Case 50-3
2021年2月3日 完成
2021年2月4日 結末変更
沓田を犠牲にして先を急ぐ。
目指すは地下迷宮の最深部、即ち『アトラスの塔』の妖魔……
【6月15日(月)・早朝(5:20) 地下遺跡群・第三層大広間】
地底探検部の発見した『アトラスの塔』の裏口から侵入する。
少し走ると、通路は第三層大広間に繋がっていた。
「……」
今でも思い出すのは変わり果てた鷹狗ヶ島の姿。
だが、そんな感想に浸っている暇は無い。
「八朝さん、ここって確か……」
「もうここには気するようなものは無い、先を急ごう」
「そうはさせませんよ」
第四層へと通じる通路から見知った声が聞こえる。
「辻守……なのか……?」
だが返答は無かった。
代わりに、いつもと違う姿で八朝達の前に現れる。
「貴方……お姉さんはどうしたのですの?」
「……」
「心配したのですよ
部長も死んで、貴方まで行方不明に……」
「部長を殺したのは外ならぬ僕ですよ?」
余りの荒唐無稽な物言いに八朝が凍り付く。
対して鳴下は顔色を微塵も変えていない。
「やはり……ですの?
貴方が異能部に戻ったとは聞きましたが、どういう意味かお分かりで?」
「ええ、分かっています
今は紅蓮として貴方達に立ち塞がります」
それはまたしてもさそり座の恒星の名前。
辻守は十死の諸力の幹部となっていた。
「お前……依代も無しにどうやって戦うつもりだ?」
「それは八朝さんが一番している事でしょうに、忘れましたか?」
真後ろで巨大な爆発が2度も発生する。
先程通っていた道と地上に繋がる道が崩落し、退路を断たれる。
電子魔術の遅延発動による同時多発攻撃。
市新野のような2つ持ちでもない彼が得意とする超高等技術が牙を剝く。
『Dwonj!!』
『Hpnaswbjt!』
端末よりレーザーを放つ電子魔術で横薙ぎにする。
反応できなかった千早に障壁魔術
八朝と鳴下はしゃがんで一撃をやり過ごす。
「千早!
出来るだけ早く能力を発動して身を守れ!!」
八朝の指示に従い、詠唱を始める千早。
「へぇ、障壁魔術じゃダメなんですね?」
「……アンタの能力と『紅蓮』は噛み合わない
逆に、相応しい奴が自身の能力を『業風』と称してな」
「……」
「恐らくその紅蓮という闇属性電子魔術は『反転』の力なんだろ?」
その答えは皆伝火属性電子魔術にて返された。
即ち、上空より飽和する超低温のエネルギーが鉄槌のように振り下ろされた。
『十の幻日よ!!』
弦打ちの音が冷気の一撃を雲散霧消させる。
だが一旦冷やされた空気が結露し、濛々と深い霧を発生させる。
「……!?
エリス、障壁魔術を頼む!」
『Hpnaswbjt!』
障壁魔術が八朝と鳴下を包む。
更に霧を撒き、次の攻撃に備える。
すると、レーザーの電子魔術が発動した。
急激に熱せられた霧が突沸し、辺りを烈風が荒れ狂った。
「きゃ……!」
千早が風に煽られて、詠唱を中途してしまう。
最初から彼の狙いはこれだったのだろう。
だが、ここで諦める訳にはいかない。
「エリス……形は!?」
『鋏がいっぱい……■■だった!』
「上出来だ!!」
そのヒントだけで、八朝は残りの神秘を繋ぐ。
『我は令を下し、暦を定める!
即ち、崩れ去る太陽に心臓を捧げる者なり!』
1度に4枠と、心臓の拍動を捧げる賭けに出る八朝。
それに最大級の脅威を感じた辻守が最大級の攻撃を仕掛ける。
『『「『Axyloye!!』』』
『十の幻日よ!!』
全てを焼き尽くす爆炎の鉄槌が、三方向から襲い掛かる。
それに対し、鳴下は弦が千切れるほど引き絞って禊の音を放つ。
八朝達への直撃コースのみ消し飛ばされる。
『0x86!』
そして巨人が起動する。
同時にその太陽を滅ぼしたジャガーの群れが全方位から迫って来る。
「これで……追手の『第五席』も……封じ……た!」
「ッ!
……これで、僕が折れるとでも!!」
辻守が、巨人に闇属性電子魔術を放つ。
弱点はあれど裏の存在しないこの巨人には一切効かなかった。
巨人に柱を握り込ませて辻守にアームハンマーを仕掛ける。
『Dwonj!!』
辻守らしく、寸分の狂いのない3連射を食らう。
本来の巨人であればかすり傷にもならない攻撃だが、八朝が関わったせいで『弱体化』している。
お陰で振り下ろす勢いが全て削がれてしまう。
(その為の物理攻撃だ……ッ!)
握り込んだ柱に更なる力を加え、砕け散らせる。
砕けた破片が辻守へと降り注ぐ。
「くっ……!?」
レーザーを収束状態から、滞空迎撃の為に忙しなく動かし始める。
大きめの破片は全て砕けたものの、アームハンマーは押し止める事が出来なくなる。
まるで爆破の如き大音響と土煙が周囲を包み込む。
「これで……あとは……ッ!」
だが、心停止による酸欠で力が入らなくなる。
全身から崩れ落ちた瞬間、宙に浮いたように誰かに抱えられる感覚を覚える。
「しっかりしてくださいまし!」
「駄目……だ……早く、烏落としを……ッ!」
土煙の中でも分かるほどの青い燐光が漏れる。
自分諸共『氷漬け』にする一撃に鳴下の身体が無意識に構える。
『……ッ! 十の幻日よ!』
『Axyloye…………ッッ!!!』
光が臨界を迎える前に鳴下の魔力消失が電子魔術を消し飛ばす。
濛々と立ち込める土煙に紛れ、八朝達は第四層へと進んでいった。
続きます




