Case 05-3
2020年7月13日 Case 05より分割完了
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
【同日午前10時30分 モール(辰之中)】
「お前は異能力者なのか?」
「そうに決まっているだろ!アンデッド!」
怒りに身を任せて怒鳴り散らす刀の青年。
高慢な声音の割に頭はボサボサで育ちが悪そうな印象を受ける。
四白眼と顔の傷から放たれる気迫は犯罪者のものと相違ない。
「貴方は誰なの!?」
「うるせぇ!
女が出しゃばるなァ!」
謎の青年の鋭い一撃と八朝の灯杖が鍔迫り合いとなる。
「俺は丸前巧。
篠鶴学園異能部にてシナバーの名を戴く幹部候補生……冥土の土産に覚えるがいい、亡霊!」
鍔迫り合いから逃れるために押し込められた力を利用してバックステップを行う。
ある程度の距離を開けたところでもう一度灯杖を構え直す。
異能部、その言葉が正しいならば八朝が所属している第二異能部とは競合相手となる集団、即ち間接的にこの青年と敵対関係となる。
「アンタが何者かは知らんが、先ほどは助けられた。 感謝する」
「うるせぇ!
貴様の謝辞など必要ない、良いから戦るんだよ俺と!」
言い切る前に八朝の目の前に、処理落ちから復帰したゲームのボスの如く丸前が出現する。
不意を突かれて避ける暇もなく、まるで背負い投げするかの如く雑に振り下ろされた刀に両断される。
「ぐっ……! ……っは! ぇ゛!」
「八朝君!?」
斬られた筈なのに痛くは無い、だがまるで胃に穴が開いたかのような不快感を吐き出す。
胃酸が冠水する赤い水に染みを付けるかのように汚す。
更にタックルの勢いが乗った肘打ちを繰り出そうとしていた丸前の身体を『超重量』が吹き飛ばす。
横合いからの騎士槍による突撃、跳ね飛ばされた丸前は受け身を取って着地を行う。
「俺の異能力は水だけを弾き飛ばす。
ただ、それだけだ、水以外は全く弾かず通過し、お前の身体から血液だけを削った」
懇切丁寧に自身の異能力を説明してくれるようである。
即ち、今八朝を苛む苦痛の正体が脱水症状であると明かしたようなものである。
「そして、俺の刃は何故か化物を一撃で消し飛ばす。
それ故に俺は次代の幹部候補と持て囃されていた!」
「だが、どうした事か!
俺以外にも化物殺しが居ると聞いた瞬間!クソ野郎共は俺から興味を失くしやがった!!」
身に覚えのない称号に困惑する八朝。
だが、それが問題ではないらしい。
興奮した丸前が足に力を籠める。
そして、踏み付けまで始まってしまう。
今の話に勝るとも劣らない傲慢さが重苦しく脊柱を捉えて、砕け散るまで執拗に振り下ろされる。
「所詮雑魚異能力のクソ野郎の分際で俺から興味を失くすとは言語道断!」
「それとこれと何が関係があるのよ!!」
三刀坂が一気呵成に騎士槍による横薙ぎを放つ。
単調な攻撃は丸前に簡単に見破られ、バックステップで躱される。
『Ogrmglakil!』
中級地属性電子魔術の重力異常に巻き込まれて丸前が膝をつく。
次いで三刀坂が能力で重くした騎士槍を掲げ、大上段を叩きこむ。
そんな彼女の必殺コンボの結末として、三刀坂の方が糸が切れたように倒れ込む。
「三刀坂!?」
「見るが良い!
我が刀の冴えを! 化物殺しと謳われた我が一撃を!!」
消滅寸前の騎士槍の断面が綺麗に平面だったことを確認する。
何の理由か丸前の能力は相手の依代をバターのように容易く引き裂くらしい。
「泣き顔!命乞い!憎悪!
このようにゴミの如く倒れ伏す事のみがクソの生きる価値だと教えてやった!」
「そしてお前に辿り着いた!」
悦に入ったかのように罵声を吐く。
それだけで丸前の性格の底が見えるようである。
だが、それ故に何かがおかしい。
単に八朝に勝ちたいだけなら、電子魔術等で初撃で肋骨を粉砕すれば良かったのだ。
「罰則に勝った男! 化物を売り物にする奴隷商! 亡霊の如く蘇るアンデッド!
だが蓋を開ければ所詮この程度!」
「……………」
何やら八朝の様子がおかしい。
引っ切り無しに襲い掛かる記憶遡行の頭痛で意識が曖昧になりつつある。
「今すぐ貴様の首級を晒し……」
唐突に丸前も反吐を吐き散らかし、地面を汚す。
反射的に引いた足に……軸足となっていた左足に黒い本が纏わりついていた。
即ち、毒の状態異常を持つ八朝の異能力である。
ゆらゆらと立ち上がる。
その目は正しく丸前を捉えていない。
手には火傷の車輪、毒の本、足元に呪詛の苗木。
持続的苦痛を与える諸力の具現を侍らせる。
『……が! やはりお前は殺すべきじゃった!』
『あの祭りの段階で■■■■様の生贄とすべきじゃった!』
『この疫病神が!』
『今すぐその薄ら笑いを叩き潰してやる!』
また一つ、身に覚えのない記憶が再生される。
目の前の現実すら塗り潰して。
は……。
『………思い出は………ウ…………………………単…気絶………だけの……………素材以外の価値が無いよ!………大人しく……………………苗床…………ね!』
夢と現の境目が無くなった八朝が壊れたように哄笑する。
それを見た丸前が共鳴するように叫び声のような狂笑を上げる。
「……そうだそれだ!
漸く現れたか亡霊! こうでなくては屠り甲斐が無い!」
亡霊のように佇む八朝を見て満足そうに吐き捨てる。
即ち今までの手加減はこの時の為にあった、と言わんばかりに。
改めて刀を上段に構える。
「では名乗ろう!
俺は丸前巧! 異能部より抗生の名を戴く幹部候補生なり!」
高らかに、誇りある彼の集団の名と、自分の異名を宣言する。
それに応えるように八朝も唸り声を上げて車輪を掴む。
「いざ! 尋常に!!」
生死の境で、また知らない記憶が姿を現す。
今度は激しくとも、何一つの狂気を見せず、八朝を打ち据える。
『八朝君はまず友達を作れ! 自分で何でも出来るなんて思うな! 八朝君が守りたいと思っている以上に私もそう思ってる! その気持ちを無視すんな独善野郎! 悔しかったら私に言ってみせろ!』
助けて、と。
「勝負!!!!!」
続きます




