Case 05-4
2020年7月13日 Case05より分割完了
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
またあの瞬間移動が訪れる。
だが、それはもう読めている。
そもそも相手は目の前にいるもう一人の存在をすっかり忘れている。
後は、その彼女に灯杖を渡して。
何もしない
【同日同時刻付近 モール(辰之中)】
「な……!?」
『あなたの一撃……そればっかりだよね』
丸前の踏み込みが宙を滑り、縦回転しながら宙に浮かされる。
異変に気付いたエリスがこちらにやって来たのである。
『ふうちゃん、今のうちに!』
「ああ!」
八朝が昏倒している三刀坂に駆け寄り、持っていた偽物の騎士槍を握らせる。
その瞬間に意識を取り戻したのか三刀坂が飛び起きる。
「え……!?
八朝君、一体何が……」
「構えてくれ、もうすぐ来るぞ」
エリスの浮遊魔術が切れて、受け身と共に素早く身体を起こす丸前。
いくら狂っている彼でも、依代を壊されたはずの三刀坂が数分もせずに起き上がっている状況に目を剥く。
「貴様……何をした?」
「何をって、三刀坂の固有名で依代を作成して持たせれば蘇生ぐらいできるだろ」
「えっ!?」
驚いた三刀坂が持っている騎士槍を見つめながら手が震えてしまっている。
それに気づいた八朝が三刀坂の肩を叩く。
「構わん
少々壊そうが、俺は倒れない……ぶちかませ!」
「でも……!」
三刀坂が抗議の声を上げようとして、いつの間に接近した丸前の一閃が割って入る。
咄嗟に悪手のガードを選んでしまった三刀坂は、刀が騎士槍に触れた瞬間吹き飛ばされる様子を間近で見る。
「クソが……!」
刀を構え直し、突きの構えを取る丸前。
三刀坂も回避が不能と判断し、同じく突きの姿勢を取る。
あの高速移動が起きる前にエリスに三刀坂を支援するよう指示を飛ばす。
『Vrzpyq!』
三刀坂の突きが激突直前に急激に加速される。
結果として、丸前が刀ごと吹っ飛ばされた。
「騎士槍の芯材に相殺を使ってる!
如何なる攻撃も己の攻撃力以内なら弾き返せる……ついでに触れられただろ?」
最後の言葉に三刀坂がハッとなる。
彼女の重量増加の対象となる条件は、己の手か騎士槍に触れたモノ。
『Libzd!』
三刀坂の重量増加によって刀が1000倍の重さとなり、切っ先が地面にめり込む。
余りにも重すぎて構える事すら難しい……即ち丸前の無力化に成功した。
「まぁすまんが、これが俺の戦い方だ」
「……」
三刀坂が再び自身の依代、それから八朝に目線を向ける。
『卑怯ではあるがな』と自嘲する八朝に如何なる感情を返したのか……
だが、それを知る前に丸前の闘気が一気に膨れ上がり、空間を制圧する。
いつの間にか1000倍の重さになっていた刀を両手持ちで構えている。
しかも、満面の笑みを浮かべながら……
「おい、もう戦いは終わったぞ! 聞こえ……」
「……は」
「はははははははははははははは!
そうだ!それが見たかった!奴隷商野郎!!俺の為に倒し甲斐を増やす貴様の献身に感謝感激ィ!!!」
そして自らの依代を霧に戻して手の中に再構築し、今度は正眼の構えを向ける。
この時の八朝達は気付かなかったが、のちにエリスが初速度変更魔術を絶えず呟く丸前の様子を捉えていた。
「さぁ、二番勝負だ!
構えろ亡霊! そして■■!」
最後の言葉が轟音にかき消される。
2つの予想外を引き連れて彼らの目の前に躍り出て来たのである。
1つは殺気のする方向が増えた事。
そして、もう1つは出口を覆う水の滝の名残を垂らしながら此方を睥睨する巨影。
上茸下燕。
触手を滝の様に伸ばしている『四つ目』の化物。
「う……嘘だろ……!?」
あの時倒させた化物が文字通り死の淵から蘇る。
部長の懸念が一番悪いタイミングで示現する。
今度は八朝が餌となった。
「あ? 何だ貴様? 勝負の邪魔をするんじゃ……」
「待て! 近寄ったら……!」
瞬足の踏み込みと、化物を一撃で砕く刀の一閃が化物の懐を捉える。
だが現在の超重量となった刀と彼のアジリティ重視の戦法が致命的にかみ合っていなかった。
そうして丸前は刀を振り上げたまま動かなくなった。
「ぐっ……! クソ……ッ!」
化物の周囲が薄く煙る。
丸前の症状から察するに神経毒系の胞子が撒かれている。
近寄る事すら不可能な状況では三刀坂の能力も役に立たない。
そうして、化物が目の前の丸前を無視して八朝達に近寄っていく。
神経毒の煙が少しずつ近寄ってくる状況をただ眺め、祈る事しか出来ない。
誰か助けてくれ、と。
『……Ifebeim』
唐突に化物の尾部が真っ二つに切断される。
その目の前に金紗の妖精の背が映る。
真っ黒な杖を構えたまま八朝に振り向く。
「……これ…………の……お礼…」
柚月が何だか要領の得ない事を言って、微かに笑いかける。
呆然としている八朝を無視して前を向き直る。
「方違・華蓋玄武」
瞬間、空間中を風が吹き渡る。
否……風ではなく無数に増やされた斬撃である。
その一つ一つが神経毒の霧の粒を正確に捉え、全てを地面に叩き落す。
露になった化物が雄叫びを上げ、無数の触手を伸ばしてくる。
「甲儀・青竜耀明」
一振りで不可視の斬撃が勢いよく伸び、触手の猛攻を芝を刈るように切り裂いていく。
生き残った触手も残った斬撃に阻まれて一切の攻撃が失敗してしまう。
「とどめ
辛奇・伏吟相剋」
それは先程の攻撃と比べても更に異質なものであった。
一瞬だけ化物も含めた周囲の構造物に黒線が引かれ劈音と共に両断されてしまう。
それは柚月の主観にて、まさしく写真を切り取るように万物を引き裂いたのである。
化物も堪らず夥しい黒霧を吐き出して消滅してしまう。
「え……あれって……」
ようやく強者同士の放つ呪縛のような緊張感から解き放たれた三刀坂が呆然と呟く。
どうやら、ようやく『ある存在』に思い当たったらしい。
必ず狐面で顔を隠し、杖を薙刀のように振るって周囲全てを微塵切りにする。
学園十指のうち、神出鬼没の斬撃無双。
呆然と、丸前が彼女の通り名を口にする。
「断罪人……だと……!?」
学園最強の異能力者の一人である天ヶ井柚月が杖の構えを解きながら、立ち尽くしていた。
次でCase 05が終わります




