Case 43-5
2020年12月29日 完成
神隠し症候群扱いにされ、篠鶴市中を逃げ回る鳴下
遂に囲まれたその時鳴下を救いの手が引いて来た……
【蠎壼ュ仙ケエ霎帛キウ譛亥キア蟾ウ譌・ 遽?鮓エ蝨ー荳矩⊆霍。鄒、 / 蜊∵ュサ縺ョ隲ク蜉帙い繧ク繝郁キ。】
「ここは……?」
「わたしの……隠れ家
……あんまり、見つからないから」
暗所に慣れた目がようやく恩人の姿を映し始める。
驚くべきことに、2回り以上も低く小学生にも見えなくもない少女であった。
「あ……わたしは天ヶ井柚月
えっと、あなたは確か……鳴下……雅さん?」
「そうですわ
あれ……? 天ヶ井柚月さん……?」
つい最近聞いた名前で虚を突かれる鳴下。
冷蔵庫からお茶を出してもらい、ようやく一息が付けた。
「それにしても、この世界は何ですの?」
「世界……?」
「……すみません、何でもありませんわ」
イレギュラーである鳴下がこの世界の人々と協力できる確率は皆無である。
なので、柚月も外の世界の人間だと思っていたが、今しがたの反応でアテが外れていた事に気付く。
「……わたしもよく分かんない
寝るといつもこの調子だから、今までは寝ない様にしてたけど……」
「寝ない様に……ですの?」
気になる言葉に詮索したくなる気持ちが湧く。
だが、柚月の表情に怯えの色があり、慎重になる。
「後遺症で、ですの?」
こくりと頷く。
どうやら正解らしい・……そうするとこの世界のアウトラインが何となく判明する。
「成程、ここは夢の中ですわね」
「うん
……でも、あなたが現れたから……違うと、思う」
曰くここの住人は姿形が現実のものと同一でも記憶が異なっているらしく、しかも日ごとに内容まで変わる。
そんな不条理が許されるのは夢の中ぐらいだろうと思っていたが、外の人間が来たことで否定された。
「どうやって……来たの……?」
「そうですわね……」
柚月にこれまでの経緯を簡潔に話す。
終始驚いた顔をしているのが奇妙であった。
「……そこまで驚く事ですの?」
「ひっ……
え、えっと……その……」
「別に怒っていませんわ、何か気になる点がありますの?」
「そ、その……人力で、『アトラスの塔』の……第2層まで、行けたんだ……って」
曰く、自分たちが挑んでいた地下迷宮の正式名称は『アトラスの塔』。
『銀狐金鼬』の目を免れた『最後の妖魔』が隠れ家らしく、5層の『守人』が守っているという。
「それじゃあここって……第三層の……」
「そうですわね
……私の記憶が正しければ、ですが」
鳴下がこの世界で受けた度重なる苦痛を前に弱音を零す。
何故か、柚月が慌て始める。
「え、えと……そんなこと、ないです!」
「あら、そうですの?
私にはどう考えても……」
「さっきの『狭息』……わたしがどれだけ動いてもバレなかった
そこまで練り上げられたあなたの努力を、嘘だって思いたくない……」
そう言って柚月がふるふると震え始める。
余りの必死さに笑いが堪えられなくなってしまう。
「……ありがとうございますわ
そう言ってくれたのは貴方で2人目です」
「2人目……もしかして、最初はふうちゃん?」
「ふう……ちゃん?
ああ、確かに八朝さんが最初ですわね」
「そうなんだ……」
柚月が始めた見せた柔らかい笑みにこちらも気が和んでくる。
「貴方も訳アリですわね……」
「ふぇっ!?
そ、そんなことは……」
「全くあの男は三刀坂さんと言い……」
『か!
聞こえるか鳴下!?』
突然聞こえた来た八朝の声に飛び起きるように反応する。
柚月が『どうぞ』と言わんばかりに待ってくれている。
だが、どれだけ呼び掛けても声の主に届いてくれなかった。
『……仕■■■い
そいつの正体は『■罪の呪』、或いは巫蟲だ!』
「巫蟲ですって?」
三刀坂は鳴下家の教養で巫蟲の正体を知っている。
一般的には『蟲毒』と知られる呪法で、一つの壺の中で多数の動物を押し込み争わせるものである。
『幸いにもアンタは■■が使える!
だから後は何とかして術の中心を……』
それ以上は何度試しても聞こえない。
やがて決意を固めて鳴下が立ち上がる。
「この呪術の中心を探してきます」
「ちょっと待って
わたしに……任せて」
柚月も立ち上がると、杖を地面に突き刺す。
『勅令 楓天棗地 六庚見相』
まるで神懸かりのそれのように表情を無にして杖の周囲を見つめる。
おばあ様ですら不可能な術式の精緻な気配に鳴下が圧倒される。
やがて何かを見つけたのか、いつも通りの自信の無い表情へと戻る。
「……『アトラスの塔・第三層』」
こうして柚月に導かれるまま地下空間を疾走する。
目まぐるしく変わる風景の中で、ふと見覚えのある通路が目に飛び込む。
「天ヶ井さん!」
「大丈夫……私も『壁』は通れる!」
異能力者を焼き滅ぼす赤い壁を無傷で突破し、第一層の広間を突破する。
それからの迷路は初見だったらしく、鳴下の案内に従って進む。
第二層広間を抜けてから雰囲気が様変わりする。
「な……巨大な……芋虫!?」
『Ifebeim!』
柚月が杖を振るい、芋虫の化物を両断しようとする。
だが途中で刃が溶けたのか赤熱の雫が辺りに飛び散る。
「……ッ!
あいつ、属性を騙してくる」
それは鳴下の『竜眼』でも確認していた。
あの芋虫を濃密に覆う生命力……即ち木行に対して有効な金行を放ったはずなのに防がれる。
それなら……!
『むつにひき つくよみ やつのひるめ おつ』
「それって……!?」
柚月が驚く暇もなく、清冽な音が芋虫に充満していた木気を祓う。
一瞬で切り替えた柚月の一撃によって芋虫が両断される。
だが、その連携を嘲笑うかのように通路を埋め尽くすほどの芋虫が立ち塞がる……
次でCase43が終了します




