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Case 47-5

2021年1月21日 完成


 残り時間10分。

 物陰から全員で溶岩の方を睨む……




【6月12日(金)・夜(22:50) 地下迷宮・第五層大広間】




「……」


 赤熱した岩の河の畔に三人程の人影を確認する。

 間違いなく先程の偽仲間達(ナイト)であった。


「やはり余裕そうですわね」

「しょうがないじゃん

 結局私達あそこに行かないと死ぬから……」


 偽仲間達(ナイト)の戦略性に思わず舌打ちしそうになる。

 とはいえこちらにも最終兵器が存在する。


「ほんとに……いいのですか?」


 千早(ちはや)が不安そうな顔を覗かせる。


 もしも暴走して、偽仲間達(ナイト)を粉砕してしまったら。

 最悪な想像が頭を過っているのか、顔を青くしている。


「ああ

 三人共(・・・)回収するまでここで作成してくれ」

「私が付いていますの」

「いや、お前も回収するまでは待機だ」


 そう、回収である。


 先程密かに千早(ちはや)の異能力で試してみた所

 こうして彼女の能力が戻っている。


 これに賭ける……


■■(Wvisfef)!』


 八朝(やとも)鳴下(なりもと)依代(アーム)を真似る。

 そして狙いを偽仲間達(ナイト)のうちの弓矢の人影に合わせる。


『ふうちゃん、今だよ!』

「……ッ!」


 弓矢を番え、限界まで引き絞った弦を離す。


 和弓の経験が無い上に超低耐久から放たれた矢は

 無風の筈の洞窟でふらついて、届きそうには見えない。


『Vrzpyq!』


 そこにエリスの初速度変更魔術(アクアグラム1)が乗せられる。

 エリスの計算通りに突き刺さり、矢だけが砕け散る。


 FRAME:5→4


「……ッ!」


 『似姿のジンクス』

 瓜二つの人物が必ず一人存在し、出会うと片方が死ぬ。


 だが正確には違う。

 死んだ片方の全てが生き残っている片方に吸収される。


 この瞬間に八朝(やとも)罰則(ペイン)を代償に

 依代(アーム)を通して偽仲間達(ナイト)に接続した。


 苦痛を堪えて叫ぶ。


『……■■(Wvisfef)! ■■(Isfjt)! ■■(Roonjmd)!』


 FRAME:4→1


 続けざまに依代(アーム)の模倣し

 同時に偽仲間達(ナイト)から異能力を奪還する。


「みんな!」


 八朝(やとも)が投げ渡した依代(アーム)をそれぞれ受け取る。


『十の幻日よ!』


 異能力(特殊攻撃手段)を失い、それぞれが元の武器のレンジに戻る。

 その際に急接近した偽鹿室(ナイト)鳴下(なりもと)が消し飛ばす。


「エリス!」

『大丈夫、生きてるって!』

「それじゃあこっちに戻って来いと伝えてくれ!」


 本当の勝負はここからである。


 『異能力者必殺』を成立させる為に

 意図的に脆くなっていた身体が元の化物(ナイト)の強度へと戻る。


『Roonjmd!』


 鹿室(かむろ)が石の力を解放し

 暴風雨を纏った斬撃を化物(ナイト)に浴びせる。


「効いて……ッ!」

『十の幻日よ!』


 鹿室(かむろ)から離れた位置から鳴下(なりもと)が仕掛ける。


 ダメージは与えられなかったが

 化物(ナイト)が回避に専念して八朝(やとも)達と距離が離れる。


 これで時間が稼げる。


「……」


 一方千早(ちはや)は焦っている。


 いつも通りでなく『大雑把』に

 姉のようにでなく、もっと不格好に大雑把に。


 それは彼女の常識を揺るがす事態でもある。

 だが、それが活路になるとの言葉を信じて集中を高める。


八朝(やとも)さん……」


 視界の向こうで矢の雨と障壁魔術がかち合う。

 必死で逃げる八朝(やとも)を追って騎士槍(ナイト)が追いすがる。


 誰も彼もが手一杯で

 ふとした瞬間に崩壊しそうな


 永劫の時の中、ふと千早(ちはや)の中でカチリと合う音がした。


「できた!」


 その掛け声と同時に全体を濃霧が包む。

 

