Case 45-3
2021年1月8日 完成
当初の宣言通りに救出に成功した八朝。
だが、地底探検部は掌藤千早を除いて残っておらず……
【5月30日16時41分 篠鶴学園・地底探検部部室】
八朝達が満身創痍で部室まで戻って来る。
だが、辰之中を解除しても部室内は静寂に包まれたまま……
「あれ?
部員たちが待っているんじゃないの?」
「……三刀坂、会ってないのか?」
「見つかると面倒臭そうだから前に使った隠し通路から入ったから」
何気に第一層の化物の際に見失った種明かしをしてもらう。
すると部室のドアから誰か一人が戻って来る。
「あれ……?
も、戻ってこれたんですか!?」
「まぁ、色々助けてもらってな」
掌藤千早が感極まったのか涙を流して喜ぶ。
だが次の瞬間、恐怖の表情へと変わる。
「どどうしたんですの?」
「あ、えっと……大丈夫……です」
明らかに大丈夫じゃなさそうな反応に鳴下と八朝が顔を見合わせる。
鳴下も一時的に立ち直って会話が可能であるが、何やら様子がおかしい。
「千早さん、ご一緒に第二異能部まで如何かしら?」
「お、おい……報告は明日にでも」
「うん」
如何なる形なのか、千早が同行する事となった。
道中で千早は鳴下と柚月で楽しく話し込んでいる。
その短い道中で彼女の取った奇妙な振る舞いを整理すると以下の通りとなる。
・事あるごとに辰之中を起動する
・端末の画面を注視する時間が多い
・明らかに三刀坂を怖がっている
(……エリス、千早が見ている画面が何かわかるか?)
(うん……
ずっと『八丈沖海戦』の速報画面見てる)
これで彼女も『巻き戻す前』の記憶を取り戻した事の確認を取ることが出来た。
だが、三刀坂……ひいては十死の諸力を怖がる理由が分からない。
三刀坂の事件も、七殺も天使の石も彼女の死後に起きているからだ。
(それとふうちゃん、ありがと)
(いきなりどうしたんだ?)
(前に箱家君と戦った理由も私の為だったんだね……)
(……思い出してしまったんだな)
エリスは何も返さなかったが、肯定の意だと悟る。
この調子で急速に『巻き戻す前』を思い出す人間達が増え始めている。
それはエリスみたいに『可哀想な』事もあれば、三刀坂のように『不都合な』事情もある。
(……大丈夫か三刀坂)
(!?
……大丈夫だよ、これもキミのお陰かな?)
三刀坂がはにかみ笑顔を見せてくれる。
嬉しいような寂しいような感傷を覚えていると第二異能部の部室に着く。
……千早の『確認』さえなければ1分とも掛からない道中が、このように全て完了するレベルで遅延していた。
【5月30日17時00分 篠鶴学園・第二異能部部室】
部長には逐一伝わっていたのか、報告は数分も掛からず終了した。
残存する問題である『第四層』『第五層』そして『アトラスの塔の妖魔』がホワイトボードに張り付けられる。
「一先ずはお疲れ様
それと掌藤さん、他の部員からは何か言われてませんでした?」
「あ……その、今日を以て地底探検部を解散するって」
「あら、そうなのね……
分かりましたわ、約款通り守秘義務は継続させていただきますわ」
「助かります」
三刀坂が一連のやり取りに絶句している。
部活というものが化物を倒せない弱小異能力者達のセーフティーネットだと思っている彼女にとって信じがたいほどに淡々とした解散の顛末であったからだ。
「それと部長
いえ……里塚さん、一ついいかしら?」
「何でしょう?」
部長の声のトーンが明らかに低くなる。
全員が只事でないことを察して固唾を見守る。
「あの時……ミチザネがやってきた時に私達を戦わせたのはどういう事かしら?」
それはどう考えても『巻き戻す前』の事を指していた。
驚く八朝は、全員の顔を見て更に驚愕することになる。
誰一人として、身に覚えのない人がそうするような呆けた様子が無い。
「あら、何の事かしら?
ミチザネでしたらまだ八丈島沖……」
「ふざけないでください
覚えていますわよ……速報から1分も経たないうちに『アイリス』なる者から退治依頼が来たのですから」
「貴方……『誰と』繋がっているのですの?」
八朝すら知り得ない事情から疑惑の目を部長に向ける。
だが、部長はいつも通りに興味なさげに書類へと視線を向ける。
「貴方達が知る必要はありません」
「そうですか……
でしたら私は今日限り第二異能部を退部させていただきます」
いつの間に用意したのか懐から退部届を出して部長に投げつける。
部長は退部届をいつも通りの所作で棚に仕舞う。
「お、おい……そこまでする必要は」
「ありますわ
里塚さんのせいで私犬死させられたので……」
唐突に鳴下の眦から血が垂れ始め、遅れてやってきた痛覚に片眼を抑える。
何事かと部長の方を向くと依代をこちらに向けている。
「貴方、喧嘩を売っているのかしら?」
それは誰一人として見た事のない部長の凶悪な笑みであった。
それに怖気づいたのか鳴下が他のみんなを促して部室から去る。
八朝はそれを拒否したので、部室には部長と八朝の二人となる。
依代を収めた部長はいつも通りの無表情へと戻る。
「貴方、最初から全部知ってて私を拒絶したのね」
それは部長と一時的に決別したあの時の事。
全てを知っていた、というのはこの顛末に最も必要な『巻き戻す前』の記憶であった。
「まぁ、そうなるな」
続きます




