Case 44-5
2020年1月4日 完成
杣根部長からの妨害はあったが、最悪の事態は回避できた。
全員を逃がして単身『冤罪/蟲毒の呪い』に挑む……
【TIMESTAMP_ERROR 不明・道敷井泉付近?】
『■■!』
八朝が2、3の囮を放って頭のない人影達の注意を逸らす。
狙いはただ一つ……この洞窟のどこかにある井戸の蓋を壊す。
そうすれば顔のない人影(第三層の化物)の弱体化ができるかと言えば、その逆の現象が起きる。
通称『道敷井泉』と呼ばれ、蓋の開閉具合でその年の実りが分かるという聖所である。
即ち、道敷井泉の蓋を壊すと化物が最も強くなる。
だが、その知識を八朝の記憶が否定する。
(……俺は、あの蓋を壊して島を殺した
細かくは覚えていないが、確かそうした筈……)
忌まわしい島の記憶の奥底に、断片のように当時の自分の思いが残っている。
大半は今の自分がやりそうにない荒唐無稽な事ばかりで殆どすぐに忘れてしまう。
だが、最近は『島に対する憎悪』が蘇ってきている。
その中に度々道敷井泉の名前が出てくるのである。
そして、記憶通りの崩壊寸前な井戸を見つけ出す。
隣に置かれていた木の棒で蓋を何度も叩き、破片を全て井戸の底に脱落させる。
その破壊音を聞きつけたのか、直ぐに顔のない人影の大群がやってくる。
(足音が大きい……やはり強化されている)
入口に何人かが現れる。
そしてただの壁でしかない六方向から穴があけられ、そこからも顔のない人々の大群が来る。
『鬥ャ鮖ソ繧』
『莨雁シ牙?縺ョ闢九?謌代i繧堤ク帙▲縺ヲ縺?◆』
『逶ョ隲悶∩縺ョ螟悶l縺滄。斐′隕九∴繧』
『譛帙∩騾壹j』
『この島の礎となれ』
八朝は灯杖を構える。
ここからが正念場となる。
仲間も、エリスも、死体漁りも無い状態でこの大群から逃げ切る。
無論、八朝ではどうあっても顔のない人にダメージを与えられない。
しかも相手は道敷井泉の蓋が全開放した事で最も強くなっている。
『我より袂を分かち、果ての天球へ遡れ■■!』
相手が八朝を侮ってくれたお陰で、カバラ魔術を悠々と発動できた。
調停ー基礎の小径である『幻惑』の節制、更に基礎ー勝利へと遡るは星……
即ち元々の入り口の奥に潜んでいた偽八朝が花火筒へと変じ、気絶の花火を放つ。
『!?』
入口を所狭しと詰めていた顔のない人影達が、花火の光を浴びて卒倒する。
将棋倒しになった化物を踏みつけにして八朝が只管入口へと逃げていく。
(……ッ!
やっぱりアイツ等掘ってやがる!)
四方八方から土の崩れる音がする。
本来であれば洞窟の構造を知っている八朝の方が有利な筈なのに、通路を無視して追われれば意味が無い。
しかも所々で掘った衝撃による落盤が相次いでいる。
(閉じ込める気か……だが)
それでも勝てる。
八朝は確信を持って、落ち着いて次なる出口の経路を模索する。
第一案:落盤
第二案:出口寸前で地面が崩壊
第三案:待ち伏せ、不適
第四案:落盤
第五案:落盤
第六案:崩落トラップ有、不適
第七案:水没
(駄目だ……逃げ切れない!
それよりも時間が、どうなっているのか分からないのがキツイ!)
