Case 46-1:神経毒を操る能力(Ⅳ)
2021年1月12日 完成
2021年1月13日 最終行削除&誤字修正
地下迷宮にいた皆を救う事は出来た。
その代償に部長の命が消えてなくなってしまった……
【6月1日7時24分 抑川地区・太陽喫茶店内】
週明けの朝のニュースは随分とヒステリックな内容となっていた。
ミチザネを呼び寄せる『天神御守』の存在。
そしてそれがよりにもよって十死の諸力の手に渡ってしまった事。
『これは実に由々しき事態です
篠鶴機関は一体何をしていたんでしょうか』
専門家が普段の冷静さを欠いてあらん限りの『清き暴言』を浴びせかける。
これでは朝食が不味くなってしまう。
「あ、それはそうと八朝」
「何だ?」
「お前は今日から休学だ
向こうにも話は通しておいたぞ、ついでに咲良もだ」
二人して匙を落としてしまう。
余りにも急なマスターの決定についていくことが出来ない。
咲良に関しては高校が襲撃宣言の対象箇所だという事が理解できるが、自分に関してはそれはない。
「な……何を突然……!?」
「お前、昨日0つ目級と交戦したじゃねーか」
「それとこれと何が……」
「ふうちゃん、飛び級だよ」
咲良から言われた言葉を一瞬理解することが出来なかった。
少しして、それが『学園生のうち顕著な成績を収めた者に対する即時卒業・篠鶴機関内定』を意味するものだといつかの記憶から思い出す。
『じ……じゃあゆーちゃんもじゃん!
あの時鷹狗ヶ島を倒せたのはふーちゃんだけじゃ……』
エリスがそこまで言い募って、ようやく理解する。
マスターの珍しい翳りのある表情に、事情を察する。
「ま、お前には遊ばせるわけにはいかないからウチで働いてもらうが」
「それは別に構わないが……」
「そうか……じゃあ期待しとくぞ」
こうして呆気なく八朝の学校生活が終了してしまった。
【6月11日10時24分 抑川地区・太陽喫茶店内】
あれからというもの、八朝は給仕の仕事に精を出していた。
初日にマスターから教えられた手順通りに仕事を為していく。
たった数日ではあるが、常連の顔は割と覚えてこれた。
近所の人や、マスターの友人……そして何故か鳴下が学校帰りに今日の出来事を教えてくれる。
『そういや俺、飛び級扱いになっているらしいんだが』
『飛び級……ですの……?』
奇妙な返事を返される。
篠鶴機関職員への内定と言えば、学園では1、2を争う勝ち組コースの筈だが、鳴下の表情に喜の色が一切見られない。
『分かりました、また来ますわね』
そう言って鳴下がお代を出して店から去る。
明日は七殺も連れてやって来るらしい……そういえば彼女との約束は何だかんだで果たされていない。
(……)
昨日の出来事を思い出し溜息を吐く。
時計を見ると10時30分前。
そうだ……この時刻には一際奇妙な常連さんがやって来る。
「邪魔するよ」
「いらっしゃい」
長年の農作業のツケなのか腰を深く折り曲げて、杖を突きながら歩くおばあちゃん。
名前の方は頑なに拒否してくるので素性は不明であるが、毎日毎日この時間にやって来る。
「あ、おばあちゃんいらっしゃい」
「おうおう咲良かい、いつものでお願い」
「りょうかーい」
いつものと言われても、この店の中で最も安い注文なのである。
それとこのおばあちゃんは毎回毎回話しかけてくるのである。
「それと新人さんや
今日は学校はあるのかい?」
「……学校は辞める事になった」
「ほう、それは初耳じゃのう」
この会話も既に数度繰り返している。
それだけ深刻な老いになっているのだろうか……?
「……飛び級で篠鶴機関の職員になりましたので」
「ほう、ほう!
それは実にめでたいことじゃ」
「そうですね……」
「なんじゃ、篠鶴機関と言えば異能力者の誉れじゃろ……随分と嬉しくなさそうな顔じゃの?」
努めて平静に接客していた筈なのだが表情に出ていたらしい。
何しろ『あの時』は何度思い出しても『引き離された』感が消えてくれない。
「嬉しくないも何も、突然辞める事になったからな
友達にお別れも言う暇も無くこうして仕事三昧になってしまったし……」
それを聞いたおばあちゃんが顔を険しくさせる。
何か不興を買う事をしてしまったのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
「それは……随分と変な話じゃの」
「変……なのか?」
因みに他の常連にもこの話はしており、反応は一様であった。
自分も突然こうして課題から解放されて気が楽になったものだ、と
「……分と…………校……は…………させ……」
「何か言いましたか?」
「ん……ああ大丈夫じゃよ
只の年寄りの独り言じゃよ」
言われた通りに聞き流す事にした。
にしても昨日の鳴下といい随分と疑われる場面によく出くわすものだ。
そうしておばあちゃんはいつも通りに席を立ち、会計を済ませる。
「新入りよ」
「何でしょうか?」
「友は大切にするのじゃよ
その為には時として自ら動く必要もある事を忘れずにな」
おばあちゃんは布巾をひらひらとさせて別れの挨拶とした。
DappleKilnでございます、いつもお世話になっています
本当にこの物語は急ですね
部長が死んだかと思えば、学校の制度で名誉卒業扱いになる
そしてこのおばあちゃんは一体何なのでしょうか?
態々こうして取り上げるのに何か作為的な……
なんでしょうね?
それでは引き続きよろしくお願いいたします




