Case 45-4
2020年1月9日 完成
鳴下が部長に退部届を突き付ける。
全員が帰る中八朝だけが残り、部長と二人っきりとなる……
【5月30日16時55分 篠鶴学園・地底探検部部室】
部長が八朝の真意を悟ると、先程の棚を漁りだす。
机の上に置かれたのは先程の鳴下の分と、もう一つ。
「……全滅だな」
「そうね……
私も色々と裏から手を回して頑張ったのに、貴方までも……」
悲痛な表情であるが、関係性というのは殊この世界においては重要視されている。
篠鶴機関と繋がる異能部は半ば学園公式の組織と扱われ、十死の諸力関連と聞けば、例え昨日の友でも怨敵と化す。
故に自分も身を守るために刃を振り下ろすしかない。
「……部長の死後、俺がこの部の部長になった」
「そう……だからなのね」
たった一言で『報告書改竄』の事を悟った部長が顔を俯かせる。
今でも何を隠蔽したのか皆目見当がつかない……ましてやこの状態の部長からは何も得ることはできない。
「貴方もちゃんと強くなっているのに、酷な事を言ってしまったわね」
珍しく部長が自嘲気味な口調となる。
心当たりが多過ぎて寧ろ何なのか分からない部長の呟きに心が痛む。
「そうでもない……俺は今でも相変わらず一人で化物が倒せないまま何も成長していない」
「そうかしら?
ここの部長って案外忙しいのよ……弱い人になんか一切任せられないぐらいに」
その言葉が八朝の心に突き刺さる。
自分がもっと強ければ鹿室も曲橋も……
その表情を見た部長が溜息と共に力なく笑う。
「……やっぱり貴方には任せられないわね
早く鳴下さんの所に行きなさいな」
「その前に一つ
俺は部長を信じてはいないが、だからといって第二異能部を辞める気は無い」
そう言って振り向きもせず八朝が部室から出る。
それと同時に回復したエリスが胸ポケットから出て来る。
『今のってどういうこと?』
「今のって何だ?」
『だから第二異能部を辞めないって事……』
そう言われて少し考えこむ。
考えなしに言った言葉の筈なのに、後追いのように思い出す。
三刀坂が十死の諸力だと初めて知ったあの時、宇山の言葉が無ければ……
「……重要な情報源を手放す訳にはいかないだろ?」
『うーん……そうかなぁ?』
アテが外れたのか釈然としない様子のエリスであった。
鳴下達を探しに一旦昇降口へと向かう道中、見覚えのある声に呼び止められる。
「八朝くん!」
『鹿室くん!?』
エリスが驚くのも無理はない。
今日は土曜日の、しかも下校時刻寸前……帰宅部の鹿室が居る意味は一切無い。
「何か用か?」
「丁度良かった、ある人物を探しているんです」
鹿室が徐に取り出したのは1枚の紙。
鹿室は絵の才能もあるのか随分と写実的な人相画が視界に飛び込んでくる。
「この顔に見覚えありますよね?」
「……」
(……何だこの顔は
こんな表情の鹿室は見た事が……)
作り物の羽根と光輪に柔和な少年の顔。
服は質素を超えて貧乏そうな貫頭衣を纏い、周囲に数個のホログラムが囲っている。
これは……『創造神』である。
「どうする気だ?」
「貴方には関係ありません……それよりも居場所を」
非常に強引な様子の鹿室である。
脳裏に過るのは彼の『頭だけにされた』末路であった。
このまま行かせるのは不味い……だが下手な嘘を教えても根本的な解決にならない。
「……地底探検部が見つけた地下迷宮は知ってるか?」
「ええ、噂には聞いています」
「俺の記憶ではあそこの最深部に居た」
これは非常に汚い手段である。
異能部……もとい十死の諸力が地下迷宮に行く前に、鹿室の憎悪を利用して先にクリアする。
依頼が不調に終わった今、彼以外にストッパーは存在しない。
「だが俺の言う事は聞いてもらう
そうでなければ道は教えない!」
一応彼も蘇った『巻き戻す前』の記憶から、万全の状態でないと勝てないと悟っている筈。
それを期待して八朝が賭けに出る。
その結果は、長い溜息と共に返される。
「いいでしょう、それで?」
「今日の所はいったん引いてくれ」
「そんな……でも……!」
「奴はスキャン結果から『何か』が起きない限り地下迷宮から出られない
今のところは襲われる心配はないはずだ……だから今日は引いてくれ」
一応、エリスに出してもらったスキャン画面も見せる。
それで事態を察したのか鹿室が首肯で返してくれた。
これで何とか当面の悲劇は脱することは出来た。
『ふうちゃん……』
今はエリスの非難を受け付ける事は出来ない。
そういって難しい顔をしていたのが鹿室に伝わってしまったらしい。
「大丈夫ですよ、やっぱりあの時八朝君が部長をしてくれて助かりました」
「何だよ藪から棒に」
「今度は勝手にいなくならないでくださいね」
「……約束する」
鹿室とここで別れ、昇降口へと向かう。
そこには鳴下達が待ってくれていた。
「一緒に帰りますわよ」
一瞬何を言われたのか理解することが出来なかった。
続きます




