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Case 56-4

2021年3月6日 完成


 フラウロスの救出|(分離)に成功した七殺(ザミディムラ)錫沢(すずさわ)

 一方残りの三人は『想定外』の場所に足を運んでいた……




【6月25日(水)・昼(15:30) 迷宮(チュートリアル)深層・祈りの地】




「どうして彼ら(・・)がここにいるんだい、箱家(はこいえ)君?」

「そ……そんな筈は

 も、申し訳ありません!」


 箱家(はこいえ)が額を割るのも厭わないぐらいの土下座。

 彼の性格を考えて珍しい光景なのだが、それも仕方ない相手である。


 十死の諸力フォーティーンフォーセズ第五席・悪疫のアポリオンの目の前なのだから。


「それは済まない事をした

 大体『天神御守』を探知した筈の篠鶴機関が一人もいなかった」


「その時点で俺らはこれが『時間稼ぎ』と気づいた」


 それ故に『監視者』の目を騙して作戦を進める必要があった。

 『巻き戻す前』のままであるなら箱家(はこいえ)は『盗聴』までしかできない。


 言行不一致だけで簡単に騙せるのである。


 別に箱家(はこいえ)の弁護をしているつもりはないが

 ここまで真摯な彼を見ていると、少なからず胸が痛んでしまう。


「それで、狙いを狐狸(アルゴル)にって訳ですね」

狐狸(アルゴル)ではない、辻守晴斗(つじもりはると)……俺の後輩だ」


 途端に悪疫(アポリオン)がけたたましく笑い始める。

 その様子を不審に思ってか箱家(はこいえ)が制止しようとする。


「ど、どうかなさ……おごっ!」


 悪疫(アポリオン)に血痰を吐き散らかして蹲る。

 咳き込む彼に冷淡な視線を向ける悪疫(アポリオン)


「君の忠告通り静かにしてあげたよ」

「ぇ……ッあ゛!

 ど……どおじでごんなごどを゛!」

「いや当たり前じゃん

 他人に唾を吐きかけては駄目だよ、お母さんに習わなかったかな?」


 やがて意思疎通が不可能と判断した箱家(はこいえ)がこちらに縋ってくる。

 あの血に触れるわけにはいかず、一歩ずつ離れていく。


「だ……だずげでぇ!

 ど、どどどももだちちちじゃないががが!」

「……残念だが、もう助からない」


 やがて這う体力すら尽きて、動かなくなる。

 口から桃色の泡を吹きながら、濁った眼で絶命する。


「酷いなぁ、友達じゃなかったら助けないのかい君?」

「意味不明な理由で殺す奴に言われたくはないな」

「君もそうじゃないか」


 その言葉に一瞬動揺を見せてしまう。

 悪疫(アポリオン)はその姿を見て意を得たりと手を叩いて笑う。


「『何故それを』って、簡単じゃないか!

 君と僕はもうほんとに同一人物ってぐらいに似ているんだよ」


「大量に人を殺した血の匂いがするんだよね!」


 恐らくは人の道を踏み外したものにしか分からない特殊な感覚である。

 確かに八朝(やとも)も、次に彼が何をしようとしている事が手に取るように分かる。


 鳴下(なりもと)三刀坂(みとさか)から殺す。


 そうして、例え相手に殺される結果になったとしても、

 心を抉り取られた相手は一生その傷を背負う。


「なんだ、良く分かってるじゃないか!

 それに僕の能力(ギフト)はそれにうってつけなのさ!」


 『病原性微生物を作り出す』能力。

 この世界から失われた『微生物学』のうち目に見えない『疫病』で殺す能力。


 そして視線を漸く感じた鳴下(なりもと)達が依代(アーム)を構える。


「無駄ですわ

 三刀坂(みとさか)さんには『弾圧』、私には神楽による魔力消去がありますの」

「へぇ~

 でもさ、だったら八朝(やとも)くんにはいよいよ何も無い訳だよね?」


 殺意が八朝(やとも)に切り替わった瞬間、鋭い空気の感触を覚える。

 それが薄く展開した(taw)の変質だと悟り、『(パス)』の暗示通りに左に一歩。


 次は横合いからの一撃……を中途で引き返すことで鞭が輪のように締まる。

 なお、この攻撃は避けなくてもいい。


『この者に900の咎有り

 呵責なく劫火へと焼べよ!』


 腸鞭(アーム)が『弾圧』を食らい、地面に叩き落される。

 縫いつけられて上手く引き戻せない悪疫(アポリオン)に向かって駆けだす。


 だが、彼の顔には不敵な笑いが張り付いている。


「馬鹿め

 まだ闇属性電子魔術(グラムアンブラ)があるんだよ!」


 ショルダーバッグから小瓶を数個投げ放つ。

 内容物の増殖圧で瓶が割れ、辺り一帯を『疫病』で包む。


『十の幻月よ!』


 鳴下(なりもと)弓を番えて(・・・・・)(からす)落としを放つ。

 だが、『疫病』は消えず八朝(やとも)の姿を覆い隠していく。


八朝(やとも)さん!」

「残念でした!

 この『疫病』は僕のオリジナル……人間の益となる菌株から作った殺人細菌!!」


 即ち大腸菌系の病原性微生物である。

 遅効性ではあるが、こうして『異世界知識(オカルト)』も『退魔』も搔い潜った。


 後は、発疹塗れになった哀れな八朝(かれ)の姿を確認するだけだが

 霧から抜けて眼前に接近したのは『無傷』の八朝(やとも)だった。


「な……に……!?」

■■(res)!』


 八朝(やとも)は『転倒』の(アーム)で地面を引っぺがし

 悪疫(アポリオン)を真後ろに転倒させる。


『Libzd!』

■■(digg)!』


 更に、その頭めがけて騎士槍(アーム)と『拘束』の待針(digg)を重ねる。

 即ち、悪疫(アポリオン)は転ぶ勢いのまま頭を騎士槍(アーム)で貫かれる事になる。


『Sudbs!』


 悪疫(アポリオン)は目論見通り騎士槍(アーム)で頭を抉られた。

 だが、騎士槍(アーム)を両手でつかみ、無理やり引きはがした。


 まるでUの字型になった頭が、見る見るうちに再生していく。


「どうして僕の『浸食性大腸菌(発疹チフス)』が効かなかったんだい?」

「それが知りたいなら、先程のように犬死を晒すと良い」

次でCase56が終了します

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