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Case 55-2

2021年2月27日 完成

2021年2月28日 誤字修正


 エリスのアイデアにより、篠鶴機関のDBに直接侵入する方策が採られる。

 八朝(やとも)鳴下(なりもと)七殺(ザミディムラ)の三人で電脳世界に突入する……




【ERROR 端末(RAT)・イーサネット領域】




『気をつけて

 私もバックアップはするけど、本来それって単なる01(ゼロイチ)でしかないから』


 その言葉通り、三人ともが地面を捉えきれずその場で転がり続ける。


 人間の意識がデータ全体を捉えきれず

 視線が動くたびに実体(エンティティ)が常に変化し続けているからである。


 だがそこに1つのスポットライトが当てられる。

 照らされた光は鉄よりも硬く冷たく、足場に最適であった。


『ごめん遅れた!

 一応外界の情報を再現したけど大丈夫』

「大丈夫だ」


 八朝(やとも)の目の前に手のひらサイズの人間が羽根を生やして浮かんでいる。

 姿形は転生直後に会ったあのエリスと瓜二つであった。


「エリスさんってこんな姿でしたのね」

『そだよー

 ってそう言ってる場合じゃないや!』


 エリスがホログラムを数枚用意して状況と作戦概要を確認する。


 まず、八朝(やとも)達が為すべきことは篠鶴機関DBへの到達のみである。

 急造の影響でデータ容量が必要最小限で、目標のデータを持ち帰る余地は無い。


 その代わりに人間特有の非論理思考で見いだされた履歴を集約し

 相手のセキュリティーの裏をかくルートを確立させる……これが全てであった。


「でもどうやったらこんなのを」

『えっとね、『辰之中』と『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』を参考にしたの

 ふうちゃんたちと同じ『データの奔流』を作って、それと本物の意識を入れ替えたの』


 そうやって電子の中の世界に招待し、お披露目するという目論見である。

 簡単に言っている事だが、人間の精神が線形的でない以上、その模倣は困難を極める。


 その詳細はエリスですら不明瞭なので、誰も口にしなかった。


「それで問題が『防火壁』と『風雪』、そして『黒箱』か」

『そーゆーこと!

 でもそれらを認識するには普通の視覚だけじゃだめだから』


 最初の『防火壁』は所謂データのフィルターであり

 許可したデータ以外を通さない『迷宮』で見えるとエリスが予測している。


 そして残り二つが問題であった。


 『風雪』とは未熟なプログラムによって起きたバグの嵐がそう見えるから名付けられ

 巻き込まれれば精神や認識の破壊……即ち大脳障害のような後遺症が残る。


 そして外部からの変更は『黒箱』のように見えるらしいが

 こちらの場合は『風雪』と違って完全消去される可能性があり、最も避けるべきである。


「エリスさんはいつもこんな事を……」

『あー……あたしはまた別のを認識してるからちょっと違うかな』


 それでも彼女が日々戦っている風景を見て考えが変わる。

 いつも暢気に浮遊している水面下でこれほどの苦労をしているとはだれも思っていなかった。


『あーあー! やめやめ!

 は、はやく出発しよーよ時間ないし!』


 エリスの催促もあり、それぞれが準備を整える。

 やがてスポットライトが3つに分かれ、互いの存在が見えなくなる。


『あ、あとふうちゃんに言っとくけど

 網の部分(ケーブル)はデータの流れしか無くて、道というよりワープ回路になってるかも』

「それで色々と光ってる訳なんだな」


 真っ暗な電子の海の中で星の光がいくつも輝いている。

 エリスから手渡された『マップ』を見ながらどの(ルート)を選ぶか考える。


 マップ上の名前に『学園』や『アイリス社』など見覚えのあるものが沢山表示されていた。


「意外に電子化が進んでいるんだな」

『だよね……わたしもこの世界に来た瞬間から思ったんだけど

 PCが無いわりにインターネット通信みたいなのだけは完璧に残ってるし』


 おそらくこれも『七含人』を成立させるために意図的に遮断された説も考えられる。

 だが、それ以上に自分たちが何の疑問も持たずに使っている現実に眩暈がしそうである。


「エリス、比較的安全なルートは探せるか」

『んーとね……『渡れずの横断歩道(フォレストラット)』から侵入するのがベストだと思うけど

 多分、相手側もそうやって入って来る事ぐらい想定済みだと思うんだ』


 故に人間の『非論理性』を求めているのである。

 であれば八朝(やとも)も『迷信』を頼るしかない。


(Netzach)より袂を分かつ、(Yesod)の名は■■(sad)

 須臾の認識を焼く、二十二の呪いなり!』


 八朝(やとも)花火筒(sad)を呼び出すと

 その口を自分に向けて異能力を発動させる。


 即ち『星』の照応を持つ花火筒(sad)で『(ケーブル)』を作成し

 取り敢えずどっかに飛んでみようという魂胆なのである。


 その結果として、目の前に『猛吹雪』が吹き荒れる空間に辿り着く。


「……」

『これは……クラウドサーバーだね

 外部からの雑音(ノイズ)が多過ぎて『風雪』が『猛吹雪』になっちゃってるね』


『大丈夫だよ、これは流石に天才でも予想外のルートだし』


 エリスの『障壁魔術』に守られながら、これまた慰められる。

 思わず己の迷信深さに呪いたくなったが、ここで諦めては全てが水泡に帰する。


「まぁ、俺に出来ることはこの方向性だしな」

『だよねー

 むしろそういう方が私にとっては嬉しいし』


 とは言うがこれだとデータロスが激しそうなので、もう一度考え込む。

 今度はデータロスが無く、尚且つ誰にも見つからないルートになる事を祈っていた。

続きます

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