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Case 49:病毒を操る能力(Ⅲ)

2021年1月27日 完成


 本当に数時間も経たずにして作戦決行の時が来る。

 市新野(いちしの)が気を利かせてくれたのか、小隊のメンバーは見知った顔だけだった………




【6月15日(月)・早朝(3:50) 地下迷宮(アトラスの塔)・第一層入口付近】




「結局やるってワケだな……」

「……」


 沓田(くつだ)から呆れ半分に呟かれる。

 頭を掻いているようだが、それでは市新野(いちしの)の話を聞き漏らすだけだぞ?


『目標は3Fの多目的室です

 しかし、それに至るまでの間に数多くの巡回ルートが交差しています』


『そこでまず第1から第6までの部隊が陽動として校舎に侵入

 最短ルートで食料庫となる食堂へと進撃、基本見敵必殺で動いてください』


 自分たちは第3隊なので食堂に向かう事になる。

 一方主力のそれ以降は2段階に分けて攻め入り、最終的に多目的室を向かう。


 その中には鳴下(なりもと)神出来(かんでら)等の見知った顔があった。


『では最後に掌藤千景(たなふじちかげ)さん、お願いします』


 掌藤(たなふじ)市新野(いちしの)からマイクを貰い、壇上に立つ。


『まぁ、お前らももう知ってると思うけどこれがアタシの地だ

 心底ガッカリしているだろうけど、今はそれどころじゃねぇと理解してくれ』


『アタシの妹が攫われている……後は分かるよな?』


 歓声が後ろからさざ波のように押し寄せ、空間全体を支配する。

 だが、第3隊の誰もそれに乗っかっていないのが八朝(やとも)には奇異に見えた。


『大切な人を取り返し

 全員でこの街からオサラバし

 あの教官(クソ)共に一泡吹かせようじゃねーか!』


 再び怒号のような歓声。

 親衛隊を取り仕切る彼女だからこそできるカリスマの発露だろう。


八朝(やとも)さん)

(何だ鹿室(かむろ)……ッ!)


 一瞬『伝令の石(アンゲルスリシオン)』の赤い色が目に飛び込む。

 気づいた時には体に覆っていた鈍痛の重りから解放されたことに気付く。


(おいお前……それは最後の)

(そうです、だから約束してください

 もう二度と教官達にしてきたみたいな無茶は止めると)


 二人が八朝(やとも)の顔を見るなり、安心したように頷き合う。

 だが八朝(やとも)には『貴重な資源を無駄にした』という落胆だけしか無かった。




『6月15日午前4時……作戦開始!』




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 夏至に近く、既に空には薄明が広がっている。

 その僅かな逆光で更に暗くなった校舎を三人で突っ走る。


(身体が軽い……

 これなら更に効率良く殺せる……だが)


 今にして思う。


 鈍痛のせいで過剰な血の気が引いた今なら

 あの『逃亡軍同盟』に感じた矛盾の数々を……


「どうだ、少しは頭が冷えただろ?」

「……助かる

 だが、一つ質問させてくれ」

「何だ?」


 どうやら沓田(くつだ)は話に応じてくれるらしい。

 なので目下の矛盾点をぶつけてみる。


市新野(いちしの)は『なるべく同士討ちしないようにする』って言ってたよな」

「まぁ、そうだな」

「どうやって『避ける』かは言ってないよな

 しかも陽動の俺たちは一番その確率が高いのにも関わらず」

「……そこは市新野(いちしの)が考えてくれてると思ってたが(・・・・・)


 一番前を走る鹿室(かむろ)が何かに気付き立ち止まる。

 間も無くして、市新野(いちしの)の回避策を目の当たりにする。


「寝て……いる……?」

「……どうやらそうらしいな

 やるじゃねーか市新野(アイツ)!」


 沓田(くつだ)がそう言って納得している。

 八朝(やとも)は更に寝ている人の瞼を抓って確かめてみる。


「すげぇな、何しても起きやしない」

「……」


 待て、これでは睡眠ではなく『昏睡』だ!

 しかも首筋に僅かな腫脹……まさかこれは……!


 そう言おうとして、鈍い頭痛(・・)と遠くの爆音に邪魔される。

 ほどなくして全館に警報ベルが鳴り響く。


「ついに始まりやがったな!」


 この場は危険と判断し、迂回して食堂に向かう事にする。

 その判断が功を奏したのか接敵せず目的地までたどり着く。


「着いたぞ!

 んで、こっからどうするんだよ!?」


「おい、貴様等ここで何をしている!!」

「隊長! Sln.117287(八朝風太)が混じっています」

「反逆者気取りが舐めんな!!」


 教官が小銃を構えて狙いを定める。

 だが、それよりも早く沓田(くつだ)爆発(ギフト)が全てを吹き飛ばした。


「お前、ホント一体何したんだよ?」

「彼には確か……そうだな

 手錠があったから、頭蓋骨が割れるまでヘッドバット……」


 そこまで言って二人が明らかに引いている様子に気付く。

 取り敢えず話題を変えてみる事にする。


「道中に火を放とう

 狙いが食料庫って伝わればいいからな」


 リーダーでもない八朝(やとも)が方針を決める。

 極めて奇妙なやり取りだが、何故だか二人とも『懐かしい』表情をしていた。


「だったら最初からやっておけばよかったかもな」

「それだとアジトが気付かれますし、結果オーライでしょ」


 張りつめていた緊張が緩み、思考の余裕が生まれて来る。

 取り敢えずエリスのルート通りに火を放つことにする。


「エリス、付近に何人ぐらいいるか?」

『えっと……数人ぐらい……?

 でもでも、生徒が一切いないかも!?』

「こんな騒ぎで起きてないのか……そりゃちょっとおかしいぞ」


 沓田(くつだ)が再び考えこみ始める。

 やがて、何かに気付いたようにこちらを向いてくる。


「お前、さっきの寝てる奴見て何か気付いたんだろ?」

「……元の世界で似たような疫病があるんだ

 アフリカ睡眠病っていう眠り続ける病なんだが、それにしては進行が早すぎる」


 この病はリンパ系感染、嗜眠症状、昏睡の三段階がある。

 いずれも僅か1日で進行することは滅多に無い筈。


「だったら違うんじゃねーのか?」

「いや、あの時頭痛があった(・・・・・・)


 その瞬間に全員に伝わってしまった。

 少し前に起きた『病欠騒ぎ』が再び発生している……。


「一体何が起きてやがるんだ!」


 沓田(くつだ)が悪態を吐きながら

 陽動用の(ギフト)を発生させた。

毎度、DappleKilnでございます


唐突に始まりました大脱走

そして主人公もちょっとは冷静に……?


今回は本当に様々な事が起きます

色々と覚悟……は言い過ぎでしょうか?


それでは引き続きお楽しみください

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