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Case 54-1:盗みを操る能力(Ⅲ)

2021年2月21日 完成


 八朝(やとも)達は無事太陽喫茶に辿り着いた。

 同時に、クーデターで死んだはずの篠鶴機関の長までも訪問し……




【6月25日(水)・深夜(1:00) 太陽喫茶・屋内営業スペース】




 それから数十分して機関長が治療から戻ってくる。


「んで、出来たのか?」

「当然である

 俺の専攻を忘れたか天ヶ井(あまがい)?」

「ああ、確か『微生物』なるものだっけなぁ」


 篠鶴市から消えている筈の『微生物学』を知っているなら天然痘の対処法も心得があるのだろう。

 ひとまずは胸を撫で下ろすが、未だに油断することはできない。


「それで、千早(ちはや)は?」

「あの娘は今でもガラス越しから姉を見守っている」


 この場に(やいば)がいないのは、恐らく彼女の面倒を見る為なのだろう。

 それと(みやび)と『食膳消し』の姿もない。


「では私はこれにて戻ります」

「こいつらを無傷で運んでくれて感謝する、唐砂(からさ)

「やれやれ

 血は繋がってないのに実の親子のように似てますな」


 唐砂(からさ)がコップを置いて席を立つ。


「当然だ」


 お互いの捨て台詞を聞かず、唐砂(からさ)はアリバイ作りへと奔走する。

 そしてこちらでは機関長から集められた理由について聞きたいことが沢山あった。


「本題に入っていいか」

「構わん

 君たちの『有り得ざる強深瀬の戦い』を見込んで呼んだのだからな」


 強深瀬とは三途の川で地獄行きとなるルートの事である。

 同時に篠鶴市、特に篠鶴機関では『月の館』の隔離病棟を指す言葉である。


 即ち、彼もまた『巻き戻す前』を覚えていた。


「お前、いつの間にそんな危ない所をほっつき歩いてたんだ」

「責めてくれるな

 アレは我々の信念を掛けた戦いであった」

「お前はそう言って『あの時』も彼らの両親に手を掛けたよな?」


 マスターが両目を開き、機関長を咎める。

 憎悪に焼かれていた筈の弘治ですら、一瞬忘れるほどの気迫に冷や汗一つもかいていない。


「あの時の決断は決して後悔しないだろう

 こうして、彼らの撒いた種から『十死の諸力フォーティーンフォーセズ』が生まれたのだからな」


 八朝(やとも)の隣で、憤怒の極致が音を立てて立ち上がる。

 叩きつけた所からまるで血の滴るが如く机に罅を生じさせながら口を開く。


「貴様は喧嘩を売るために我らを招集したのか?」

「お兄ちゃん!」


 取り敢えず弘治を座らせる。

 全て聞いてからでも殴るのは遅くない、と彼を宥める。


「一つだけ条件を呑め

 お前らの政争には付き合わない」


 まずもって現在の篠鶴機関は治療部門と治安部門の内ゲバ状態である。

 それぞれがエリートの異能力者で構成されている地獄で、自分たちが無事でいられるわけがない。


「……それでは支援することはできない」

「ああ、そうだな

 だったら本当にどうして俺らを呼んだんだ?」

「お前たちがもう少し賢明だと思っていたからだ」

「こいつ……!」


 やはり、味方を無慈悲に焼き殺した殺人鬼(機関長)に人の道理は通じない。

 己を『捨て駒』扱いにしようとした相手に対して弘治が吠える。


「貴様……貴様の如き厚顔無恥が我等を生み出したと知れ!!」


 弘治が堪らず蜻蛉の群れ(アーム)を展開する。

 流石にそれまでは八朝(やとも)達でも止められない。


 だが、マスターの手が両者の間を遮る。


「まぁ、待ちな若者」


 そしてその手を握り締め、機関長をぶん殴る。

 機関長は衝撃を殺しきれず椅子から吐き出され、地面に転がる。


「お前、この20年間何も変わらなかったな

 ここに来たのはあの子を助けるためだと思っていたが……」


「然り、あの娘を蝕む『微生物』の生きたままのサンプルが欲しいのみ」


 この場に千早(ちはや)がいなかった幸運を噛み締める。

 だが、今度はマスターが自重を失っていた。


「そうか

 じゃあ、あの施設の為に死んだ『一人』が誰なのかも知らんわけだな」


 ここで漸く機関長が気づいてしまう。


 こんな一般住居程度で、高度治療を為す施設の電力をおいそれと賄う事が出来ない現実。

 それでも、一瞬で起動できるほどに『使い込まれている』跡があった事実。


 その、相手と視線が合う。


「まさか……」

「そのまさかだ、人殺し

 尤も彼女を助ける為に涙を呑んで俺()が了承したんだがな」


 またも、三刀坂(みとさか)との約束を破ってしまった。

 これまで人殺しと罵った自分も、機関長と同じ側にいるという事実に腸が煮えくり返る。


 だが義憤で三刀坂(みとさか)の大切な人は蘇ることは無い。


「狂っている」


 そう言い残して機関長が席を後にする。

 理由不明の話し合いは、結局何の実も結ばず全員の失望を募らせる結果で終わった。

今回よりxx-1回でのあと書きを省略いたします


最後に言いますと

今回の話、Aルート(第1章)の事情も絡んで波乱の展開となります……

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