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Case 49-3

2021年1月29日 完成

2021年1月30日 誤字修正


 八朝(やとも)達は独自で『太陽』の奪還を開始した。

 だが、まずは鳴下(なりもと)達の安否を知るために多目的室へ………




【6月15日(月)・早朝(4:44) 篠鶴学園・高等部校舎3F】




 その道中には濃密な死の気配が漂っていた。


 破壊された教官達の肉片に、昏々と眠り続けるかつての仲間達。

 そして、謎の『天然痘』によって呻き続ける今の仲間達……


「この状況……」

「何だ八朝(やとも)?」

「いや、こうやって困難に陥った部隊のみが病気で『処理』される……」


 それは全員が考えまいと思っていた事であった。

 先程の一人が残した『連絡はするな』との遺言。


 市新野(いちしの)が意図的に排除している可能性が過る。


「考え過ぎです

 それよりもう着きました」


 階段を上り切ると左手に多目的室。

 教室2つを使った広い空間から、先程と比較にならない程の瘴の気配が漂う。


「……」


 駄目だった。

 もしも、ここに鳴下なりもとが居たとしたら……考えたくもない。


 全員がこちらを見つめる。

 恐らく一番傷ついているであろう八朝(やとも)に全権を委ねようとする。


「もう時間は無い

 異能部部室に向かうぞ」


 それでもエリスが抗おうとして、微かな声を聞く。

 『誰ですの?』『そこに誰かいるですの?』


 急いで扉を開ける鹿室(かむろ)に対し、八朝(やとも)は動かない。


「おい、お前!」

「周囲警戒をしておく」


 八朝(やとも)沓田(くつだ)の手を振り切る。

 鹿室(かむろ)の言う通りに動けとアドバイスを残し、自分だけ早朝の廊下を歩く。


 今もあの鳴下(なりもと)の顔を思い出す。

 それはあの壊れた記憶でうんざりするほど見た『犠牲者達』の怯えの表情。


(……ああ、そうか)


 戻らないというのは即ちこういう事である。

 心を入れ替えた所で、もう既に手遅れなのだ。


 自分は最早十死の諸力(テロリスト)側の人間なのだと。




【6月15日(月)・早朝(4:51) 篠鶴学園・某所】




『連絡したら突然神出来(かんでら)さんが血を噴き出して倒れて……』


 端末(エリス)の通話を介して鳴下(なりもと)の話を聞く。

 先行する八朝(やとも)は、まだ見ぬ闇の向こう側を睨み続ける。


『お前だけ助かったのも妙だな』

『わかりません

 ですが、私だけ決行式の時に何も口にしなかったのは……』

『それはあり得ませんね

 彼女の病気は伝染病なので間近にいた貴方も……』


「その病気が異能力由来なら鳴下神楽で無効化できる可能性もあるな」


 スピーカー越しに声を詰まらせるのが聞こえる。

 最早音ですらも駄目なのか……


『お前、本当にそれでいいのかよ』


 今度は八朝(やとも)に話題が振られているらしい。

 多少考えて、返答を開始する。


「こっちの方が慣れてるからな」

『嘘を吐くな

 お前、自分が弱いと分かって誰かとつるむ事を選び続けてたろ』

「もう、弱くはない」

『ああ、そりゃ結構だ

 所で今この瞬間に化物(ナイト)と遭遇しても大丈夫って事だな?』


 もう既に返答に詰まる。

 答えはもう分かっているが、それでも今は彼女の視界に入りたくない。


『そうかよ』


 沈黙に呆れかえって再び鳴下(なりした)の話に戻る。


『でもどうして多目的室じゃないって……』

『そいつはあの八朝(やとも)が最初に気付いた

 最重要人物を明らかに目立つ場所に置いておくのはおかしいってな』


 ここで全員が黙り込んでしまった。

 この嘘情報で得をするのは一体誰なのかと。


 この奪還作戦の信じ難い『本性』に……


『ふうちゃん……あの時は怪我してたし……』

「あの時も何もない

 どうやら抑えても無駄だったらしい」

『でも……』

『おい、止まれ』


 八朝(やとも)が何事かと足音を止める。

 数秒もしないうちに鳴下(なりもと)達が見えて来る。


「やっぱりお前は後ろに居ろ」

「だがこれでは……」

「だがもクソも無ぇ!

 お前さっき言ったよな、抑えられなくは無いって」


「だったら今この瞬間抑えてみろ!」


 そう言われても結果は変わらない。

 相変わらず鳴下(なりもと)がきゅっと目を瞑り続けている。


「今でも抑えている」

「じゃあ全然できてねーじゃねーか!

 お前何だ、嘘しか吐けないのかよ!?」


 正論であった。

 だが、気に食わない。


「何だその目は

 嘘じゃないと今ここで証明してみせろや」

「2人とも喧嘩は……」


 鹿室(かむろ)が間に入って口論がようやく止まる。

 何処からどう見ても時間を空転させるやり取りで、双方思う所があったらしい。


「……」


 陣形を変えて、走り続けている間八朝(やとも)が更に試す。

 あの時以上に感情を抑える事は出来るのか、心に力を込めてみる。


(……ぅ)


 駄目だった。

 眩暈が起きる程の強烈な感情の投射を食らい、吐き気を催す。


 その気持ち悪さが、あの時と同じように憎悪を呼んでしまっている。


「あの……」


 一瞬、鳴下(なりもと)の声が聞こえた気がした。

 だが、瞼はきつく閉じられている。


 その拒絶が堪らなく悲しく……


八朝(やとも)さん、大丈夫ですか?」

「……これくらいなら平気だ」


 鹿室(かむろ)が確認もせずに黙り込む。


『着いたぞ』


 通路の先に沓田くつだの姿と一つのドア。

 『異能部部室』とのネームプレートを確認した。

続きます

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