Case 56-5
2021年3月7日 完成
悪疫に苦戦しながらも、致命傷は避け続ける。
後は彼から逃げるだけなのだが、それが最も難しい……
【6月25日(水)・昼(15:38) 迷宮深層・祈りの地】
「何のトリックを使ったか分からんが
連発すれば防ぎようが無いでしょう!」
悪疫が攻撃の合間に致死性の微生物が入った小瓶を何度も投げ込む。
八朝どころか鳴下や三刀坂にすらダメージが入らない。
『■■!』
「何度も同じ手には……!」
八朝の地面捲り上げをジャンプして回避する。
その後ろに三刀坂の騎士槍が生えて来る。
『Sudbs!』
悪疫が腸鞭で騎士槍を打ち据える。
回収できない騎士槍を戻した瞬間、三刀坂が倒れる。
「三刀坂さん!?」
「ごめん……ちょっと気分が悪い……」
腸鞭が当たった所が、まるで汚されたかのように白化が進む。
その様子に愉悦の止まらない悪疫が手を叩く。
「ちょっとではありませんよ?
僕の腸鞭には100種類を超える殺人微生物が感染しているのですから」
この『気分悪い』とは多臓器不全の症状である。
ようやく距離を取り、鳴下のところまで後退できた。
「すまんが、1分任せられるか?」
「エリスさんを貸して頂けるなら」
『勿論いいよ!』
まるでサナダムシのように蠢く腸鞭を相手に
三刀坂が両手に矢を持ち、近接戦闘の構えを取る。
「……八朝……君……?」
「ああ、直接は当てられていない……これなら助けられる」
手に持っている騎士槍以外に病変は見当たらない。
「すまん、少し耐えてくれ!」
そうして八朝が呼んだのは■■と■■。
即ち『峻厳の柱』の空間汚染によるスリップダメージ。
『契約の下、我等を等しく呪え!』
八朝を中心に呪詛の霧が撒き散らされる。
それは八朝も三刀坂も道連れに、激しい苦痛を与えていく。
「ほら見てよ
君達を置いて心中しようとしてる!」
一瞬、悪疫を信じてしまい動きを止めてしまう三刀坂。
その隙を突いて放たれた腸鞭の叩きつけが障壁魔術に止められる。
だが、障壁も黒く変色してボロボロと崩れてしまっている。
(一体何をしようとしているんですの!?)
鳴下神楽の『目』があの二人の依代を猛烈に削っていっている。
それは悪疫の病変を超えるスピードであった。
そして唐突にパキンと音を立てて騎士槍が折れる。
「ほら、ほーら!
君達も大人しく投降すれば楽には殺してあげるから!」
「死ぬつもりはありませんわ
それは、八朝さんと三刀坂さんも同じですわ!」
『暦を踏みて、我等は糧を得る!』
それは誰も聞いたことのない詠唱。
それはカバラの中でも特に危険な『矢の小径』にも例えられる中庸の柱。
真摯な神への祈りの果てに、騎士槍がみるみるうちに再生していく。
「な……!?」
「やはり、貴方の思い過ごしでしたわね」
霧として漂う中庸の柱が騎士槍の補修を行い、ついには復元される。
そして目を覚ました三刀坂が何事も無かったかのように騎士槍を握り直す。
『Isfjt!』
騎士槍が『銃剣』へと姿を変え、狙いを定める。
だが、悪疫も負けじと残り全ての『小瓶』を投げ飛ばし、腸鞭で砕く。
「……ッ!」
小瓶に依代すらも当たってはいけないと悟った鳴下達が
バックステップで距離を取り、八朝達の元へと戻る。
「捉えた!」
三刀坂の過重弾が、悪疫の手を捉える。
悪疫が脂汗を掻きながら手首から先が無い利き腕を抑える。
「やるね……キミ達
でも、僕はまだやらなくちゃいけないことがあるんだ!」
『Isfjt!』
無慈悲に放たれた二発目が、虚空で分解されて消え失せる。
悪疫の足元に緑色の沼が形成されている。
「僕の身体を補修する天然ナノマシン
だが……僕からの神経に数秒触れないと、こうして分裂が暴走する!」
即ち、グレイ・グーと呼ばれる惑星災害の前触れである。
既に暴走している天然ナノマシンの改変により周囲の物質が滅茶苦茶に書き換えられていく。
「僕はここで退散させてもらうよ!」
悔しいが、ここは彼の言う通り見逃すしかない。
それよりも深刻な危機に対処しなければならないのである。
『どうするのコレ!?』
「鉄すら溶かす高熱が必要だが、誰も使えないだろ?」
「逃げるしかない!」
八朝達が地上を目指して駈け出す。
その後ろで天然ナノマシンに呑まれた万物が緑色のゲルとなって溶けていく。
「これが地上まで滲出したら……」
「大丈夫だ
その前に代謝熱で失活温度まで上がって増殖が止まる……筈」
『祈りの地』の全景を覆う水の輝きが目に入る。
これでは鳴下の思惑通り、地上にも被害が……
「……誰か」
『鉄をも溶かす『炎』が御所望なのね?』
目の前にいたのは朱音と、小脇に抱えられている辻守の姿。
願っても無い援軍である。
「ああ、何でも代償を払ってやる!」
『では契約を果たそう……』
その後ろで爆炎が炸裂する。
余りの高エネルギーに青く輝く火炎が、ゲルを残らず灰に変えていく。
彼女の真っ黒な身体では表情は分からないが
誇らしそうに笑っているのは確かであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:錫沢瑠香
誕生日:5月19日
固有名 :Gyuzfj
制御番号:Nom.73731
種別 :Q・AQUAE
STR:1 MGI:1 DEX:3
BRK:4 CON:1 LUK:0
依代 :不明
能力 :微霊召喚
後遺症 :不明
備考:
・彼女の父である錫沢英丸から継承
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Chapter 56-b 奪還 - Recapture
END
これにてCase56、再召喚の回を終了致します
錫沢の能力は決して弱くはありませんが
いかんせんマトモな威力を叩きだすのに致命的に時間が掛かるのです
その制約をクリアすれば後はご覧の通り
相手が『退魔の悪魔』でも無ければ一方的に蹂躙できます
因みに奪還した辻守は後に戦局を変える鍵となります
次回は『火雷天気毒王』となります
それでは引き続き楽しんでいただけると幸いです




