Case 45-6
2021年1月11日 完成
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【TIMESTAMP_xxx ArrayIndexOutOfBoundsException】
「僕に何か用ですか?」
辻守晴斗に出会ったとき、最初に抱いた印象は『空元気』であった。
これはまだ八朝が2度目の記憶喪失をする前、まだ転生して間もない1月頃の回想である。
「いや、すまない」
「変な人ですね
これが転生者っていうのですね」
『え!? 何で分かったの!?』
「貴方ならステータス覗けば分かるんじゃないですか?」
この頃の辻守は異能部で、第二異能部とは敵対関係にあった。
だから顔は合わせこそはしても、こうして話し合う様な相手では無かったと振り返る。
それでも、やはり彼には『何か』が足りない気がした。
それを知るための術はこの時には持ち合わせていなかった。
奇妙なファーストコンタクトの後、異能部との衝突がある度に彼と何度も出くわした。
『Axylone!』
火属性電子魔術の究極たる火球が放たれる。
たった1発で八朝が四度も消し飛ぶ威力の爆発を必死に躱す。
「またコレですか……! 面倒くさい!!」
置き土産に残した霧も秒で雲散霧消させられる。
陰で罰則の痛苦に眩んでいる間、彼の苛立たしそうな声が何度も聞こえる。
「クソッ……!」
一体誰に向けられた悪態なのか……?
異能力に依らない『直感』でも、彼の欠けたものが分からなかった……
「貴方何度言えばわかるのですの!?
今の貴方では辻守にはどうあっても勝てませんわ!」
第二異能部の先輩である鳴下には毎日のように説教させられた。
ファーストコンタクトの時点でエリスが異能力の分析をこっそり完了してきた時以降こんな調子である。
具体的に言うと次の問題があった。
T.IGNIS
STR:3 MGI:5 DEX:3
BRK:1 CON:5 LUK:0
ここから読み取れるのは以下の三つとなる。
・火属性の強みである『再編』がLUK0により使用不可
・しかしCONとMGIが最大値で、『鑑定』による情報収集と『無消費発動』による継戦能力が突出
・八朝では自クリティカルを引いたとしても即死するダメージとなる
最早自殺行為である。
「そうは言ってもなぁ……」
「貴方、随分と辻守にご執心なのですね」
「……そうは言うが、アンタも辻守は変だと思うだろ」
その返しに鳴下が言葉を詰まらせる。
どうやら彼女にも辻守の苛立ちは伝わっているらしい。
「傍目から見てもアイツ何かおかしい気がするんだ……まるで何か足りないような……」
鳴下にこうして詰め寄られる度に決まってこう返した。
だからなのか、これ以上五月蠅い愚人の口を閉じたかったのかもしれないのか、鳴下が一枚の紙を寄こす。
「これは……?」
「辻守晴斗の身辺調査ですわ
これでも読んで無謀だと分かりましたのなら、潔く諦めて下さいまし」
だが、口調に対して報告書は嘘を吐いていた。
『事故により姉の朱音が死去』
『当初の異能力での依代は姉の人格を模した人影であった』
その部分がこれ見よがしに赤ペンで強調されていた。
ふと彼女の表情を見ても、頑なにこっちを向いてくれないせいで何も分からなかった。
「……らしいな
ま、俺も諦めるとしようか」
「それが良いですわ」
「……と、言い忘れていたが
『■■精肉店』の親父がアンタによろしく伝えてくれって」
まるで弾かれたかのようにこっちを向く鳴下。
「な……何を言ってますの!?
そ、そそそんなひと知りませんですわっ!」
「近所の人なんだがな……」
「近所なら尚更ですっ!
