Case 50-2
2021年2月2日 完成
逃げる道中で禁戸と丸前が立ち塞がる。
異能部もとい十死の諸力との死闘が始まった……
【6月15日(月)・早朝(5:13) 篠鶴学園・某所】
今や時間との勝負であった。
鹿室と沓田が命懸けで作り出した時間を戦いで空転させる。
相手が悪すぎる。
丸前は八朝の戦いに知悉し
禁戸は正体不明の地竜と光を浴びても危険な火炎を操る。
『十の幻日よ!』
「竜息の火炎!」
異能力を構成する魔力ごと消し飛ばす鳴下の一撃が、逆にかき消される。
「な……!?
貴方まさか……!」
「勘違いをするな、俺をあの穢れた一族と一緒にするな」
「なんですって……!」
怒涛のように烏落としを連発するも、全て防がれる。
その土煙の中から丸前が刀を水平に構えて躍り出る。
「獲ったぞ!」
『■■!』
丸前とサシで戦う八朝が仕掛ける。
あの時、鳴下の神経毒に冒された時を思い出しながら灯杖を振るう。
結果として、丸前の一撃を弾き飛ばす事に成功した。
「クソッタレが……『渦動斬』!!」
『我を遡れ!』
短縮した詠唱で丸前の螺旋に対抗する。
即ち、『原動天』から『十二宮』へと流出する径を遡り、偽りの天動説を正す。
八朝が打ち消した力の反動で、刀にびっしりとヒビが入る。
『即ち、聖霊に背きし偽りの天命を破るべし』
「さっきから意味不明な事を口にしてんじゃねぇ!!」
損害を無視して反撃しようとした丸前に鳴下からの連撃が入る。
仕方なく距離をおいた丸前の前に禁戸が躍り出る。
『■■■■■』
禁戸の薙刀の如き絵画ナイフから土砂が迸る。
……否、土砂ではなく土砂の色をした絵の具の奔流であった。
固有名も無しに異能力を放つ不可解な攻撃に全身が硬直する。
『Vrz……』
『Witglc!』
その前に躍り出た沓田のトーチから最大火力の爆炎が迸る。
だが、絵の具は爆炎を無視して沓田にべったりと貼り付く。
「沓田!」
「安心しろ!
何も起きてねぇ!!」
爆炎を更に押し込み、壁まで炙り上げる。
その先には通路があり、恐らくは二人ともそこに逃げたのだろう。
『血を捧げ、我は率き連れる!』
魔力を籠めずに詠唱を叫ぶ。
これで丸前が勘違いして止めてくれれば時間が稼げる。
「いい機会だ
お前らは俺を置いて先に行け」
沓田の申し出に全員が渋い顔をする。
友達を踏み台にするのも論外だが、先を塞ぐあの二人をどうすべきか。
「いい考えがある」
沓田の話した作戦は確かに有効であった。
だが、未だに躊躇する全員に言い放つ。
「八朝……
その顔は十死の諸力を返り討ちにする策がある顔だな」
「……」
「お前とは付き合いが短くてもそれぐらいわかる
つまりは、お前さえ生きていれば一泡吹かせてやれるんだろ?」
何も返答できないが、沓田が満足そうに笑う。
すっかり距離の縮まった三人の前に出て準備を始める。
「信じてるぞ」
◇◆◇◆◇◆
この手の戦略は既に何度も見て来た。
防御手段を持たぬ八朝はいつもこうやって目を眩ませる。
「前に出ないでください
奴がまた『新しい詠唱』を放ってやがります」
部長が何かを考えこむように押し黙る。
考えてみればこの状況は部長の能力にも不利だ。
煙幕の色を掬い取り、相手に押し付けては相手の姿が消えるだけ……
すると煙幕の先から幾つかの気配を感じる。
自然と口がほころび、目は獲物へと冴えていく。
「だよなぁ!
ここを通る以上貴様はこうするしかない!!」
まず、一番大きな影の首を狙う。
あっさりと水平斬りが決まり、刀の表面に血が付く。
(貴様の幻影には影が無い
既にその技は見切ったと言ったはずだ……!)
続いて鳴下、掌藤妹を切り捨てる。
土煙が晴れ、戦果を確認しようと目を見開く。
「な……!?」
『Wytglc!!』
その背後で大爆発が発生する。
受け身を取り、振り向くと既に通路は崩壊してしまっていた。
「どうだ?
俺の幻影魔術の味は?」
火の属性魔術の初級は、風景を偽る蜃気楼の魔術である。
つまりは、幻影に影を付け、本物から影を消したのである。
「これはお前だけでなく俺の失態でもある」
「絃風!?」
「今の俺は習坎と言った筈だ」
「あのクソ気持ち悪い奴が付けた異名なぞ以ての外!!」
剣を振るう。
目の前の沓田をどう殺すかシミュレーションを開始する。
だが、それを絃風の手が遮る。
「よい
既に奴の死は確定した」
もう一度相手をよく見る。
成程、確かに汚れているな。
「何だ……負け惜しみか?
お前らも『創造の火』でなく『単なる闇』を選んだことを後悔するんだな!!」
「はははははは!!
貴様こそ自分の身に何が起きているか分かってないようだ!」
「冥土の土産に教えてやろう
貴様には遅れて『死の神託』が訪れるのだ!」
なにを、と相手が言いかけた所で自分の身体の異変に気付く。
体中が疎らに石化し、石と擦れた拍子で全身から血が噴き出した。
やはり、先程の不流の石跡が当たったのだ。
「俺の能力は色蘊操作のみであった
だが、第五席より受けた『習坎』の洗礼により進化した」
「坎とは二つの災い……即ち異能力を繰り返す
即ち我が力は『先行の死』と『遅延の生』へと分化した」
「何だ、お前そのナリで虫取り少年気取りか?」
「貴様こそ現状に満足する餓鬼そのものではないか?」
「進化無き者は死ぬがよい」
そして竜息の火炎の一撃が沓田を蒸発させた。
ついでに通路を覆っていた土砂を溶かし、不流の石跡が崩落を防ぎきる。
その先にも八朝達の姿は無かった。
「クソッ!!」
余りの恥辱に自らの体まで切り刻み始める丸前。
その苦痛で絃風の呟きを聞き逃す。
だが、彼の顔は何故か笑みの方へと歪んでいた。
続きます




