Case 51-1:状態異常を操る能力(Ⅱ)
2021年2月6日 完成
篠鶴市脱出は十死の諸力の囮であった。
辛くもその陰謀から逃げてきた八朝達は鳴下家現当主からの罰を受け……
【6月16日(月)・早朝(6:00) 鳴下地区・鳴下家本家】
「いつまで寝てんだ起きろ!
お前が最初から気を失わなかったことは知っているぞ」
お玉で鍋を叩く中年の男性。
滑稽な一幕に見えなくもないが、この男から微塵も隙が感じられない。
「もう少し寝かせてくれ」
「そうはいくか、棟梁様がお呼びだ」
男の言う棟梁様とは鳴下家現当主の事である。
そう、ここは鳴下家の本家が構える邸宅の中である。
「お前ら、こいつらを本家に運べ」
「……お言葉ですが彼らは大罪人では?」
「何を言っておる
奴らの罪は今ここでわしが罰したではないか」
「……承知しました」
この一幕の後に八朝達は鳴下家本家に運ばれた。
あの塔から妖魔と十死の諸力の死闘が鳴り響いていたが、どこ吹く風である。
詳しくは覚えていないが、『アトラスの塔』を使わずに直接本家に運ばれた。
「あーお前らは……
そうか、お前以外は気絶して聞いてないな」
「じゃあお前……じゃなくて確か八朝か
ここに運んだのは何も善意ではないことは理解しているであろう」
その後長々と篠鶴市の現状を話す。
報道のわりに対十死の諸力戦が上手くいっていないこと。
それによる組織自治の悪化で篠鶴機関が機能不全に陥っている事。
そして混乱の最中に篠鶴機関の機関長が謀殺された事。
「お前も十死の諸力は知っているであろう
尤も学園での信奉者はあくまで『口だけ』の出先機関に過ぎなかったが……」
「奴等は本気で『非能力者の抹消』を企てている」
それは何となく空気感で察していた。
三刀坂の『名もなき人々への見当違いな復讐心』
弘治の『機関長の大切な人(異能力者)を皆殺しにする狂気』
七殺の『八朝以外全員ゴミという差別思想』
であれば市新野も何かを企んでいるに違いない。
そんな思考を察したのか男が溜め息を吐く。
「お前が特殊な神隠し症候群だと実感するよ
まさしくその通りだ……奴らは何であれ『皆殺し』にする」
「だが、市新野は違ったであろう?」
それは確かに疑問に思っていた。
確かに殺意が漏れる事があっても、基本的には友好的な姿勢を見せている。
その裏で殺意があったとしても
ならば今までにあった『俺を殺す機会』を全て無視しているのが不可解である。
「市新野はな……異能力が『病気』であると最初に発見した奴だ
いやそれも正しくはない……奴が異能力を疫病として初めて作り出した」
余りに荒唐無稽な話だが、彼ならやりかねない。
能力もそうだが『本物』の記憶が正しいなら、ある物に深く関わっている。
「闇属性……電子魔術……」
「お前まさか発症前の記憶まであるのか
なら話が早い……奴の目的は『全人類異能力者化』だ」
それで彼の友好的な姿勢に説明がつく。
要は異能力者こそ人間で、非能力者は駆除対象の害獣。
それはあの放送ジャックの時に散々言った内容とも符合する。
「彼らの言も一理が無くはない
だが、その為に不必要な犠牲者を要求するのであればやはり相容れない」
同感である。
弘治がそうだったように、彼らは当たり前の日常を態と標的にしている節がある。
「我々は迷信的であるが
殊に『疫病』に関しては篠鶴機関に後れを取ったつもりはない」
「我々と共に戦ってくれ
故に我々はお前たちを『鳴下一族』として鍛え上げる」
「鳴下家始まって以来の特例であるが、努々胡坐をかかないように……」
「……今すぐとはいかない
まずは支度をさせてくれ」
男に許可をもらい着替えや身だしなみを整える。
恐らく寝起きのまま出ればそれこそ『棟梁様』の逆鱗に触れることになる。
最後に端末の充電を確認する。
「付いてくるがよい」
男の所作は歩き始めた瞬間から異様である。
歩いている筈なのに、それどころか鳴き板があるにも拘らず一切音がしない。
「これは序の口である
棟梁殿であれば気配すら完璧に消すことが出来よう」
男の言には何一つ誇張が無いように感じる。
それは先日の戦いで見せた『圧倒的な格の違い』にも起因している所感であった。
恐らく大邸宅であろう廊下を何度も曲がり、漸く目的の襖の前に着く。
「棟梁殿
八朝殿をお連れ致しました」
「通すがよい」
開け放たれた先は、想像以上にこぢんまりした空間であった。
てっきり大政奉還で使われる大広間を予想していたが、これでは自分の部屋の方が広い。
「何を驚いておるのじゃ
わし如きが使うのに大広間は必要ないじゃろう」
「とんでもございません、棟梁殿
貴方様が融通した広間は我々が恥じぬように使っております故」
「そうか、下がるがよい」
狭い間には棟梁殿と唐砂さんがいた。
彼らが促してようやく座布団に正座する。
「よく来たの
じゃが……ここからが本番じゃよ」
DappleKilnでございます
いつもありがとうございます
さて、今回から1,2話は修行回となります
どういうわけか鳴下家本家に連れ去られ
罰ではなく寝床が与えられる
だが、もうこの時点で胡坐をかくのは許されません……
篠鶴機関が支配した学園では駄目でしたが、今回は如何に
それでは引き続きよろしくお願いいたします




