Case 45-5
2021年1月10日 完成
2021年1月11日 誤字修正
部長、及び鹿室と別れた後、昇降口に全員が待っていた。
『一緒に帰る』、その言葉の真意を図りかねぬまま太陽喫茶まで到着してしまう……
【5月30日16時55分 抑川地区・太陽喫茶店内】
「そういう事がありましたのね」
「うん……
あの時の八朝君、少し格好良かったかも……」
合計3人からの視線を感じる。
何も言い返す言葉は無く、苦手な筈のコーヒーを口にする。
席には三刀坂と鳴下と天ヶ井姉妹、そしてエリスの5人。
丁度良くメモ書きに会った『最重要治療対象者』が揃い踏みとなった。
そして現在は『巻き戻す前』の5月4日……即ちミチザネ襲来事件の顛末まで進んでいる。
「……コレする必要はあるのか?」
八朝の苦言に、無言の圧が返される。
何故だかも何も、まるで不倫現場を押さえられた輩みたいに縮こまるしかない。
「そうですのね……
確かに彼なら拾った物でも問答無用で利用しますし」
「だよね! それが強さっていうか、したたかさっていうか……」
「でもそれのせいで『伝令の石』まで手を出す原因にもなりましてよ」
鳴下の指摘は正鵠を射ていた。
あの頃の八朝は依代の枠の数が半分以下どころか下手したら『カバラ魔術』すらも不完全であった。
間割……即ち退魔師達がいなければこの後の戦いには耐えられなかったであろう。
更に話は第二異能部再建、七殺のテロ行為、そして『石災』まで及ぶ。
そして話が終わった後、鳴下が改めて三刀坂に訊く。
「貴方……彼に今まで放っておかれて本当に悔しくはないですの?」
それを聞いた三刀坂と八朝の顔色が明らかに変わる。
それは彼にとっては今生の罪の象徴……だが彼女にとっては只目を閉じるだけの代物であった。
「悔しいどころか、寧ろ私から避けていたかな」
『えっ!? そうなの?』
「うん、だって八朝君は最後まで私を見捨てなかったし
『本物』と再会して『巻き戻ってしまった』あの時から誓っていたもの……」
「私が独り立ち……ちゃんと陸上部の部長ができるようになるまで頑張るって」
それは暗に今ではないと言っているのか、表情が少し翳っている。
それを見咎めた鳴下が眉を顰める。
「それじゃあ私が戴いても問題は無いと……」
「?
あげたつもりは一切無いよ」
瞬間、テラス席が凍り付く。
顔面蒼白となったのは八朝と何故か柚月もであった。
咲良と何か耳打ちしていたが、幸いにも八朝以外には気づかれなかった。
「と、兎も角
問題なのはやはり異能部の面々ですわね」
鳴下が仕切り直すようにある名前を2つ読み上げる。
一人は錫沢英丸に引っ付いていた『空中交差点』の七含人、そして丸前巧。
彼らの共通点に『謎の全属性メタの攻撃』を挙げて仮説を仕上げる。
「三刀坂さん……正直に言ってくださいまし
彼らも十死の諸力の一員ですわね……しかも貴方と同じく幹部の」
三刀坂はその言葉を冷や汗と共に受け入れる。
だが、自身の身の安全と僅かに残った組織への忠誠心からなのか肯定はしなかった。
「そいつらは違う」
「そいつらは、ですの?」
無言で首肯する。
実のところ八朝もその可能性には気づいていた。
「異能部部長がそうだろ?」
「え!?」
「丸前が『渦動斬』を部長から貰ったと言っていたからな」
反応からしてそれが正しい事を意味していた。
即ち、この瞬間に異能部と十死の諸力が関係している確信を得る。
「……はぁ
こうだと思って鹿室を巻き込んで良かったよ」
「へ!? いつの間にですの!?」
取り敢えず彼女らに連行される数分前の顛末を話す。
驚き半分呆れ半分で聞いていた鳴下が最後に溜息を吐く。
「貴方にしては良い機転ですが……
その鹿室って人も本当に信用に足る存在なのですか?」
それは八朝の中でも疑問符であった。
『巻き戻す前』では終始スタンドプレーが目立っており、今回も突然考えを変える可能性がある。
それに八朝の周りには謎の人物が多過ぎるのである。
「……少なくとも、『創造神』を魔王呼ばわりしていた
その点だけにおいては鹿室は曲げない」
「分かりました、しかし警戒はしておきましょう」
鳴下がそう言ってこの話を締めくくる。
次なる問題として槍玉が上がったのは辞めたと証言した3人……即ち三刀坂兄妹と七殺。
「本当に貴方達は害を及ぼさないと誓えますか……特に貴方ですけど」
三刀坂が鳴下の冷たい視線に晒される。
既に騙し目的の返答をしてしまった三刀坂は返答に窮してしまう。
「それを言うなら俺だって弘治の事を最後まで隠していたぞ」
「貴方には関係ない話です」
「そういう訳にはいかない
三刀坂の頑張りを無視して俺だけ贔屓するのは不公平だろ」
鳴下が俯いて何かを言っている。
もう一度聞こうとして、やけくそな大声に視界が眩む事になった。
「だって……あなたの事が心配ですのよ!!
毎日毎日トラブルばっかり持ち込んで、命が幾つあっても足りないって何度も……!」
最後まで言おうとして正気に戻ったのか鳴下が顔を伏せる。
何かを悟ったのか三刀坂がその背中を撫でている。
視線を八朝に突き刺したままそうしていた。
「八朝君……
次は皆に相談してからにしてね」
「……善処する」
それは先の『第三層の0つ目級』の事を指していた。
この事態に陥る前に杣根部長の焦りに気付いていれば今回みたいな窮地には陥らなかったであろう。
「七殺なら……大丈夫……だよ」
「どうしてかな?」
「だって……だって、ふうちゃんに……助けてもらった、から
私……だたら、もうふうちゃんの、嫌な事してまで、したいことが思いつかない……から……」
一応別世界の柚月である七殺についてこのように証言を得る。
これについては三刀坂も納得していた。
「それは隣に住んでいる私からも保証いたします」
「……鳴下さんって意外に心配性なんだね」
「な、なんですの突然!?」
「ううん、だったら私も信じるだけだし」
その言葉に柚月がホッとした様に顔を綻ばせる。
さらに柚月を膝にのせていた咲良が彼女に凭れ掛かる。
「それよか何故アンタが?」
「ん……ひまつぶしだからねー」
身も蓋も無い返答に八朝が溜息を吐いた。
次でCase45が終了します




