Case 53-5
2021年2月20日 完成
唐砂のバスは道中に問題を起こさず目的地にたどり着く。
但し、太陽喫茶は所領通行禁止区域なので、駅前の駐車場に降りた……
【6月25日(水)・深夜(0:38) 抑川地区・抑川駅前】
「こちらでございます」
唐砂が案内したのは抑川地区を網羅する地下通路である。
外を出歩いて十死の諸力と接敵するリスクを避けた結果である。
「地下通路か
だが太陽喫茶は直接つながっていないぞ?」
「そうでもないかなー」
意外な事に三刀坂が反論する。
それに対して唐砂が無言で首肯する。
「天ヶ井博士の研究は『闇属性』でありました
ともすれば、友好的な彼女とは繋がりがありましょう」
唐砂の返答に内心で反論する。
彼女は『闇属性』の実験体などではなく、その根本なのである。
(そういえば最近は記憶遡行が起きないな……)
今更ながら、自分に身についた『記憶遡行』について考察する。
使命を達成するために創造神が与えた物にも見えるが、これも元々からあったものである。
どころか、時折自分以外の記憶まで見ることがある。
(もしや記憶遡行では無いのか?
そもそも『本物』はどういった異能力を持っていたのか……?)
答えを示す頭痛は終ぞやって来ることは無かった。
その代わりに、懐かしいドアが視界に飛び込んでくる。
『これ飯綱さんの部屋の……』
「左様でございます
天ヶ井飯綱様は『三壁』の『後門』で御座います」
その言葉に周りが騒然となる。
だが三刀坂兄妹と八朝は『巻き戻す前』で既に知っていた。
「……」
複雑そうな顔をする三刀坂。
あの時は、彼女らにとって不倶戴天の敵である『篠鶴機関』に、命を懸けて助けてもらったのである。
「それでは失礼します」
ドアを2回ノックする。
そういえばこのドアはノックの回数によって意味合いが変わると言っていたような……?
「何だ、こんな時間に
確かに逃げるには丁度いい……が……」
ドアを開けたのは何日か振りのマスター。
彼は皆の視線を無視して一直線にこちらへとやって来る。
「座りな」
マスターの指示通り屈めると、頭頂部にゴチリと衝撃が入る。
余りにも重い一撃に自分どころか周囲まで騒然となる。
「お前は男の約束を破った
……だが、生きて帰ってきてくれた」
何回か頭を殴られるが、2回目以降は弱虫でも痛くないと思うぐらいに弱い。
彼なりの心配の表現なのだろう。
「『俺は帰って来た』ってどういう事だ?」
「柚月も咲良もまだ帰って来てない、そういう事だ」
「待て、咲良もなのか!?」
八朝は彼女が既に帰ってきているものだと思っていた。
だが、この場の誰一人として彼女の足取りに覚えは無いらしい。
「……『天神御守』でしょうか?」
「ああ、そういう事だろうさ……腹立たしい事に」
マスターは煙草を噛み切る程に不快感を露にする。
だが、誰一人として話についていけてない。
「どういう事だ?」
「知らんのか、『飛梅』を」
「いや、それぐらいは知ってる
でもそれとこれに何の……」
「『天神御守』は八丈島海戦を成立させた鳴下神楽の一つでございます」
曰く、元々は天神の雷を招く『匂いの舞』である『天神御守』。
この世に1人しか使えない、という制約条件を拡大させ
『生贄の匂いを届かせて天神を招く』という形にしたものである。
「それは里塚真白の生首が……」
「ああ、彼女こそが『天神御守』の使い手だ
そいつを殺し、継承権をウチの娘にすり替えたのだろうよ」
「それはどうやって……!?」
「……それが『梅花』なの?」
三刀坂が呆然と呟く。
『梅花』とは十一席の名称で、これまで常に死亡扱いとなっていた十死の諸力の幹部席である。
曰く、この席に座れるのは『未来』が見える者のみだという。
「……咲良はタロット占いが出来たな」
それがどういう意味なのかエリスを除いて誰も知ることはできない。
だが、『梅花』の位に入る条件はそろっていた。
「でも咲良お姉ちゃんは非能力者じゃ……」
「咲良は異能力者だ
白黒しか見えない色盲も俺たちがそこまで治した後遺症の跡だ」
八朝はそれを聞いて、彼の裏にあった線がようやく繋がった。
それを一つずつ言葉にして呟く。
「もしかして、親父たちの研究は……」
「そうだ、娘の『特殊な異能力』の完治だ
そこの嬢さんとは反対の力だったのは流石に堪えたがな」
取り敢えずこれ以上の立ち話も無駄なので、マスターが全員を家に案内する。
その瞬間に正面玄関のドアが勢いよく開かれる。
人影は2人……片方は死んだはずの篠鶴機関長・金牛明彦。
「刃おねえちゃん……?」
『食膳消し』が呆然と呟く。
その彼女が背負っている人物に千早が反応した。
「お姉ちゃん!?」
「近づいては駄目です
貴方も感染いたしますよ」
鳴下刃の冷たい言葉が
掌藤姉妹の再会に水を差す。
「お前……」
「今更頼るとは虫のいい話だろう
だが、今は彼女達を助けるために貴殿の施設を貸して頂きたい」
あの時冷酷に立ち塞がった機関長が、頭を下げて助けを乞う。
あまりの違いに八朝も、特に弘治が凍り付いた表情となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:鳴下文
誕生日:不明
固有名 :鳴下神楽の為『無し』
制御番号:鳴下神楽の為『無し』
種別 :鳴下神楽の為『無し』
STR:? MGI:? DEX:?
BRK:? CON:? LUK:?
依代 :(梓弓)
能力 :鳴下神楽・旱魃※
後遺症 :無し
備考:
彼女の称号である『覆』を体現する鳴下神楽の絶技
旱魃は妖魔天象としても機能する
以下はその性能であるが、いずれも魔力真空を引き起こす
①旱天:魔力を超高魔力圧で追い払う
発動キーは『強い憎しみ』と『罪悪感』
②女魃:魔力を雑霊に食わせて枯渇させる
発動キーは『ライバルに対する嫉妬』
なお旱天は八朝も限定的に使用可能である
xxxxxxxx xxx
Chapter 53-b 旱魃 - Deity of Drought
END
これにてCase53、『金鼬銀狐』の回を終了致します
何故、柚月は棟梁のように老いてないのか?
それはまだ明かせませんが、確実な事は一つ
彼女はCase53-4の段階で死亡致しました
さてBルートも最終局面です
『天神御守』のギミックと『梅花』、そして『悪疫』の計画
それらが、堰を切ったように動き出す
次回は『梅の根元』
引き続き楽しんでいただけると幸いです