 霧の中の全員の動きを千早(ちはや)が把握する。

 あの化物(ナイト)すら釘付けの今……この時しかないと決心する。


0xc7(雨の心臓)!』


 霧の頂上から羽化するように巨神が起き上がる。

 だが足元が不明瞭で、一歩踏み出す前に倒れ込む。


「!」


 八朝(やとも)の目の前に巨神の瞳が落ちて来る。

 『心臓(いけにえ)を寄こせ』と言わんばかりの視線を浴びる。


 恐らくこれが暴走原因であった。


『心臓なら今くれてやるよ……■■(pit)!』


 八朝(やとも)八雷神(pit)の内の一つ

 即ち、心臓に取り付いたとされる火雷(あか)を巨神に放つ。


「……ッ!」


 その瞬間に八朝(やとも)から鼓動が失われ、代わりに巨神の貪りが止まる。


『ふうちゃん!』

「うそ……止まった……」


 千早(ちはや)の脳裏に先程の会話が蘇る。


千早(ちはや)の能力は妖精作成ではない

 どころかそれより格上の太陽(せかい)を作成する力だ』


 海の向こうに伝えられている5つの太陽の神話。

 生贄として心臓を求め、太陽と共に世界と人が生まれる。


 その神話が目の前で屹立する。


 第四の雨(ナウィ・キアウィトル)、雨神・トラロック。


 炎の雨と共に滅び、ヒトが鳥に変えられてしまった2つ前の世界のカタチ。


 時間はもう1分も無い。

 息を呑んで、巨神に言い放つ。


「……やっちゃえ!!!」


 言葉と共に、滅びのカタチが顕現する。

 即ち地を抉る程の炎の雨が偽仲間達(ナイト)と溶岩に殺到する。


『……ッ!』


 たった30秒間の激しい轟音。

 土煙が晴れた頃には0つ目(アトラス)級討伐の証である巨大な『アルキオネの鱗』が転がっていた。


 だが偽仲間達(ナイト)が最後に投げ放った一撃で天井に罅が入る。


「そん……な……!」


 既に鳴下(なりもと)達が沈降帯(アンカー)の境界たる深青に向かって全力疾走してしまっていた。


 八朝(やとも)とエリスだけがその絶望を見つめる。


(クソが……こんなことで……!)


 ありとあらゆる方法を模索する。


 FRAME:0

 STR:0 / No Criticals


 今の八朝(やとも)ではどうあがいても止められない。

 しかし、彼はステータス外の『力』を見落としていた。


『掴まって下さいまし! 早く!』


 鳴下(なりもと)のようでそうでない『あるヒト』の声。

 その父が使っていた術式……不可視の手を即座に掴む。


『総員直ちに招集せよ!』


 掛け声とともに全員の姿が迷宮から消え去る。

 岩は誰も圧し潰さず、奥の通路を塞ぐにとどまった。


 代わりに現れたのは本棚と畳……水瀬神宮の本殿である。


「その様子ですと、全員無事ですわね」

瑠香(るか)!?」

「何ですのその顔

 折角、クソ親父の術を使ってまで助けましたのに」


 錫沢(すずさわ)がそう言って拗ねた様子になる。

 だが、これのお陰で八朝(やとも)達はアリアドネの糸を図らずも得たのである。


「助かった、感謝する」

「そ、それは良かったですわね……なら……」


「ほう、暇つぶしに乗ってやったら

 随分と愉快な場面に出くわしたのう?」


 全員が声のする方へと向く。


 まるでここをパーティー会場と間違えたような

 シックなドレスを纏う謎の女性の姿がそこにあった。


 いや、問題はそこではない。


 その顔……それは端末(RAT)の生みの親として日々のテレビに出演している『アイリス社』の代表責任者。


「アイリス・ベサリウス……」


 女は笑みを浮かべる事無く、妖艶に口角を吊り上げた。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 使用者(ユーザー)掌藤千早(たなふじちはや)

 誕生日:2月11日


 固有名(スペル)Pafam(パファム)

 制御番号(ハンド)Nom.33793(カプタイン星)

 種別(タイプ)  :S.AQUAE(上級・水属性)


  STR:5 MGI:2 DEX:1

  BRK:0 CON:5 LUK:0


 依代(アーム)  :不明

 能力(ギフト)  :太陽創造(アステカ神話)

 後遺症(レフト) :常に暴走状態に陥る




xxxxxxxx xxx

  Chapter 47-b   光明 - Sunlight




END


これにてCase47、『第五層』の回を終了いたします


何か今回もギリギリアウトで切り抜けましたね

案外運が良いのかもしれません(でもLUKは0)


さて何故錫沢がこの事態を察知できたのでしょうか?

本当に何でしょうね?


次回は『撤退』

それでは引き続きよろしくお願いいたします

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