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Case 52-2

2021年2月12日 完成


 本日の鍛錬では柚月(ゆづき)七殺(ザミディムラ)が加わった。

 方や大絶賛に、片や大バッシング……賑やかにはなりそうな気がする……




【6月23日(月)・晩(20:00) 鳴下地区・鳴下家本家】




 ―壁―左L――大広間/空室(3つ)――T字(―×―/――階段(下))




『今回は単純みたいだったね』

「そうだな……例の大広間も見つかったし」


 それは初めて来たときに棟梁が明け渡した大広間である。

 中は漆喰壁に的が飾られたりして、どうやら弓道の練習に用いられているようである。


『そういや今日

 食膳にふうちゃん何か仕込んでなかった?』

「ああ、毎日運んでくれるからな

 会う機会も無いし文字で感謝したつもりだ」

『あっ、それいいかも!』


 とは言え『食膳消し』だけではない。

 食膳洗いをする人の仕事を増やすかもしれない。


 エリスはやる気満々だが、今後は控えようと思う。


『でも今回はトイレが無いよね、どうしてんだろ』


 それは確かに大問題だが、よく考えるとそれもおかしい。

 このように壁や戻る通路で仕切られない限り、建物に複数以上あるのもおかしい話である。


「どうだろうな……ッ!」


 戻らされる通路をもう一度確認した所で人の気配を感じる。

 どうやら通路のギミックを無視してこちらに向かっている。


(どうする!?

 あの通路無視できるって事は……)


 だが今までの事を考えると穏便に済むとは到底思えない。

 足跡を消して大広間の反対にある部屋の中に潜り込む。


(そのまま通り過ぎてくれ……ッ!)


 足音は段々と近づいてくる。

 そして、エリスから急に揺さぶられる。


(ねぇ、こんなのあるんだけど……)


 エリスが指し示した先にまだ回収されていない『夕食』があった。

 ……この部屋には誰かが居住している。


 それを裏付けるように人影がドアの前で止まる。


(終わったな)

(ま、まままままだ何かがあるし!)


 エリスがセンサーを最大にして更に隠れられる場所を必死に探す。

 対して八朝(やとも)はマスターに鉄拳制裁される程度の覚悟を決める。


(ほ、ほらあそこの中なら)

(エリスは大丈夫でも俺には小さすぎるな)

(だ、大丈夫

 関節を外したら何とかなるって!)


「貴方達、何をしていますの?」


 いつの間にかドアが開かれ、目の前に錫沢(すずさわ)がいた。




【6月23日(月)・晩(20:30) 鳴下地区・鳴下家本家】




「そうですの

 色々と大変なのですね」


 小一時間の説得も錫沢(すずさわ)には届いていない。

 どころか、この状況がどういう意味か知っていない節もある。


「時間は遅いですが、もてなして差し上げますわ」

「いや、それは別に……」


「はっはっは!

 今日も汝の捧げ物を……」


 タイミング悪く弘治にも合ってしまう。

 それよりも彼の存在は事前通告されていない。


「眷属……生きていたのか!」


 弘治に手を掴まれ、ブンブンと振られる。

 2連続で『無視』されるとは何と運の良い事か。


「眷属よ、的にされたと聞いた時は……」

「あれぐらいじゃ俺は死なないだろ」

「ああ、そうであったな!

 汝は我が『光の網』すら凌いだ故、些か過小評価であったな」


 笑いあっているが、『光の網』とは最終決戦のアレである。

 死闘を単なる駄弁り話にしてしまうのは八朝(やとも)でも驚きを隠せない。


「それよりも壁から来たのは予想外ですけど」

「……壁以外でどうやって行くんだ

 後は原因不明の『戻らされる通路』しか……」


「何を言ってますの

 あの通路は簡易な渡れずの横断歩道(フォレストラット)ですわよ?」


 錫沢(すずさわ)の返答に、一瞬だけ固まる八朝(やとも)

 だが、彼女が『七含人』の関係者だと思い出すとスッと理解できた。


「トイレがある先は『戊寅』ですから

 西方向に進めば普通に通れますわよ」

「待て、戊寅と言ったか?」

「え、ええ……そうですが」


 戊寅とは干支の一つであり、西方向とは戊寅の空亡である。

 それにフォレストラットとは訳すると森林の鼠……即ち以下の呟きとなる。


甲子(きのえね)……」

「あら、その通りですわ

 現当主らしい古い方法ですわね」

「すまん……棟梁が『七含人』みたいに言っているが」


「そうですわよ

 渡れずの横断歩道(フォレストラット)の『七含人』は鳴下家現当主・鳴下文ですわ」


 次々と明らかになっていく情報に混乱しそうになる。

 だが、隣にいる人物を見た瞬間に肝が潰れた。


(しまった!

 そういや弘治は……!)


 まだ復讐を諦めていない。

 その証拠に彼は一言も発していない。


「……どうした、さっきから押し黙って」

「ああ、何でもない

 単なる思考実験ぞ」


「それよりも件の『食膳消し』ですが

 彼女(・・)の通ったルートは知っていますわよ」


 錫沢(すずさわ)の説明によると、階段方向とのことである。

 今度は面倒な『壁』も『七不思議』も無くてホッと胸を撫で下ろす。


「にしても『食膳消し』でしたわね

 あの人、妙に気に食わないですわ」

「そりゃどうしてだ?」

「質素なのは慎ましくていいですが過剰すぎます!

 これでは貧乏人のそれと変わらないぐらいにみすぼらしいですわ!」


 どうやら錫沢(すずさわ)は食事に不満があるらしく

 こうして隣人を呼び寄せて、再調理しているらしい。


 その証拠に、テーブルに乗っている料理は自分の食べたそれと余りに変化している。


「だが、汝のは華美に過ぎる

 味を知る我ならまだしも、他人様に出せば落胆を招くであろう」

「な……!?

 これぐらいのが普通なのです、おもてなしなのです!」


 思わず普通の口調が出た錫沢(すずさわ)八朝(やとも)に料理を勧める。

 一口食べてみたが、弘治が言った事を理解した。


「薄い……?」

「そ……そんな……」


 錫沢(すずさわ)が大袈裟に落胆する。

 彼女の事だから本当にここまで落ち込んでいるのだろう。


 というより、再調理が原因で味が薄まっている。


「そういえばあと一人は?」

「『妖精』の妹であるなら昨日から一人で食事しているぞ」


 どうやら最後の一人は千早(ちはや)だったらしい。

 これで三刀坂(みとさか)鳴下(なりした)を除いた全員がいる事が判明する。


(……咲良(さくら)は一体)


 ここ最近、咲良(さくら)とは連絡が付いていない。

 これは辻守(つじもり)と同じ状況ではある。


「して、汝はこの後どうするのだ?」

「ああ、千早(ちはや)ちゃんに挨拶して戻るつもりだ」

「成程

 久々の邂逅で胸が躍った、また相まみえよう」


 こっちは明らかに『演技』しているように大袈裟に別れを告げる。

 しかし、錫沢(すずさわ)は立ち直っていない。


「つ……次こそはもっと上手くなりますわ!

 いつでもいらしてくださいね八朝(やとも)さん!」


 最早悲鳴に近いそれを聞き届けて部屋を後にした。

続きます

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