Case 44-3
2020年1月2日 完成
図書館にて用賀と遭遇する。
彼の両親が残した研究成果とその考察……いずれも無視できないほど重要な示唆となった……
【5月30日12時30分 篠鶴学園・図書館受付】
「大変申し訳ありません
お探しの『タウンウォーク■■■号』は見つかりませんでした」
それを聞いた八朝が挨拶一つで捜索を中断する。
実は受付に聞く前からこの結果は想定できていた。
『ふうちゃん……本当にその本で間違いないんだよね?』
『ああ、錫沢の本棚にあった本だからな……間違いない』
『ごめん、■■■号だけ見つからないんだけど……』
余りにも荒唐無稽な報告で当初は面食らったが、今しがたの受付の反応を見て真実であると悟る。
さて、どうしたものかと考えていると先程の受付の人がやって来る。
「……お客様、文献にも見つからない情報をお探しのようですね」
「まぁ、そうなるな」
「でしたら私にお任せください
関連文献から近似の情報を見つけ出しますが、如何でしょうか?」
「そんな仕事までやってるのか?」
「貴方は図書館の常連ですので特別に、です」
という事で、恐らくは調べ物のプロであろう当人に事情……篠鶴七不思議の初出の記事について頼んでみる。
およそ1時間程度で放送で呼び出され、結果を言い渡される。
「結論から言いますと、神出来雄二というフリージャーナリストの記事が初出でありました
また、貴方の推測通り第六の篠鶴七不思議が『神隠し症候群』でありました」
「神出来……!?」
およそ篠鶴市でも珍しい神出来の名前に、つい彼女の事を思い出す。
そんな八朝の反応を見て見ぬふりして、受付の人がさらに続ける。
「……ここだけの話ですが、この記事の載っている■■■号……つまり先程貴方が探した所だけ無いんですね
ただ、やっぱりこれらの情報も別の書籍からの引用からなので、あくまで参考程度に留めておいてください」
それについても何となく心当たりに行きつく……錫沢英丸関連が怪しい。
七不思議を掌握するために行った工作と考えれば、ある程度は説明がつく。
「ありがとうございます」
「いえ、今後ともよろしくお願い致します」
図書館から出て、想像以上の難易度に頭を抱える。
神出来も三刀坂関連で接点は4月の事件以外は皆無。
あの事件すらも半分喧嘩別れなので協力してくれるかどうかも怪しい。
……だが、ここで屈せば鳴下も柚月も危ない。
『ふうちゃん……神出来さんだと……』
「いや、やっぱり連絡してく……」
『八朝先輩?』
【5月30日13時40分 篠鶴学園・食堂棟】
何が何だか分からないまま神出来と昼食を共にしていた。
曰く『お久しぶり』と『巻き戻す前』を知っているような反応を返された後、こっちに連れて来られた。
「ところで、図書館のあの人なんだけど私の兄なのよ」
「は?」
「だから知ってるわよ
聞いたんでしょ、七不思議の第六」
そして神出来が七不思議の第六が変わった経緯を話し始める。
元々の第六である『神隠し症候群』は、掲載寸前に錫沢英丸からクレームが入り現在の『篠鶴地下遺跡群』へと差し替えられた。
そして父はこの『神隠し症候群』こそが最大の後悔にして謎だと子供たちに語っていたという。
(……成程、あの1時間は調べものではなく連絡だったのか)
先程の1時間は妙に段取りが良かったものだと思い返す。
目の前の神出来と目が合うと、溜息を吐かれてしまう。
「先輩……
その顔は覚えているわね、『月の館』の地下」
この反応で神出来も『巻き戻す前』の記憶保持者である事が確定する。
「そういえばさ、どうして縁ちゃんと会わなかったの?」
恐らく彼女の言いたい事はこのままの意味ではない。
少し考えこんで、八朝が口を開く。
「地下迷宮第一層の0つ目級が俺たち以外の誰かに倒された」
「それが何なのよ」
「エリスに残存魔力を調べてもらったら、属性が闇だった」
あの『舞踏の呪い』を倒したのは、三刀坂であると暗に告げる。
それでも神出来は表情を崩さない。
「彼女の行動は俺たちに姿を見せない点で徹底していた
そこには何か理由があるのだろう……だからそれ以降は会わないことにした」
神出来が俯き、一気に表情が分からなくなる。
だからなのか、これ以降は声が明瞭でなくなっていく。
「……の?」
「何だ、上手く聞こえなかったが」
「それじゃあ私が縁ちゃんを貰ってもいいって事だよね?」
神出来にしては随分と余裕のない物言いであった。
いつもの調子の八朝なら首肯していたが、彼女の本気に気圧されてしまう。
「……それは三刀坂が決める事だ」
「だったら……!」
「だが今は会えない
阿呆二人のせいで、大切な人達が危険に晒されている」
自分の欲望の為に、他人の厚意を使い潰そうとする杣根部長。
そして肝心な時に勇気を出せず、全員の扱いを宙に浮かせたまま甘え続ける八朝。
だから、もう一度意を決して席を立つ。
「今日は助かった……これで俺はあいつらを救い出せる」
彼女の分の昼食代も置いてその場から後にする。
真実としては『知識を得ても力不足で危うい』状況なのだが、なりふり構う暇は無い。
『強くなりなさい、理想を守るためにも』
あの時の部長の忠告が、今になって真実味を帯び始める。
「エリス」
『任せて!
さっさとゆーちゃんとバトンタッチしちゃおうね!』
続きます