今は顔のない人影が新たに掘り進めた通路を使って迂回を試す。
アレの勢力圏内なのか、何度か数人単位の顔のない人影と遭遇する。
『■■!』
物陰より気絶の花火を放ち、無力化する。
1つはエリスの杖に使い、3つは幻惑で(1つは花火筒に転用、それ以外は破壊済み)、そして主装備の灯杖と、先程の花火筒。
残り2枠……
浮かび上がる脂汗も心なしか粘度が高くて気持ち悪い。
そして最悪な事に5人組の顔のない人影に遭遇してしまう。
『縺?◆縺』
『遏ウ繧呈兜縺偵▽縺代m』
『谿コ縺帷官縺帶スー縺』
人影達が、足元に転がっている石を手にして投げつける。
化物には無傷な投石も、人間相手には速度通りの破壊力となる。
即ち、散弾銃の如き速度で八朝を打ち据えようとする。
「……ッ!!」
灯杖の『相殺』で威力を削ぐことに成功した。
だが、散弾銃が只の投石になっただけで、打ち所の悪い石が八朝の骨を折る。
「!!!」
骨折の激痛と、罰則の苦痛が共鳴する。
意識を手放したくなるぐらいの痛みの余韻が、未だに視界をかき乱す。
骨折は依代が引き受けて治ってくれたが、痛覚によるデバフは自然現象なので抗いようが無い。
『殺せ』
人影の足音が、まるで死を思わせるように重い。
視界が正常に戻る頃には、恐らく四肢が砕け散っているだろうか。
だから、ようやく見えた人影の姿が花火筒を受けた時のように倒れ伏しているなんて誰が思ったか。
「ようやく……効いたか」
この島の豊穣が神によるものだとしても、その神が無限の力を持っているとは限らない。
俺の■■は■■しか入れぬ道敷井泉の洞窟に入り、その蓋を壊して豊穣の力を無駄遣いさせる。
そう、このようにして島を■した。
力なく倒れている人影を尻目に洞窟の出口を目指す。
やがて、外の光が洞窟の壁から齎される。
「……おいおい嘘だろ」
出口には今までと比べても数倍の体躯の人影が居た。
恐らくは力の衰弱を感じて、その場の全員と合体して無力化を免れたのだろう。
『縺薙?蠢後∪繧上@縺咲オよ忰縺ョ蟾ォ螂ウ縺
謌醍ュ峨?闍ヲ逞帙↓隧ォ縺ウ縺ェ縺後i豁サ縺ャ縺後h縺』
言葉は分からないが、気持ちは理解できた。
思い出した俺の■■に引き摺られて、彼らの憎悪をひしひしと感じる。
「やれるものならやってみやがれ……!」
依代すら出せない虚勢で巨大人影と立ち向かう。
自壊する程強く握られた拳が振るわれ、地面ごと八朝を粉砕しようとする。
『Isfjt!!!』
その場にあり得ない固有名の叫びが割って入る。
瞬間、巨大人影の巨体が超重力に囚われ、足を砕き胴体が地面にめり込み頭から倒れ伏す。
まるで血だまりのように罅と巨大人影の砕け散った死体が散らばる。
「八朝君!!」
八朝は呆然とする暇も無く三刀坂に手を引かれる。
その後ろで地面や空がまるで縮んだかのように撓んでいく……
「縁ちゃんから聞いた時は冗談だと思ってたけど、どこまで無鉄砲なのよ!!」
「……すまん」
「謝るなら生きて帰ってからにして!!」
只管にこの鷹狗ヶ島のあり得ざる入口に向かって走っていく。
その間も縮んでいく世界のせいで、あらゆる地形が拉げて崩れていく。
それを躱しながらようやく出口が見えて来る。
だが、出口は特に濃い漆黒の蓋に覆われていた。
「そんな……」
三刀坂は目の前の絶望から目を逸らすように振り向く。
後方から万物を圧迫する歪曲が迫っている。
『Isf……』
「駄目だ! 次に使ったら戻ってこれなくなるぞ!!」
「でも……ッ!」
それでも銃剣に銃弾を込めようとした時……
『むつにひき つくよみ やつのひるめ おつ』
『辛奇・伏吟相剋!!』
漆黒の壁が吹き飛ばされる。
「八朝さん達、早く!!」
今度は三刀坂を引っ張って出口に飛び込む。
その数秒後に鷹狗ヶ島を構成していた第三層の0つ目級が一点に収束し、大音響とともに崩壊する。
そして、パラパラと血のようにアルキオネの鱗を零し続けた……
これにてCase44、第三層の化物(後)を終了いたします
実は神出来と再会した所でフラグは成立しました
今回は生き残ってくれたようで何よりです
そして彼の故郷は様々な謎を残したまま崩れ去っていく……
この寂寥にどう立ち向かっていくのでしょうか?
次回は『呪詛の妖魔』
それでは引き続き楽しんでいただけたら幸いです




