Case 54-3
2021年2月23日 完成
鳴下が見たのは一番最悪な結末。
未だに光明が見えない状況を八朝と呆然とするのみであった……
【6月25日(水)・深夜(1:30) 太陽喫茶・1F屋内営業スペース】
既に話し合いも終わり、屋内営業スペースとしての用は終了した。
各々が割り当てられた部屋に戻っていく一方、鳴下と八朝だけがその場に残った。
「……まさかここまで酷いですとは」
八朝から聞いた詳細に絶句する鳴下。
確かに元十死の諸力が居たとはいえ、マスターの決定に抗おうともしない。
それだけ強いという自負なのだろうか。
「マスターも色々あったとはいえ
あのまま追い出しても弘治の離脱と復讐は回避できない」
溜息を吐いて、情報が無い事を嘆く八朝。
どちらにせよ十死の諸力に抗う力が無くなる点で変わらない。
「……そういえば七殺の姿がさっきから見ないのだが?」
「あの方はいつもこんな感じですわ
時折いなくなると思えば傷だらけで戻ってきて……」
傷だらけで戻って来るという証言が気になりエリスを起こす。
念のために彼女のアームを霧に分解して何が起こっているのか探ろうとする。
「貴方の異能力……本当に攻撃できない以外万能ですのね」
「2月ぐらいまではそうでもなかった
思えば俺の『異世界知識』も、その時の事件が最初だった」
「ああ、そういえばそうですわね」
2月の事件とは辻守から依代を取り戻したあの一幕である。
異能力が変化したきっかけは咲良から渡された『タロット』である。
メモに挟んだそのカードを出して眺めると、ふと違和感に気付く。
「どうしたんですの、そんな顔で」
「カードが変わってる……!?」
見るとあの時渡された女教皇から塔に変化している。
それを鳴下に見せても渋い顔をしている。
「どうした、何か変な所でも……」
「貴方……真っ白なカードを見せられても困りますわ」
八朝がハッとしてもう一度カードを見る。
先程見えていた塔すら無くなり、寓画が真っ白になっている。
急いでメモ帳を探ると、メモ帳まで真っ白になっていた。
「どういう事だコレは!?」
そんな八朝の様子を不安そうに見つめる鳴下。
そこにエリスの不安そうな人声が割り込む。
「ねぇ、この十字どう解釈したらいいの?」
悩んでも無駄なので、エリスの要件を見る事にする。
確かに霧の中から無数の十字が現れては消えている。
他にも歪な8の字と、小文字の『オメガ』も見え隠れしている。
「……寓画由来ではないな
一応、見覚えがある程度でいえば原カナン文字での署名だろうな」
「それは何ですの?」
「俺の異能力はカバラの照応であるヘブライ文字を基盤にしてる
原カナン文字はヘブルの祖で、照応するのは『基盤』と『王国《Malkuth》』のパス……」
その瞬間にある事実に思い至る。
月、審判、世界……いずれも王国に繋がるパスである。
王国の称号は『最悪の母』『死の門』……
そして、それらを裏付けるように横から見た棚田までも現れる。
「何に気付いたのですの?」
「七殺の命が危ない……
場所は恐らく薄暗い地下で、門のある場所」
必死になって考えてみる。
傷らだけで帰って来るなら恐らく戦闘した後なのだろう。
今現在の篠鶴市での化物の分布は榑宮に集中している。
これは十死の諸力との戦いで住民が独断で呼び集めた結果だ。
即ち、七殺は化物戦以外で窮地に陥っている。
「対人戦……?
誰かを殺しているのか?」
「それはあり得ません
ほんの少しでも隣で住んでいた私が証明いたします」
「それじゃあ一体……」
「よく考えてください
今この場には1つの爆弾があります、そして少し前に彼らは解き放たれました」
そして鳴下が席を立ち、走っていく。
それを追って着いたのは弘治に割り当てられた部屋の前。
ドアは半開きで、部屋に入ると湿った夜風が入り込んでくる。
「やられましたわ!」
弘治の姿が無い。
彼は機関長を追撃しに行ったのは明白であった。
「今から外に出れるか?」
「鳴下の裔たるもの、常在戦場を忘れませんわ」
どうやら八朝の方が準備が整っていなかったらしい。
取り敢えず部屋に戻り、準備を整えてから玄関まで行く。
「先程七殺さんの部屋へ行きましたらこんな……」
置手紙の内容を見る。
『さがさないでください、あなたも血まみれになります』
「……言語道断ですわね」
「そうだな、全員引き摺ってでもこっちに連れ帰ってやる」
拳を合わせて、気合を入れる。
自分が前線に出る訳にもいかないが、それでもゲン担ぎとして。
「待って!」
振り向くと、三刀坂がそこに居た……
続きます




