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Case 49-2

2021年1月28日 完成


 篠鶴市を見捨てる戦いが今始める。

 だが、敵は篠鶴機関だけではなかった………




【6月15日(月)・早朝(4:30) 篠鶴学園・高等部校舎1F】




「見つけたぞ!!」

■■(samek)!』


 教官の怒号が、続く掃射の音にかき消される。

 罰則(ペイン)は重いが、倒れる程ではない。


 自分の身体に喝を入れて、敵を見据える。


「奴等は!?」

「ほ、報告です!

 現在1F東廊下、旧3-1・3-2・3-3教室が炎上!」

「……食堂か!!」


 どうやらこちらの狙いに引っかかってくれたらしい。

 ほどなくして全校放送が始まった。


『総員、食堂へ集結せよ!

 寝ている奴も叩き起こして引き連れろ!!』


 校内に鬨の声が上がる。

 相手が学生なので、これだけでもいくらか効果が期待できる。


「……やっぱアイツ等プロだな」

「それでもキチンと情報を精査できてないのは失格ですがね」


 目の前の職員を鹿室(かむろ)魔法剣(ギフト)で薙ぎ払う。

 どういう訳か対能力防御装備が無いらしく、事がスムーズに運んでいる。


「装備整える時間が無かったのか……」

「いやそうじゃねぇ!

 アイツ等自分の装備も学生に用意させてたからな!」

「マジかよ……」


 それは流石に無防備過ぎるのでは?

 八朝(やとも)は基本営倉送りで知らなかった事情に歯噛みする。


 遅延性の毒でも仕込んどけば楽に殺せただろうか……?


「ちょっと待て! 何だコレは!?」


 一番前を走る沓田(くつだ)が突如足を止める。

 目の前の廊下に、夥しい『昏倒した人』が折り重なっていた。


「寝間着……まさか学生!?」

「おい、お前確か第2隊の……」


 駆け寄ろうとした沓田(くつだ)を掴む。


「お前、何するんだ!」

「駄目だ近づくな!

 アイツはもう助からない……」

「どういう意味だ!?」

「全身の発疹に呼吸困難……

 八朝(やとも)さん、これってまさか」


「ああ、天然痘だ」


 凡そ考え得る限り最悪の状況であった。

 見捨てないといけない上に、食堂に通じるこの道を放棄する必要があった。


「何だよ天然痘って!?」

「2000年前に大流行して

 間接的に当時の世界帝国を滅ぼした病気だ」

「だから何だよ、今助けたら……」

「もう助からないし、近づけばアンタも死ぬ」


 それでようやく納得してくれる。

 流石に目の前に症例(しょうこ)があるのだから、信じざるを得なかったのだろう。


「あ……」

「どうした!?」

「れん……ら……くは……す……」


 そう言って仲間が事切れた。

 状況が掴めずにいると、ふと違和感。


 もう既に目の前に教官の姿があった。


「見つけたぞクズ共が!!」

「!?」


 状況に硬直した二人が動けずに銃口を見つめる事しかできていない。

 対して八朝(やとも)は既に迎撃の準備が完了していた。


 あの顔は、あの時本殿で鳴下(なりした)達を痛めつけた教官(クズ)……!


 ……。




 ①火雷神による心不全

 ②大雷神による昏睡




(……ッ!)


 殺すな。

 抑えるのではない、状況を見ろ。


 天然痘の汚染地域間際。

 火雷神の心臓麻痺だと自分まで行動不能に陥る。


 ここで自分も動けなくなれば、第3隊(おれたち)は瓦解を免れられない。


 『殺せ』

 『そいつのやった事からお前は逃げるのか?』


 『お前は■■■■■の癖に、今更躊躇するのか?』

 『今ならその憎悪を許してやらなくもない』




 さぁ、その手を刀とし、心臓へ……




 だが、それで死んでどうなる?

 鳴下(なりもと)とも和解してないのに犬死を晒しても良いのか?


 アイツの強さを認めた人間が、こんな体たらくで恥ずかしくないのか?




(………………ッ!!!)




 左手で掴み上げ、刀印を胸から顔にずらす。

 間違えて左目を潰してしまったが関係は無い。


■■(pit)!」


 青黒の雷が教官に接触する。

 トリガーに掛けた指が、引き込まれるよりも早く小銃を取りこぼす。


 無論、八朝(やとも)への昏睡(返し風)気絶無効(レフト)が打ち消した。


「助かっ……た……!?」

八朝(やとも)君!? 何をしているんですか!?」

「……すまん

 でもこれで大丈夫だ!」


 指についた血と肉片を拭い落とし、汚染現場から逃げる。

 二人も直ぐについてきたが、最初よりも雰囲気が変化していた。


「それ、もう治らないのか?」


 恐らく沓田(くつだ)が『それ』と言ったのは憎悪の事だろう。

 間違いなく、そうであった。


「治らない

 だが、抑えられなくはない」

「そうか……やっぱお前すげぇな」

「何だよ突然」

「何でもねぇよ

 んで、次はどうするんだ?」


 少し思索してみる。

 もう既に陽動の効果は出たのだから第3隊(おれたち)は用済みだ。


「アジトに戻って戦果を待つ

 ……っていうタマじゃなさそうだよな」


 沓田(くつだ)鹿室(かむろ)、それにエリスまで頷く。

 精神的にもそうであるが、事前報告の無い情報が多過ぎる。


 最早、市新野(いちしの)は……


三刀坂(みっちゃん)柚月(ゆーちゃん)が心配』

「じゃあ、その二人も取り返すか」

「アイツ等今前線だぞ、距離遠くねぇか?」


 確かにここから榑宮までは遠い。

 直線距離の問題でなく、隔たりが運河で視界が絶望的に広い。


「いっそのこと俺たちで『太陽』奪還やってみるか?」

「でも多目的室ですよ?

 結構経っているし、そろそろ生徒も」

「いや、異能部部室だ」


 その言葉で全員がもう一つの疑問に解を得る。

 最重要人物を多目的室のような目立つ場所に置いておくのか?


 これも陽動だとすれば、幻と言われて久しい異能部部室の方が……


「本当にあるのかよ」

「一度だけ行った事がある、ルートもちゃんと覚えてる」


 次の作戦目標が決定した瞬間であった。

続きます

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