我が鳴下の威光に平伏しただけの余人との知り合いなんていませんでしてよ!」
こう言っているが、彼女は近所の人に愛されている人物であった。
挨拶を欠かさず、必要程度に頼り、さり気なく気配る理想的な隣人としてかの親父どころか商店街中で人気であった。
そのお陰なのか、彼女の元にはこうして情報が集まってくるのである。
彼女の信頼感を間借りしているようで気が引けるが、丁度昨日に当の『■■精肉店』の人が太陽喫茶に訪ねて来て
『ま、そういう訳だから
今後ともお嬢をよろしく頼むわ、八朝』
という事で、この報告書を無駄にするわけにはいかなくなった。
更に咲良から『タロットカード』を貰った事で異能力が完成する。
そしてもう何度目かも分からない彼との戦いに身を投じる。
だが、今回は事情が異なっていた……
異能部も流石に気づいたのか、策を巡らした後であった。
その甲斐もあって八朝は初めて不倶戴天の敵レベルの殺意を浴びる事となった。
「貴方が僕の姉まで……許さない!!」
戦いは熾烈を極めた。
辻守から炸裂する火属性電子魔術の雨あられ。
更には異能部がけしかけた数体の化物にも狙われ、初めて扱う『カバラ魔術』を一生分行使したような思いで抗った。
だが狙いは勝つのではなく、抑制されている依代の解放である。
『ふうちゃん!』
「ああ、やってやる!」
悪魔を抑える方法としては大抵魔法円と護符の組み合わせが用いられている。
そしてフラウロスと対応する星辰は金星と磨羯宮第1デーカンの支配星である木星。
それら二つを繋ぐ依代は幸いにも存在していた。
『汝と彼の袂を分かて、■■
我は今こそ祝福でなく呪いを為し、かの悪しき幹を伐採せしめん』
「させるか!!」
未だに霧のままで、火属性電子魔術確かな感触を感じた彼。
だが、次の瞬間驚愕することとなった。
『何だァ……騒がしいな晴斗!』
「ね……姉さん?」
痛苦のノイズで何も聞こえなくなる寸前に彼の泣き声を確かに聞いた。
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今でもこの時のことは、僕の中で大切な思い出のように輝いている。
あの時彼が気付いてくれなければ、そして皆が僕を助けようと思わなければ今の夢のような時間は無かった。
だが、夢のようなと少しでも思ってしまったのが全ての間違いであった。
『何をすべきか、分かっているでしょ?』
真っ暗闇の中で懐かしい声に催促される。
姉を助けたければ■■■に戻ってこい、と。
そんなの……答えは一つに決まっていた。
今、彼から与えられた星が元の■■■■に戻される。
澱のように重い魔力の感触をもう一度身に纏う。
『おかえり、■■』
『……』
何も言いたくはない。
照れ隠しに『数合わせ』と口にした彼女の真意が『あの記憶』で更に分からなくなった。
視線の奥に、ある物が見える。
……彼らの為にもあれを
『改めまして、よろしくお願いします』
【5月30日17時24分 抑川地区・太陽喫茶店内】
『今日ここに、我々十死の諸力は最終作戦を始動する
まずは未だに無能力に固執する榑宮の愚か者共に永遠の別れを』
『それは決して虚言ではない……
我々は『天神御守』を掌中にした、遠からず招聘してみせよう』
テレビに血のもう滴らない腐った生首が映る。
ツインテールの……そう、まるで部長によく似た表情の……
「……!!」
鳴下がトイレに駆け込む。
そして八朝を顔面蒼白となって頭を抱える。
(そうだ……もう一人辞めたのだと何故気付かなかったんだ……!)
そうして無防備となった第二異能部に下手人が侵入して、このようになった。
周りの皆の心配する声がもう遠くに感じる筈なのに、十死の諸力の頭と名乗る人物の宣言が忘れられない……
『ミチザネによる究極の選別を!!!』
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Chapter 45-b 復活 - Death Reincarnation
END
これにてCase45、第二異能部の終焉回を終了致します
天神御守とは一体何なのでしょうか?
それにまたもやアルキオネ級の脅威に晒される
しかも、八朝中心に『巻き戻す前』の記憶を取り戻した最悪のタイミングで……
これから一体どうなってしまうのでしょうか
前回のように暴動が野放図となってしまうか、或いは……
次回は『幽閉』
引き続き、当小説を楽しんでいただけたら幸いです




