Case 52-3
2021年2月13日 完成
今回の探索では錫沢と千早と弘治が見つかった。
『食膳消し』は地下の方へと向かったらしい、その前にまずは鍛錬である……
【6月24日(火)・朝(7:00) 鳴下地区・鳴下家本家】
「集まってもらって悪いが、今日は中止だ」
柚月達と錫沢達と共に集められ、このように言われる。
「どういう事だ?」
「急用があってな
今日は1日自由時間だ」
そう言って男が屋敷へと戻っていく。
全員して顔を見合わせ、話題に困っている。
「そういえば八朝さんはどうして夜中に……」
「ああ、俺の所には昼間は見回りがいてな
見つかるといつの間にか部屋に戻され、鍵を閉められる」
1度だけ起きた事象を話してみる。
信じがたい内容であるが、丁度通りかかったことで証明となる。
「ああ、そこの君
そう、そこのやけにデカい方の」
「俺に何か用か?」
「あんまりウロチョロするなよ?
次見つけたらその首搔っ切ってやるからな」
そのまま見回りの女がどこかへと消えていった。
何故か弘治に肩を叩かれ憐れまれる。
「でも、わたしの……ところには……」
それも疑問点の一つであった。
何故八朝のいるエリアだけ存在しているのか。
「私たちとの違いと言いましたら
鍛錬以外に鳴下さんを探している事ですけど」
暗に『何故探しているか』という問いである。
何かと省略してしまったが、特に重要な話ではない。
「ああ、それも俺に課せられた鍛錬らしい」
「誰からですの?」
「棟梁だ
それに俺の目的とも合致する」
「鳴下は明らかに俺を避けている
原因は言うまでもなくあの『暴走』なんだろうと思っている」
殺意と憎悪の投射を彼女は見てしまっている。
それは確かな記憶に基づくものなので、否定はできない。
だが、周りの反応は微妙であった。
「確かに『狂ってた』とは聞きましたが
今の貴方からは微塵もそんな雰囲気はしませんわ」
「そうか、じゃあ曲がりなりにもう上手くいってたんだな……」
そう言って、フィルターを抜くようにある思考を外す。
その瞬間に錫沢が一歩引いてしまう。
「すまない
これでも3時間は耐えれるようになった」
とはいうが、これではまだほど遠い。
長話をするつもりではないが、友達としている以上はこの程度では足りない。
「それでもこれが頭打ちだ
申し訳ないけど、何かアドバイスとかあったら……」
意外にも手を挙げる人がいた。
それも、まさかの柚月であった。
確かに彼女は気弱ではあるが、先程のアレに『微塵も』反応していなかった。
「たぶん、ふうちゃんは……最初から、間違えてる……
『あやちゃん』の言ってること、と……逆の事、してる」
「逆とは?」
「え……その、えっと……」
そこに七殺が割って入ってくる。
「一つ聞くけど、ふうちゃんは棟梁からなんて言われたの?」
「ああ、確か『強靭すぎて問題』だと」
「そうね、全く以てその通りね
貴方と『憎悪』は相性が悪い、頭打ちになるのは当然ね」
「……」
「耐えれる貴方は気づいてないでしょうけど
そのままでは先に身体が壊れてしまうね」
「第一、『憎悪』は野放しにするものよ」
それは恐らく元十死の諸力としての言葉なのだろう。
錫沢には信じがたい言葉でも、八朝は実感のある言葉として受け取る。
「大体、それに耐えきれない方が悪いとは思わないの?」
「思わない、単なる怠慢なのだろう」
「うん、だから貴方には向いていないの」
七殺が真剣なまなざしを向けてくる。
とはいえ、ここまで間違えたとなると手詰まりに近い。
「あ、あの!
耐えることができないなら発散するのはどうでしょうか?」
ここまで無言を貫いた千早が話を始める。
曰く、地底部部長の愚行に悩まされたときに行う『儀式』で
心の中で部長と瓜二つの人形を引き千切る想像をする、というものである。
余りにも陰湿な方法に皆ドン引きする。
「え、ちょ……皆やらないんですか!?」
「……ごめんなさい
色々と心労を掛けてしまいまして」
「す、錫沢さんにはまだしてないですっ!」
流石千景の妹だと心中で感心する。
このような実証例が提示されたのなら、試してみる価値は大いにある。
「汝の精妙なる呪詛の手捌き、いたく感銘致した
騒動が終わり次第、眷属2号として汝を迎え入れよう」
「だから、そんなつもりじゃないんです!!!」
千早の悲鳴が朝の空に虚しく響いた。
続きます




