Case 55-3
2021年2月28日 完成
八朝は思ったよりも上手く行っていない。
それに対して七殺は最短ルートを突き進んでいた……
【ERROR 渡れずの横断歩道・防火壁エリア】
「な、なんなのよここー!!」
七殺の周囲で『黒箱』が絶えず発生する。
必死に『黒箱』を避けながら、目指すは『防火壁』の出口。
この『渡れずの横断歩道』からなら篠鶴機関DBに直結しているからである。
『うん、まさか貴方がこんなに話を聞かなかっただなんて』
「別に聞く必要ないじゃない!
異能力で攻撃すれば消えるんじゃなかったの!?」
一見すると無茶苦茶な七殺の言だが実は正しい。
異能力という『バグデータの塊』をぶつければ一時的にプログラムを麻痺させることはできる。
だが相手が悪かった。
『アンチウイルスソフト』……即ち自動化された『黒箱』発生器にバグデータは通じない。
タスクスケジュールを瞬間で切り替えられるので、『黒箱』ではなく本体に攻撃するしかない。
「本体何処か分かるでしょ?!」
『それが巧妙に隠されててわかんないの!!』
どうやら七殺とエリスは相性が悪いらしい。
互いに口論を飛ばしながら『黒箱』の群れに追われ東奔西走。
最早『防火壁』突破が絶望視されている。
「大体私の鳴下神楽はふうちゃんよりド下手糞ってお墨付きがあるの!」
『だったらどうして訓練とかしなかったの?』
「当然でしょ
神楽が無くてもわたしは強いんだから……ッ!」
目の前に『黒箱』の群れが一反木綿のように覆ってくる。
これが『アンチウイルスソフト』特有の『類似データ纏めて処理』という囲い込みである。
『Vrgvac!』
七殺の斬撃生成は斬撃という概念の生成ではなく
斬撃に沿って金属を作成する、という形の異能力であるのでこの電脳戦には有利である。
即ち類似データの一つである『斬撃』を囮として逃げる事が可能であった。
「もう、ジリ貧なんだけど!」
『大体こっちに来るなんて思わなかったから!』
「にしてもMAPぐらい用意するでしょ!?」
『アンタらの有視界のせいで電脳空間の構造が絶えず変わってんのよ!!』
思わずエリスが悪態を吐いてしまう。
それ程までに人間に合わせるのが苦痛で仕方がなかったらしい。
だが、七殺も上手く見えていないので、結局走るしかない。
『防火壁』の見えない境界にぶつかること数十回。
突然七殺の見る世界が様変わりした。
「あれ……ここは?」
『!!
ここ、DBだよ!!』
二人してはしゃぐも、瞬間に気付いてパッと離れる。
『ま、まあこういう所に期待してたから』
「当り前よ
わたしを一体誰だと思ってんの、おチビさん?」
『何ですってこの大根役者!』
「な……言っていい事と悪い事が!!」
だが口論は、轟音と共に終了する。
黒地青グリッドで見えた世界が、赤で縁取られた大量の『黒箱』に埋め尽くされる。
「な……何なの?」
『そんなまさかDBごと道連れ……
違う、ここはDBなんかじゃない! DMZよ!?』
「何よそのディーなんたらって!?」
『非武装地帯
『防火壁』を通過した一部のデータを留置して処理するための端末の内でも外でもない領域』
「それってつまりデコイのDBって事ね」
細かくは違うが、大筋は七殺が正確に捉える。
今度こそ『黒箱』に取り殺されると思い、目を瞑った瞬間。
瞼裏を貫通する強い閃光が現れる。
(今度は何よ!?
……ってあれ、全部なくなってる?)
元の静寂なグリッド世界に戻る。
そして、エリスの口から分析結果が告げられる。
『これ……ふうちゃんの■■だ!?』
「え……わたしの為に守ってくれたんだ……」
『そんな訳無いでしょ
寧ろ私の為を思っての支援攻撃でしょ、もしかして頭悪いの?』
「は?」
そして平和になったDMZの中で
味方の筈の七殺とエリスが終わりの見えない口論を繰り広げた。
◆◇◆◇◆◇
『ふうちゃん、さっきから何やってんの?』
「ああ、俺は元々前に出ることは少なかった
■■がイーサネット間を飛べると分かれば、こうするほかない」
即ち■■を利用した支援攻撃であった。
だが、どこに飛んでいくのかは制御できないのでFFの可能性も否定できない。
『……動いて欲しいんだけど』
「いや、こっちの方が性に合っているから……」
『いいから早く進め』
珍しいエリスの剣幕に気圧される八朝。
逆にエリスも思ってもみない『イライラ』に戸惑って、慌てふためく。
(……疲れさせてしまったか)
今までの積み重ねだと思っている八朝と
すれ違う理由で慌てているエリス。
ここは自分から折れる必要がある。
「すまん、移動中でも出来るからな」
『いや……私こそ急に怒っちゃって……』
「終わったら何でも奢ってやるよ」
再び八朝が霧を展開して周囲を調べる。
グリッドではなく、霧の幻影として見る八朝はその『相』に注視する。
ゆっくりと、霧の中を一歩ずつ進んでいく……
続きます




