能力者(いっぱんじん)の居場所は無い。

 その際に抵抗勢力になるであろう『榑宮』を消滅させておきたかったが、できないのであれば致し方は無い。


 異能力者も非能力者にも被害が出るが、『アレ』の居ぬ間に喚ぶしかない。


「それで、『天神御守』の生贄は?」

「相変わらず逃げてるよ

 しかも正体不明の力でこちらの攻撃が通じない」

「正体不明?」

「ああ、殺しても『天神御守(なかみ)』がスッカラカンで鼬ごっこさ」


 習坎(ブラキウム)が少し考えこむ。

 彼女の身近な人間で『囮作成』の能力(ギフト)を持った人物……


八朝(ヤツ)か……厄介な)


 原因があるのであれば、今まで通り『除去』してやればいいのだが

 相手が亡霊(アンデッド)……ほぼ不死身の八朝(やとも)に生半可な攻撃は通じない。


 だが、それ以上に彼の依代(アーム)を持っている理屈が存在しない。


「どうしたんだ絃風(シプレス)

「ここでは習坎(ブラキウム)

 ……いや、『目くら』相手に不要であったな」

「『目くら』って何だよ

 もしかして箱家(はこいえ)が死んだのか?」




「ああ、どうやら『殺した』らしい」




 その言葉に二人……いや、隠れている全ての者の哄笑が聞こえて来る。


 時は来た、頭無き十死の諸力フォーティンフォーセズに代わり、我々が秩序を敷こう。

 後は『天神御守』の生贄を殺すだけだが……ふと妙案が思いついた。


「耳を貸すが良い『左壁(ヘリア)』」

「……ほうほう

 確かにその方法なら殺せるよな」


抗生(シナバー)福神(フォルトゥナ)


 掛け声とタイムラグなく、控えめな足音が4つ。

 跪く2人に向かって習坎(ブラキウム)……もとい異能部の絃風(シプレス)が命を下す。




「太陽喫茶を襲撃せよ」 




続きます

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