Case 56-2
2021年3月4日 完成&誤字修正
まぁ、彼らが最初に目を付けるとしたら『ここ』だよね。
という事でキミ、いかにもそれっぽく邪魔してくれないかな?
【6月25日(水)・昼(15:10) 迷宮深層・祈りの地】
「これは……?」
それまでの薄暗い洞窟の道から一転して青い光が彼らを出迎える。
洞窟を抜けると、第五席から逃げた時に見たあの『偽の篠鶴市』であった。
「ああ、少しずつ思い出してきた
『創造神』から最後の試練だと言われて、この廃墟から脱出した」
『今にしてみると『辰之中』と瓜二つだったよね』
「そうだな
こうやって看板が欠け過ぎて別の文字になってしまっている所とか」
八朝とエリスがあの時の話をする。
だが、誰も付いていけず不思議そうな顔をする。
「ああ、すまん……それで」
「いえ、貴方達『転生者』が口にしていた『迷宮』が実在していたなんて」
鳴下も近所付き合いで何回か『転生者』の話を聞いている。
その話と、実在の風景との符号性に驚きを隠せない。
「その彼らは何か言ってたのか」
「ええ、細かくは思い出せませんですが……
確か全員して『辰之中はあの時の事を思い出すから使いたくない』って」
「そうそう、4月より前の八朝君も言ってたね」
そう言われて、突然あの頭痛が蘇る。
確かに『辰之中』を嫌がっていた、何ならそのせいで『Ekaawhs』を過大評価した節がある。
「『辰之中から生まれた化物は危険だ』」
「そうそう、それ
八朝君、頑なに化物を『Resh-He』って言ってた」
一連の会話で子細を思い出していく。
だがここでのんびりしている余裕は無い、先へ進む為に話を戻す。
「それで『天神御守』の位置であるが
俺としては菅原道真と、また一つ別の可能性を睨んでいる」
「転生の間はその一つだ
『転生者』への最終試験が始まった瞬間に消えてなくなった」
「隠し場所としては最適だろう」
尤もそれは十死の諸力がその存在を知っているかどうかである。
中には『転生者』の構成員もいるかもしれないが、彼らの話は与太話として破却されるのがオチである。
「まずはそこから探す
何も無ければエリスの作成したリストで手分けして探す、これでいいな?」
全員が首肯する。
今は一刻の猶予もなく、駆け足で八朝の誘導に従っていく。
そして現場に辿り着いたが、やはり何もない。
だが魔力の痕跡があるとすれば、即座に気付ける人物がいる。
「ここ、何かが見えますの
ええ……まるでおばあさまの家にあったような魔術で」
それで得心がいった。
『渡れずの横断歩道』
特定の動作の無い1方向からの侵入を拒絶する結界。
霧による分析で、鳴下本家と同じものと判明する。
全員の反応を見て八朝が決断する。
「それじゃあ中に入るぞ」
◇◆◇◆◇◆
掛け声も無く、呼吸を合わせてその部屋に侵入する。
『転生者』がその転生に使うとされる部屋には何もない。
事前に『殺風景だった』とは聞いていたが
光が無いとここまで不気味に見えるのか。
「この先に『天神御守』が」
「その筈だね
まぁ、絶対に誰かいると思うけど!」
七殺が徐に薙刀を振るう。
どうやら確かな手ごたえと、最悪な予想が当たった事で彼女の顔が歪む。
暗闇からもやのような人影が見える。
「貴方、今からでも遅くは無いですの……だから!」
「部外者のお前達には何も関係は無い」
冷酷な答えが返ってくる。
事前に聞いていた辻守の人柄とまるで合っていない。
「それで、どうしてお前達がここにいる」
「当たり前ですわ
『天神御守』を無力化して貴方達の野望を」
「違う!
どうして八朝が居ないのにここに気づいたんだ!?」
逆上し、周囲に炎を撒き散らす辻守。
その影響で闇が少し晴れ、周囲の状況が朧気に見える。
それほど広くない部屋に少々の調度品。
そして、全身を依代に覆われた漆黒の辻守の姿が露になる。
(やはり彼の予想通り!
ええ、間違いなく私にしかできない事ですの!)
錫沢の決断と、辻守の気付きが重なる。
「ああ、そうか『裏切者』が居たな」
「そういうアンタは『新参』の癖に態度がデカいわね」
「抜かすな、薄汚い『偽物』風情が」
「そういうけど
アンタの大好きなふうちゃんも『偽物』なんだけど?」
辻守と七殺が煽り合う。
そして話題が尽きた瞬間に、甲高い金属音が鳴り響く。
一息で距離を0にし、必殺の勢いで放たれた七殺の一閃が鎧に阻まれる。
「この程度
『神』に通用するとでも!!」
続く鎧の赤化と共に、灼熱の波動が放たれる。
部屋中の丁度品……どころか壁や天井までも火に包まれる。
そして八朝が『人が並べる広さだった』という矛盾点が漆黒の空間として露となる。
「随分とご機嫌だね、狐狸?」
「その通りだとも
七殺みたいな雑魚を寄こす八朝の気遣いが透けて見えそうだよ」
「お望み通りお前を殺してからあちらの雑魚も片付けようではないか!」
続いて彼の周りを凄まじい数の魔法円が渦巻く。
弾ける度に火属性電子魔術が発動し、辺り一帯を炎上させる。
余りの熱に生成した斬撃が撓み、攻撃の用を為さない。
「どうしたどうした?
逃げ惑うだけなのですか、全く情けない『先輩』ですね!」
炎弾を炸裂範囲ごと躱し、レーザーを斬撃で跳ね返し、幻影を突っ切る。
ようやく薙刀が再び辻守の足を捉えるも、やはりダメージは無い。
「その程度……哀れだね」
「へぇ、新人には教えられてないんだ
十四席が何故十四席と呼ばれているか」
「抜かせ
たかが十四席如きに……ッ!」
その瞬間に辻守の顔が歪み、地面に血が撒き散らされる。
薙刀の当たった個所から足が寸断され、鎧も斬撃方向に曲げられている。
攻撃後バックステップで距離を取る七殺。
本当なら一発で罰則確定のダメージが無視され
変形した鎧の部分を砕き、その後足だけ元通りになる。
「『太白逢星』ですか
……少しは驚きましたが、この程度なんともないですね」
舌打ちさせてくれる暇すらない。
再び錫沢への時間稼ぎの為の猛攻に身を投じる。
続きます




