Case 54-5
2021年2月25日 完成
2021年2月26日 ストーリー変更
2021年2月27日 誤字修正
もう『巻き戻し』が使えず絶体絶命の危機に陥る七殺。
そんな彼女を救ったのは三刀坂であった……
【6月25日(水)・深夜(1:39) 篠鶴地下遺跡群・表層立入禁止区域】
「え……?」
その場の全員が予想外の三刀坂の乱入に凍り付く。
『巻き戻す前』での事件で明確に敵対した人物が、今こうして助太刀している。
余計に張り詰めた緊張が七殺の意識を地獄の現実に引き留める。
「ど、どうしてここに」
「八朝君に言ってここまで付いてきたの」
そう言ってのける三刀坂を信じ切れない七殺。
互いに騙し合い、脅し合い、関係は最悪になった筈なのにどうしてここに?
という本音を漏らすことは出来なかった。
「先に謝らせて
あの時はあなたを助けられなくてごめんね」
「な……!? だったら……!」
「できない
それでも私はあなたに八朝君は渡せない」
それは、単なるあの時の繰り返し。
三刀坂は七殺からの敵意に耐えながら宣言する。
「やるんだったら正々堂々奪う
あなたもそうしてくれるなら私も納得する」
「あなたもわたしと同じ『人間』だから!」
否定でも肯定でもない返しに目を丸くする七殺。
微笑みを向けた三刀坂が再び兄に対峙する。
「そういう訳で
私、今のお兄ちゃんを許さない」
「何を言うか……今の我は『アレ』しか狙っておらぬぞ?」
「じゃあどうしてまだ『伝令の石』を握り込んでるの?」
目ざとく気付かれた『赤い石』をさり気なく隠す弘治。
その顔には、未だに余裕そうな顔を張り付けている。
そこに、八朝と鳴下が遅れてやって来る。
「眷属よ、一つだけ聞きたい事があった
何故我等の事情に深入りするのだね?」
「それとこれとは関係が無いだろ」
「しかし機関長が追放された今
眷属は『ヤツ』を守る理由は無い、そうだろう?」
「眷属よ、汝の思惑だけはどうも掴み切れぬ
汝は一体何をしようとしているんだ、教えて貰いたい」
弘治の本音に耳の痛い八朝は何も返す言葉が無い。
かといっても、ここで『本当の理由』を話しても信じてはくれない。
押し黙る両者に、鳴下が割り込んでくる。
「深入りする理由ですって?
単に友達だからという理由では駄目なのですか?」
そんな彼女の純粋な問いを、呵々大笑で切り捨てる弘治。
だが、鳴下はまだ諦めていなかった。
「……笑わしてくれる、我と眷属は友人などではない
その程度の理由で我が大願成就を邪魔するのか?」
「その程度とは言ってくれますわね
私は貴方とも下らない日常を送りたい、その為に愚かな行動は止めに行く」
「それのどこに文句があるんですの?」
何気に滅茶苦茶な論理を振りかざしている鳴下。
それでも今の弘治には十分すぎるほど効いており
何なら彼は機関長を追おうともしていない。
「大いにある
我は馴れ合いをするつもりは無い」
「ええ、馴れ合いは致しません
私たちは等しく各々の事情があるんですもの」
鳴下が次々と弘治の思惑外の言葉を重ねる。
だが、それが災いして弘治が途端に冷静になってしまう。
「汝等と問答する暇は無い
一撃を以て汝等との決別を為す!!」
弘治が大量に展開していた蜻蛉を一か所に集める。
蜻蛉の足の間にエネルギーが集結し、赤星の輝きが姿を現す。
八朝も応戦して霧を展開するが、周りの岩すら飲み込んでいく。
そして無理して先行し疲れ果てた三刀坂と七殺が赤星の重力に翻弄される。
「な……効かない!?」
「眷属よ、一度見たものが通用すると思ったか?
我が生成せし『赤天』に『陽炎』は含まれていない!!」
それは八朝の『異世界知識』を警戒した行動であった。
だが、今の八朝は『異世界知識』と別口の手段を持っていた。
(蠍、桜、針
……そうか、これは別解釈で深淵を通るパスか!)
カバラを構成する『樹』の解釈が1つとは限らない。
数多くの『誤解』すら、後の『オカルト』の基盤となって今も生き続けている。
『■■!!』
八朝が口にしたのは、使えない筈の依代の名前。
霧の形としては出せるがそれでは足りず
成す術なく『赤天』に呑まれていく。
考えあぐねる八朝の肩を鳴下が掴む。
「それが、三刀坂さんがおっしゃってた何かある顔ですわね」
「あるにはあるが、どうやら無理そうだ」
「諦めるには早いですわ」
そうして八朝を支えに鳴下が弓矢を構える。
「貴方の鍛錬の日々は見ていますわ
後は、私……いえ流石にそれは言い過ぎましたわね」
「今まで積み重ねた自分を信じなさいな」
鳴下から喝を入れられ、もう一度『赤天』を見据える。
あらゆる『取り戻した記憶』を参照しながら、攻め手を探し続ける。
ふと、この光景に見覚えがあった。
瞼を閉じる
想像するは、絶対均衡の大樹
十の果実と、二十二の幹枝、そして4つの大樹の影
それらが織りなす深緑の天蓋
(ああ、そうか
そういう『誤解』もあったな確か!)
無いなら他の幹枝が投げかけた影を使えばいい。
界ではなく大樹と勘違いされたこのモデルなら可能に違いない。
目を見開き、魔力を喉奥に込める。
『我と汝に道は無し
されど、形成樹より投げかける彼の名を以て叫ぶ!』
だが、それでもあと一歩足りない。
それもその筈だ、このイメージには続きがある。
想像の世界で、あの時と同じように影をこの手に。
イメージの中の鷹狗ヶ島にそうするように握り潰し、カタチを為す。
『■■!!』
それでも■■は霧にしかならず、先程の愚を繰り返した。
「正気か眷属よ!?」
「正気も正気だ
そら、もうすぐ赤天を砕く照応が姿を現す」
言い切るよりも早く『赤天』が砕け散る。
意味不明な事態に弘治の表情が凍り付く。
「『地』は『火』に弱い
それは『お前ら』が口を酸っぱくして言った筈だろ?」
簡単に言ってくれるが、属性付与の絶技をおいそれと再現されては困る。
そんな八朝しかできぬ奇跡に隠れて、今度は必殺の一撃が狙いを定めた。
『Wvisfef!』
鳴下神楽ではなく、神経毒による一射。
鳴下の一族にとって屈辱的なこの一撃も
錫沢に発破をかけられた今の彼女なら可能であった。
「がっ……!?」
鳴下の一撃が正確に致命傷を外し、弘治から意識だけ剥ぎ落す。
こうして『弘治』を賭けた攻防戦は成功の裡に終わった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
Nom.140283・追加情報
・『混同』によって蜻蛉を無限に増やせる
・『混同』の真意は『類似部分以外の圧縮』による疑似相関である
・これにより純粋な属性エネルギーの一撃
即ち、全属性の属性スキルを使用することができる
・最後の『黄天』は光の属性スキルである
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Chapter 54-b 抑止 - The Temperance
END
これにてCase54、機関長vs弘治の回を終了致します
さて、彼らは機関長もとい篠鶴機関の支援と
強力な異能力者である弘治……は失いませんでした(追記)
だがこれでも十死の諸力に勝てません
どうするのでしょうか?
まぁ、この小説は地面からニョキニョキと設定が生えますし
それに期待するという楽しみ方もアリかもしれません()
次回は『電子の竜』
それでは引き続き楽しんで頂けたら幸いです




