Case 53-1:妖魔天象・旱天
2021年2月16日 完成
2021年2月17日 ストーリー変更
『食膳消し』に会い、鳴下の居場所を聞き出す。
久々に会った鳴下はいつも通りに、だがのっぴきならない事情を明かす……
【6月24日(火)・朝(11:50) 鳴下地区・鳴下家本家】
「隔離措置?
それに脱出だって?」
鳴下から語られたのは、およそ受け入れがたい概要である。
だが、自分だけ聞いても無駄そうなので取り敢えず全員集めることにする。
『そういえば他の皆、まだ探しているのかな?』
とは言うがまだ30分ぐらいしか経っていない。
だが、エリスの疑問はある形で結実することになる。
「お、おい大丈夫か!?」
七殺と錫沢が部屋の中央で倒れている。
努めて冷静に観察すると、単に意識を失っているだけであった。
『一体何が……』
「あ、それ私が眠らせたんですよ」
後ろから『食膳消し』の声が聞こえる。
連れている千早から、心なしか毒が抜けている気がする。
曰く、もう一つのグループも同じく眠らされている。
「そうか
用があって全員を集める必要がある」
「起こせないわよ」
という事で目が覚めるまで待ち続けた。
エリスは鳴下に現状を報告し
起きた全員に事情を説明し、鳴下の部屋に行くよう指示する。
全員集まったところで改めて鳴下の本題を打ち明けた。
「……薄々は分かってたけど、やはりそうなのね」
八朝の予想に反して、全員納得していた。
そうなったとしても、確認すべき事項がいくつかあった。
「何故『隔離措置』だと?」
「おばあ様は私達を鍛えると言いましたが
その鍛錬に参加できましたでしょうか?」
その問いは八朝には響かなかった。
だが、全員して頷いているという事はそういう事である。
八朝と合流するまで鍛錬自体が無かった。
「そもそも鳴下神楽は鳴下家以外に伝えてはなりませんの」
「これは掟とかそういう問題ではなく
実際にその禁を破って『魔人』に堕ちた人がいますの」
そう言って鳴下が出したのは女性が映った1枚の写真。
鳴下家に詳しくない八朝は
それが篠鶴機関右壁と瓜二つだという事しか分からなかった。
曰く、彼女が篠鶴機関に神楽を広めた事で
軍事部門の勢力が伸長し、終にはクーデターに至ったのだという。
だが『食膳消し』……曲橋葵が否定した。
「アンタ何言ってんの!?
一番お姉ちゃんの近くに居ながら『あんな嘘』信じてるの!?」
「ですが、現在の篠鶴機関を牛耳ってるのは彼女ですわ」
その口ぶりからすると機関長の下手人でもあったらしい。
確かに今の苛烈な篠鶴機関の様子を見れば『魔人』のように見えなくもない。
だが、八朝は別の理由で納得した。
(あの棟梁
鳴下神楽ではなく『妖魔天象』と言ってたな)
それは妖魔しか使えぬ空間制圧型の異能力である。
妖魔の技を人の身で使うのもまた『魔人』と称すべきではあろう。
エリスを見ると、エスパーのように汲み取ったのか端末でこくりと頷いてみせる。
「真偽はともかく
俺は鳴下神楽の鍛錬を受けたぞ?」
「な……あり得ませんわ!?」
「ところがどっこい
アタシ、さっきコイツと戦って負けたばっかりだし」
『食膳消し』が助け舟を出してくる。
彼女の実力を知る鳴下が今度こそ憔悴する。
「ま、お父さんが手を回してたんだけどね」
「……そりゃどうしてだ」
「元々唐砂って人が頼んでたの
まさか棟梁に逆らってでも鍛錬を始めたのは驚いたけど」
どうやらあのおじいさんの差し金であったらしい。
『いつか鍛える』という誓言は、棟梁の命令を超えてまで成し遂げたかったのだろうか。
「結局のところ
『隔離措置』なるものを否定する証は無いという訳だな」
弘治がそう言ってこの話を終了させる。
有用な情報が取れた以上、話を徒に長引かせるのは八朝も反対であった。
「まぁそうだな
寧ろ俺らは隔離措置になる理由しか無いしな」
三刀坂兄妹、七殺は元十死の諸力。
八朝周りも世間的に見れば脱走兵で、しかも上記の知人でもある。
……例外が2人混じっている事を除けばの話であるが。
「それで決行日ですが7月1日とします」
鳴下が再び音頭を取る。
どうやらこの日は今日と同じく全員が出払っており無防備である。
八朝も『ある理由』に目を瞑って同意しようとした所に待ったが入る。
「何ですの?」
「その日では遅すぎる
今日中でなければ皆等しく死に至るぞ」
そう言って弘治が一つの資料を机に広げる。
それは数十年前の『災害』によって■■以外が生存不可域となった
■■■■皇国最後の統治領域、それがミチザネによって止めを刺された事件であった。
(これは……?)
(10年前に起きた第三の『ミチザネ』災害だよ
セラピムの『裁き』の横槍が入って日本海側にも大津波が押し寄せた)
目を引くのは発生日が6月26日であった事。
それは八朝が弘治の意見に心裡にて賛成する根拠であった。
未だに言い争う二人に割って入る。
「何だね眷属よ
これは致命的な指摘であって……」
「ああ、その通りだ
6月26日は当時の為政者達を呪いの雷で焼き殺した事件の日だ」
「そいつの名は菅原道真
どうしてか、アルキオネⅢの名前にもなっている奴だ」
八朝はそう言いながら自分の迂闊さを呪う。
単なる『異世界知識』では誰一人として心が動かない。
ましてや鹿室がいないこの状況で一体誰が信じてくれるのか。
「……」
全員唖然とした表情である。
この状況を打破したのは、珍しく手を挙げた柚月であった。
「わたしも、ふうちゃんに賛成
何もわかんない……けど、嫌な予感が、するの……」
これ以上は尻すぼみになって聞こえなくなる。
勇気を振り絞った柚月を三刀坂が労わる。
「そうでしたわね
貴方は確か『七含人』でなくても知っていた人でしたわね」
そう言って錫沢が話したのは件の『清涼殿落雷事件』のあらましである。
誰から聞いたとも言わず、単に『七含人』の本棚にあった内容だと付け足す。
この一幕で、完全に本日決行へと全員が傾いた。
「……」
ただ一人、鳴下が押し黙る。
次々と決まっていく段取りの中で、彼女だけ何かに思い悩んでいる様子である。
(……すまない
『葛藤』は理解するが、もうそんな時間は残されていない)
思えば彼女は噂を信じ込んでこんなことを言い出す人間には見えない。
7月1日はそんな彼女が気持ちを切り替える為に必要な時間だったのかもしれない。
だが彼女に何もしてやれず、徒に時が進んでいく。
『食膳消し』も交えて計画修正の打ち合わせが完了する。
決行は全員が寝静まる25日の0時となった。
DappleKilnでございます
いつもありがとうございます
何か陰謀塗れで頭が痛くなりますが
これが最終局面の前触れとなります
元々は敵対させるつもりは無かったんですがね……
それでは引き続きよろしくお願いいたします




