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Case 43-2

2020年12月26日 完成&場面修正


 七殺(ザミディムラ)に再会するが市新野(いちしの)の処遇を巡って再び対峙する。

 その決着は後遺症(レフト)を克服したであろう鳴下(なりもと)の一撃だった……




【5月25日18時00分 磯始地区・鳴下(なりもと)のアパート】




 その後は、一言でいえば『ご都合主義』とも言える不思議な展開であった。


 まず、改めて服を着替えた鳴下(なりもと)は、十死の諸力フォーティーンフォーセズと知りながらも七殺(ザミディムラ)を通報せず担ぐ。


鳴下(なりもと)さん……その人は……」

「分かっています

 でも、彼女からは何も聞いていませんわ」


 市新野(いちしの)の心配を他所に鳴下(なりもと)はそのまま七殺(ザミディムラ)を持ち帰る。

 ついでに八朝(やとも)神経毒(ギフト)によって同じく鳴下(なりもと)の家まで歩かされた。


唐砂(からさ)!」

「はい、お帰りなさいませお嬢様」

「この二人を介抱なさってくださいまし」

「承知しました」


 そのまま応接に使っているであろう一室に寝かされる。

 途中で八朝(やとも)には意識があると聞かされた鳴下(なりもと)に頬を抓られるハプニングもあった。


 そして身体がマトモに動くようになったのはあの事件から数時間後であった。


「……」

「おはようございます、八朝(やとも)さん

 まず初めに、お嬢様を守って下さりありがとうございました」

「そうか……」


 視線はそのまま隣で寝かされている七殺(ザミディムラ)の方へと向く。

 本当に元十死の諸力フォーティーンフォーセズとは思いたくない程の健やかな寝顔であった。


「彼女については八朝(やとも)さんがお詳しいのでしょう」

「まぁ、そうなるな。 だが……」

「私めからは何も言いません

 お嬢様の判断に従います故……」


 唐砂(からさ)はそう言って部屋から出る。

 入れ違いに鳴下(なりもと)が入って来る。


「あら、丁度良いですわ

 ……彼女の事も『巻き戻す前』の世界関係ですわね?」

「……そうだな」

「話して頂けますか?」


 そうして鳴下(なりもと)に『巻き戻す前』の最後のピースとなる十死の諸力フォーティーンフォーセズ関連の話を始める。

 七殺(ザミディムラ)が『巻き戻す前』でしでかした大事件、それを回避するための八朝(やとも)の努力、そして弘治の事も話し終える。


 正真正銘のネタ切れとなるまで語り尽くす。


「そうですの

 それで、()の彼女は十死の諸力フォーティーンフォーセズではなく、化物(ナイト)に転生した別世界の天ヶ井柚月(あまがいゆづき)さんなのですか」


 改めて聞くと、自分なら『作り話』だと一蹴しかねないほどに荒唐無稽な話であった。

 だが、鳴下(なりもと)の反応はそれをさらに上回るものとなった。


「信じますわ」

「は?」

「だから、信じると言いますわ!

 彼女が真に十死の諸力フォーティーンフォーセズじゃない事をです」

「だが……」

「くどいですわ

 大体、貴方は今まで彼女に満足な衣食住を与えられませんでしたでしょう?」


 耳の痛い話だが、柚月(ほんもの)が居る八朝(やとも)の所にはおいそれと案内することはできない。


「なので、彼女の身柄は私が預かる事にします……唐砂(からさ)!」

「はいお嬢様

 既に大家殿には話を通しています……101号室でよろしいでしょうか?」

「本当なら私の隣部屋としたかったですが、角部屋に固執した私の失態とします」

「とんでもありません、お嬢様」


 トントン拍子で七殺(ザミディムラ)の生活環境が構築されてしまった。

 呆然とする八朝(やとも)に、鳴下(なりもと)が再び声を掛ける。


「これは貴方の為ではありませんですわ

 なので、十死の諸力フォーティーンフォーセズ柚月(ほんもの)との決着は引き続き貴方が責任を持ちなさい」

「……言われなくても」

「いえ、残念ながら今回は信用できません

 ですので貴方は七殺(ザミディムラ)と毎日会いなさい……そして彼女の現実と直面なさいまし」


 口調は優しいが、最早失望寸前の言葉の数々が突き刺さる。

 その表情を見たのか鳴下(なりもと)が呆れの溜息を吐く。


「何を勘違いしてますの

 私は貴方に一切失望してませんわ……寧ろ彼女の問題を解決できるのは貴方しかいないと思ってますの」

「そういう物なのか……?」

「そ、そういうものです……!

 あんまり追求するなら走り込みも追加いたしますわ!!」

「勘弁してくれ……」


 彼女の言う走り込みとは言うまでも無く鳴下神楽を成立するための鍛錬(苦行)に違いない。

 もう怒っているのか首まで真っ赤にしてそっぽを向く鳴下(なりもと)を必死で宥め続けた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




(どうやら、私無しでも大丈夫そうですね)


 部屋の外で彼らに振舞うお茶を用意しながら、漏れ出た話を盗み聞く。

 ふと喉奥が苦しくなり、お盆を退避させてから静かに咳き込む。


 手にはべっとりと血が付いていた。


(……日頃の行い、ですな)


 唐砂(からさ)は手についた血を洗い流しながら、己の死期が既に近いと悟る。

 そうすると心残りなのは残される鳴下雅(なりもとみやび)の心労についてだった。


(棟梁殿も酷な事を……

 ですがお嬢様の人徳で、今や私に次ぐ理解者が出来ておられる)


 それは鳴下(なりもと)の隣で、頭を働かして窮地を突破してきた八朝(やとも)の事である。

 少々……どころかかなり抜けている所はあるが、そこは記憶が戻り次第どうにでもなるだろう。


 だが、何よりも……


『彼は、私の鳴下神楽を正当に評価しました

 どういった経緯かは分かりませんでしたが、結果には変わりありません』


 そう言って、自分には見せた事のない微笑みを見せてくれた。

 それが八朝(やとも)を信じる決定打となった。


(ですが、七殺(ザミディムラ)殿をダシにするとはまだまだ教育がなっておりませぬ、お嬢様)


(ですので、私もただ天命に黙って従う訳にはいきません

 お嬢様の為にも、まずは一から礼儀作法というものを……)


 そう心の中で呟き、話の終わりを見計らってドアをノックする。


「お嬢様、お茶をお持ち致しました」

続きます

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