Case 56-3
2021年3月5日 完成
『ああ、俺らが『天神御守』を狙う事は相手も察してはいるだろう』
『だからその裏を突く事にする
今回の目標は『辻守晴斗』の救出だ』
【6月25日(水)・昼(15:22) 迷宮深層・祈りの地】
辻守と七殺が一進一退の攻防を続ける。
その際に飛び散った破片や火の粉が徐々に空間を汚染していき、魔力が乱れ始める。
この状態で異能力を使えば一発で暴走しかねない。
だが、この危険な状態で錫沢が余裕そうに微笑む。
(動物霊、亡霊、呪詛……
ええ、この状況こそ錫沢に伝わる異能力の神髄!)
とはいえ英丸から受け継いだものをこうも大袈裟に言ってのける。
そして、典礼の準備が整い、後は詠唱を唱えるだけでいい。
『■■■■■!』
だが、大仰に唱えて出てきたのは弱々しい狐の霊。
攻撃を止めて期待していた七殺ですら残念そうな顔をする。
「これが錫沢一族の『微霊召喚』ですわ!」
「……その情けない塵芥で勝てるとでも?」
「あら、貴方も愚父と同じことをおっしゃいますのね?」
最早憐みの感情が勝って煽りすらも感じない辻守。
彼女らを視界にも入れず、遅延詠唱で放った火属性電子魔術であしらう。
「ああっ!
私の可愛い『微霊』が……!」
何もかもが大袈裟な錫沢であった。
(ふうちゃん……さすがにこれは軽蔑するよ)
ゴミを押し付けられたのかと思う。
疲労感が2倍になった所に、再び辻守からの猛攻が炸裂する。
その目の前を、火球の如き大霊が落ちてきた。
「「!!!?!??」」
余りにも唐突な一撃に防御姿勢しか取れず、まともに食らう。
爆炎が展開前の遅延発動式を吹き飛ばし、これまでの劣勢が覆る。
「あら、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をして」
「お前……何をした!」
「ですから『微霊』ですの
……まぁ、貴方達が散々荒らしてくれたお陰で1000匹ぐらい呼べたのですけど」
辻守が『取り込んだ悪魔の力』でその様子を観察する。
1つ1つは微弱な霊が、精妙に組み合わさって『魔神』レベルの威容を為している。
『転生者』がそれを見るなら
まさに無数の小魚で大魚を追い払うあの『絵本』のようだと口にする。
「天狐……流星か!」
「あら、博識ですこと
ですがそれだけではありませんわ」
錫沢が長いスカートをつまんで恭しく一礼する。
その後ろの暗闇から無数の『瞳』がきらりと瞬く。
『犬神』『刑部狸』『鎌鼬』『斉天大聖』『猫妖精』『悪竜人』『虹蛇』……
「……ッ!」
「これぞ愚父の捨てし『微霊』の真髄
ええ、皆で集まれば『神』すらも超えれましょうや」
だが、これで勝った気になる錫沢をほくそ笑む。
「あら、何ですのその顔?」
「馬鹿め、八朝から聞いていないのか?
僕には『対魔』の魔神……フラウロスが付いている事を!」
手を翳す。
それだけで暗闇が忽ち城壁のように燃え上がる。
まるで『彼ら』を紛い物だと言わんばかりに劫火が蹂躙する。
逃げ惑う微霊が蛍のように飛び散る。
「ああっ! 何てことですの!?」
「フラウロスは『あらゆる悪魔に抗う術を知る』魔神!
お前が愚かにも東洋の『悪魔』を呼びまくったお陰でこの様だ!」
「お前も炎に巻かれるがよい!」
炎は更に勢いを増して錫沢を飲み込まんとする。
「錫沢さん!」
「ふふ……甘いですわ
それも私の想定通りですわ!!」
突如として炎が回転に巻き込まれていく。
上から見れば錫沢を目にして荒れ狂う台風の如き威容となっていく。
「お前……楽に死なせはしない!」
七殺が更にペースを上げて攻撃を仕掛ける。
だが、辻守は『想定外の事態』に内心焦っていた。
(何だあの炎は……そう命令した覚えは無い!
しかもさっきから炎の調子がどんどんと悪くなっていく……!)
その台風の中で、錫沢がようやく典礼の式を発動させる。
これこそが彼女の言う父が断念した『神の召喚式』
父のように素材だけ揃えて単独で召喚するのではなく
フラウロスが撒き散らした破片を『微霊』として再度織り込む召喚式。
『我は訴える、至高の御名において……』
十字と、両翼の如く広がる十字文様の書かれた物体
そしてHAURESの文字を囲む二重の魔法円。
即ち、フラウロスの魔法円。
『noctrus Nvgh ingress hibernal solstice……』
星辰をフラウロスのそれと合わせる。
即ち、夜半に金星が山羊座のある冬至点へと進む様子。
唐突に、渦巻くすべての微霊とカチリと波長が合った。
『さあ、おいでなさい
36の軍団を支配せし地獄の侯爵!』
唐突に台風が制止し、魔法円の中で手を上げる錫沢が見える。
その手の上に赤い星が出現し、暴風を撒き散らす。
「……ッ!!
ね、姉さん……?」
『そうだけど、随分と暴れてくれたね愚弟?』
続きます




