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Case 47-2

2021年1月18日 完成


 マスターの案内で一度太陽喫茶へと引き返す。

 『アトラスの塔』への近道とは一体何なのだろうか……




【6月12日(金)・夜(20:49) 篠鶴地区・太陽喫茶1F】




 玄関に入るなり奥の扉へと進む。

 その扉は確か飯綱(いづな)の部屋だった筈である。


「何だその顔は?

 お前さんも知ってたんじゃねーのか、奴の正体を」


 そう、飯綱(いづな)はマスターの上司に当たる人物である。

 SectionI(情報工作課)統括部長、又は『最高決定機関・三壁』の『後壁(ボイド)』。


「疑問はあった

 篠鶴機関の中枢がどうしてこんな所にとは、な」

「今からその答えを見せてやる」


 マスターがポケットから取り出したカードを認証させる。

 現れた文字盤に所定の操作を加える。


 そしてドアノブを回すと、向こうに地下迷宮の通路が広がっていた。


「これは……?」

「機関内隔絶回廊・大いなる手(アル・トゥラヤー)

 機関員はこれを使って施設移動や配備などを行っている」

「……アル・トゥラヤーだと?」


 それは牡牛座を中心にして南北に伸びる広大な星群(アステリズム)の名前である。


 意味はそのまま『プレアデス』。

 瞬間に何が関わっているか理解する。


「そうだ

 お前と同じ『樹氷(ロゴス)の使徒』だった転生者だ」


 だった、という言葉に嫌な響きを覚える。

 恐らくは『治った』のか『死んだ』のか……彼の能力(ギフト)だけがこうして施設となって残っていた。


「ふわぁ……便利そう」

「……咲良(さくら)か」


 マスターが苦々しそうに呟く。

 どうやら足音を消して様子を伺っていたらしい。


「ねぇ、おとうさん……」

「駄目だ」


 マスターが何も聞かずピシャリと拒絶する。

 本来であればむくれるであろう場面なのだが、やけに静かである。


 咲良(さくら)の方を向くと、今までになく真剣な表情であった。


「そう……ふーちゃんは良くてわたしは駄目なんだ」

「当然だ

 この扉は一人前の男しか通さない」

「でもゆーちゃんも通すつもりなんだね」


 咲良(さくら)柚月(ゆづき)を後ろから抱きしめる。

 これも珍しく柚月(ゆづき)が暴れていない。


 一体これはどういう事なのか……?


「……お前だけは絶対に通さない」

「それってわたしの『色盲』に関わることだよね?」


 今度はマスターが押し黙る。

 この太陽喫茶に纏わる様々な謎が溢れ出していた。


「わたし、このまま知らないフリなんかできない」

「……」

「ふーちゃんたちの後でいいから……」

「……」


 今、マスターは両天秤に掛けているのだろう。

 『完全に拒絶し、隠れて使われる』か『許可して、彼女の身に危険を及ぼさせる』


 柚月(ゆづき)も緊張に当てられたのか冷や汗が浮いている。


「ん、大丈夫だから

 ちゃんと守ってね……ゆーちゃんっぽい人」


 その言い方で八朝(やとも)柚月(ゆづき)への違和感に気付く。


 第五層の『呪い』は偽物を作成する。

 既に『偽物』があれば、こうして流用される。


 七殺(ザミディムラ)が恐怖の顔で咲良(さくら)とマスターを見る。


「でも、たしかにふーちゃん凄いよね

 『前』はゆーちゃんを殺したのに、化物(ナイト)の気配を中和しちゃうんだから」


「……ッ!」


 抱かれている両手が不快なのか痙攣が止まらない。

 罪悪感なのか、単なる逃避なのか目が泳いでいる。


「待て、彼女は……」

「うん、知ってる

 ふーちゃんとの約束を守ってくれてるんだね」


 咲良(さくら)七殺(ザミディムラ)を愛おしそうにかき抱く。


「ま、俺も危険が無いと思って無視してたんだがな」

「おとうさんもまだまだだね

 こういうのは見た瞬間に分かっちゃうものなんだよ」


 そんな咲良(さくら)の言動を不思議に思う。

 無彩色しか見えない彼女の目で、一体世界がどういう風に見えているのだろうか。


「ぜんぶ終わったら、帰ってきてね

 みんなお菓子とか持って待ってるから」


 そして咲良(さくら)が手放す。

 先に入っていた八朝(やとも)の元へ彼女の背中を優しく押す。


 その目に大粒の涙を湛えている。


「いってらっしゃい」

「……いってきます!」


 そして扉が閉ざされた。

 咲良(さくら)の事情にはもう手が届かない。


 だが、八朝(やとも)達には時間が無い。


七殺(ザミディムラ)……大広間まではどれくらいだ?」

「……2時間ぐらい」


 凡そ1時間以内に『第五層』を討伐する必要がある。

 今の戦力でどの程度戦えるかは未知数だがやるしかない。


「エリス……最大級でサポートを頼む」

『言われなくても!』


 エリスが分析魔術の光を放ち、調査(?)を開始する。


「それ、単なるハッタリなんじゃないのか?」

『そう言われると思いましてー

 本当に調べれるようにしちゃいました!』


 相変わらずの開発スピードであった。

 もしも彼女が生身だったらと考えると背筋が凍えてしまいそうになる。


『お、隠し通路発見!』

「マジか……!」


 八朝(やとも)七殺(ザミディムラ)の手を引き、迷宮を只管走っていった。

続きます

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